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勇者一行と貴族
しおりを挟む勇者一行についていくことになった私は、取り敢えずクーフーリンの横を陣取ることにした。放っておけない感じがするし、目を離したら一人で突っ込んでいきそう。
「宜しくね、クーフーリン」
「…あぁ」
クーフーリンは、無愛想に返事を返す。
なんというか、彼は無口である。付き合ってまだ何分と経ってないが、分かる。てか、クーフーリンて名前が長い。もう少しコンパクトにならんものか。
「クー…クーフーリンて名前は長いから、これからはクーって呼ぶね。」
「…別にどうでもいいが」
「クーちゃん」
「…死ね」
「おぅっ…グサッと来たよ、クー。あ、クーってさ、オレンジって感じがする」
「…そうか」
オレンジジュースのあのキャラが思い浮かび、思わず吹き出しそうになる。あのとんがっている所がクーのフードと同じ感じで…ププッ。しかも、色もまた近い。これは、運命か。
「あっ、そうだ茜。この帝国で勇者一行は何を成すの?王道なら、勇者召喚で呼び出されて魔王討伐を命令されると思うんだけど」
「貴方…もしかして」
「よく知ってるな。そう、俺達は王命により、ここに来た。詳しくは宿屋で話そう。あそこは俺達の最強結界が貼ってあるからな」
何が言いたげな茜を無視してマサキが話に乱入してきた。なんとも空気が読めない男である。茜がなにか言おうとしていたのに。
彼らが泊まっている宿は、帝国の貴族街の一角に鎮座する高級宿屋、「トーラムの宿屋」である。貴族が入り浸るほどの宿屋に泊まっているということは、彼らは相当なお金持ちだということを示している。
「マサキ達って、お金持ちなんだね。質素な生活をしていると思ってたんだけど」
「当たり前にゃ!!お前はマサキのことを馬鹿にしすぎにゃぁ!!」
私がなにか言えばすぐに突っかかってくるミーシャ。
構ってちゃんなのかなぁ。ところでそのお耳、触ってもよろしいでしょうか。
「ミーシャ」
「な、なんにゃ?」
急に真剣な表情に変わった私を見て、ミーシャは何を感じたのか、フリーズした。そっと頭に手を伸ばすと、ギュッと目をつぶり、ツンツンなネコ耳がしなった。フニフニと猫耳を触る。
「みぎゃぁ!!」
バッとその場を飛び退き、ミーシャはリサーナの後ろに隠れ、フーッフーッと唸り声を上げた。リサーナはミーシャを守るように私と距離をとる。
「変態!!スケベ!!うぅ…もうお嫁にいけないにゃぁ」
「大丈夫ですか!?ミーシャ!!…このッ変態!!」
「ふんっ!嫌も嫌よも好きのうちだぞぅ!」
キッとリサーナにも睨まれるが、耳を触ったぐらいで大袈裟すぎやしないか?本当は尻尾を掴みたかったんだ。これでも譲歩したんだからな。
グイッと腕を引っ張られ、何だと振り向くと、茜が恐い顔をしていた。
…これが女子力。
「るし、今のは貴女が悪いわ。謝った方がいいと思う」
「え、なんで?」
「なんでって…貴女、この世界の人なのにそんなことも知らないの?」
「うん」
はぁ、と茜が可哀想なものを見る目で私を見て猫耳を触っては行けない理由を事細かに説明してくれた。
曰く、獣人の耳や尻尾は、その人の家族しか触ってはいけないらしい。ミーシャにとっては、それが夫に当たるらしく、不容易に触ってはいけないとか。
「ごめんね、ミーシャ」
私が謝ったことに驚いたのか、ミーシャはおずおずとリサーナの影から現れた。泣いたのか、目元が少し腫れている。
「分かってくれたなら、別にいいにゃ。今度からはやるにゃよ?」
それは振りかな?
ここですかさず、フニフニと猫耳を堪能する。
「にゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちょっ、るし!!マサキ、止めて!!」
「え、俺?イイじゃん楽しそうだし」
わいのわいのと宿屋の前で騒いでいると、貴族が集まってきた。
流石にうるさくし過ぎたかな。ここは潔く謝ろう。
すぅっと息を吸い、第一声を放とうとした時、貴族側から嫌味ったらしい声が上がった。
「はんっ!昼間っからベタベタしやがって。勇者サマはいいご身分だなぁ」
でっぷりと腹がズボンからはみ出た貴族の言葉を聞いた5人はピタリと止まった。それを見た他の貴族も小馬鹿にするような態度を取り始め、マサキ達の顔が苦渋に満ち溢れた。
何故言い返さないのかと不思議に思い、茜を見ると、バチリと目が合った。ゆっくり首を振った所を見ると、どうやら言い返せない理由があるようだ。
リサーナとミーシャは唇を血が滲むまで強く噛み、クーフーリンに至っては、貴族を冷ややかな目で見ていた。
「勇者って言ったって、ただの小便臭ぇガキだ。こんな奴らに他の大陸の魔王は倒せるわけないわな」
「そうだな。来訪者は権力誇示のただの飾りだろうに。可哀想な」
「見ろ、上玉が揃っている。おい、そこの青臭いガキとより、俺らと遊ばねぇ?」
などと言って、下卑た笑い声を上げ、舐めるように茜たちを見た。マサキの限界は底が浅かったようで貴族に拳を振り上げたが、それを茜に取り押さえられる。
「茜、アイツらに言われて悔しくねぇのかよっ!!…っお前ら!!散々言いやがって。ぶっ殺すぞ!!」
「駄目!!マサキ!!」
「おーおー、勇者というのは、素行が悪いとお見受けする」
「恐ろしいですなぁ。これでは、勇者ではなく魔王ではありませんか」
再び貴族から嘲笑が上がり、マサキは怒りで顔が真っ赤なトマトのようになった。
私はメニュー画面を出し、ある装備をタップする。
例えマサキがどんなに嫌味で酷いやつであったとしても、今は大事なパーティーメンバーである。そんな大事な仲間がどこぞの馬の骨に馬鹿にされるのは許せない。
『○黒龍の軍服一式を装備しました』
王の威圧もonにして、と。
「私の友を愚弄するのは止めてはくれないか?貴族殿」
「あ?何を言って…って…軍服ぅ!?」
おや、聞いたことがあるような無いような声が聞こえた気がしたのだが。
うん、気のせいだね。だって、忘れてたら私は若年性認知症ではないか。
「私は、私の友をどこぞの阿呆が馬鹿にするのは許せない」
「だが!貴様らは人としてー」
ただ、と言い、貴族を黙らせる。
一度お灸を据えないと、貴族はキャンキャン五月蝿いのだ。それに、根に持つタイプが多い。
貴族=面倒臭いこと極まりない。
「ただ、私たちにも責がある。宿の前で騒いでいたからな。それは、営業妨害に通ずるだろう。だが、貴様らにも比があるのではないか?なぁ、ホーキンス」
「ぐぬっ…」
あ、そうだ。ホーキンスだ。スラスラと名前が出てきた事に驚いたよ。流石は私。
ホーキンスは顔を蒼白にさせ、滴り落ちる汗を白いハンカチで拭き続けている。ハンカチには黄色いシミが出来ていた。
「ここで去るのならば、我が友を愚弄した罪は不問としよう。しかし、今ここで一言でも言ってみろ?私は貴様らの舌の保証は出来んぞ」
「ひ、ヒィィィィィ!!」
「お、おい!お前達待て!!」
ホーキンスの従者たちは主を置いて逃げ出し、他の貴族達も我先にとこの場を走り去った。一人残されたホーキンスは、額に青筋を立てながらも顔を茹でダコのように赤くさせ、湯気を立たせた。
よくこんな芸当が出来るものだと、思わず感心してしまった。これが彼の少ない特技の一つなのだろう。
「お、覚えていろぉぉぉぉぉおおおお!!!次に会ったら、命はないと思え!!」
捨て台詞を残し、腹の贅肉をタプタプと揺らしながら先に逃げた従者たちを追った。途中で石につまづき、転んだのは言うまでもない。
雑魚キャラの捨て台詞、ごっつぁんです。
再度 怪盗一式に着替え、ずっと黙っている仲間達の方を見た。
「ほら、早く宿に入ろ?また面倒事に巻き込まれちゃうよ?」
「…お前、貴族の間に悪い意味で顔が広いけど、何者?」
「え?だから、ただの通りすがりの正義の味方だって」
途端にブッと噴き出すクーフーリン。普段は全然表情を変えることのないクーフーリンに呆気に取られるマサキ達は、驚きの表情を浮かべた。
そこは、笑うところじゃないと思うんだよ、クー君。と言うか、クーが笑ったの初めて見た。まぁ、会って数分なんだけどね。でも、やはりどこか懐かしい気がするんだよ。
なおも笑い続けるクーフーリンは、自身の顔を手で覆う。
イケメンの顔が勿体ない!!ほら、手を退けてお姉さんにお顔を見せてご覧。
手を取ろうと近づくが、絶妙なタイミングで離れられる。
「クー待ってぇ!!」
「…近づくな」
「待ってよーカバディカバディ」
「プッ…だから近づくな!!」
「カバディカバディ?カバディー!!」
両手を広げ、蟹股でクーフーリンに近づいていると、ブフォッとマサキと茜も噴き出した。
皆、笑いすぎだよ。この動きは今学校で流行っているんだからね。そんなに笑うんだったら、ここでも流行らせちゃうぞ?
ミーシャとリサーナは、訳が分からないという風に、首を傾げた。
まぁ、これが分かるのは異世界人の2人くらいだろう。
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