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どうしてこうなった
しおりを挟むこんばんわ。遅くなってすみません!!
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「…失礼します」
「あ、あぁ」
封魔の白布を広げ、男の人の瞼が隠れるようそっと上に乗せる。
「これでいいのかな?」
「うむ。見ていれば分かる」
鷹揚に頷いたヴィネは男の人の腹部に巻かれていた包帯を巻き取り、亜空間から取り出した赤い液体が入った試験管を傷口に振り掛けた。
血のように赤い、明らか危なそうなものに見えたんだけど…。毒じゃないよね?拷問好きなベリトであるまいし。
色のことを考えると、ポーション激薬版のようにも思える。
「ヴィネ、今のはポーション?だよね?」
「あぁ。フルポーションだ。死者蘇生薬に匹敵するほどの回復効果がある。が、さすがに死者を蘇生させるほどの性能はないぞ?」
ヴィネは空になった試験管を横に揺らし、興味が失せたように宙に放り投げた。
それは床に落ちることなく、空気中に溶けていった。
私はそれを視界端で捉えながら、顎に手を添える。
ヴィネの言うとおり、あのフルポーションがエリクサーに匹敵するのならば、将来的にはエリクサーが作成可能になるかもしれない。
チュートリアルの時、東堂さんがエリクサーは存在しないって言ってたけど、それは存在しないだけで、作ることは出来るのかも。
このストーリークエストが終わったら、早速制作に取り掛かってみよう。
でもあれ?
エリクサーはどうやって作るのだろう。いや、それを含め、調べることは大前提として。
まずポーションの作り方もさっぱりだから、基本から学んでいくのが大事かも。
役職柄から言って、錬金術師辺りなら何か言ってるかもしれないんだけど、生憎知り合いに一人としていない。
ベリトに頼るのは何か負けた気がするし…。それに、どうせなら皆をアッと驚かせたいし。
「ん、効いてきたみたいだな」
ヴィネの声にパッと目を開け、男の人の腹部に目をやると、傷口が塞がり始めていた。徐々に徐々にだけど、パックリと裂かれた切り傷が肉と皮膚を形成し始めている。
ヴィネの目潰し攻撃が入らなくてよかった。いや本当に良かった。
ホッと胸をなで下ろし、再生しきった場所をつついてみる。
おぉー!
硬い!シックスパックが凄い!!硬い!!
贅肉がない!羨ましい!!
人差し指の連打に、男の人は身じろいだ。
「あまりつつかないでくれると助かる」
「あ、ごめんなさい」
ついつい触れすぎてしまったようだ。
間近でシックスパックを見る機会がなかったから興奮してしまって。申し訳ない。
「るし。汝は我のを見る機会が幾度となくあったではないか。そんなに腹が割れているのが珍しいのか?」
「お風呂では、顔から下には目を向けておりませんので!ノーカンです」
不思議そうに首を傾げるヴィネに、私は両手をクロスさせる。
確かにお風呂ならいくらでも筋肉を眺めることが出来るのだけど、私としては恥ずかしくて頂けない。
逆上せてしまうくらいに、恥ずかしいのだ。
家族風呂は好きだけど、せめて異性とはあまり入りたくはないものである。
上半身の包帯を取り除き、フルポーションをぶっ掛ける作業を何度か行ったところ、男の人は完全に回復するまでに至った。
元からあったであろう古傷も消え、スベスベとなった肌を指先の腹で押す。
「どこか痛むところはないですか?」
「ない、な。世話を掛けた……ん?」
私の問に帰ってきた声音は、低いテノールの声でなく、変声期が始まる前の男の子の声。
返答を返そうとした彼も動揺したのか、しなやかな手を自分の喉元に運んだ。
「…へ?」
裏返った声が、男の心情をありありと示していた。
どうなってるの?声が、若返ってる?
私は手を伸ばし、目を隠している封魔の白布を少し捲った。
私の記憶が正しければ、この人の目元には濃いクマができてきたはずだ。
なのに、全くない。健康そのものだ。しかも、顔立ちに幼さが現れている。
光を通さない真っ暗な瞳と目が合い、慌てて逸らす。
私の目の前に横たわっているこの人は、何故かは分からないけど、若返ってる。若返っているのだ。
封魔の白布にはそんな効果なんてついていなかったと思う。
…となれば、だ。
私は半目でヴィネを見上げた。
「まさかヤツの作ったフルポーションに若返りの効果があるのはな。ふっ」
「ふっ、じゃない!ふっ、で終わらせちゃ駄目だよ!?」
口元を釣り上げるヴィネの脇腹をつまみ、不適の笑みを崩させる。
睨んでも怖くないぞ!あ、指ポキポキ鳴らすのやめて下さい。
すみません、物凄く怖いです。
パッと手を離し、手を耳の高さにまで上げ、数歩後ろに下がる。
「ヴィネさんや。取り敢えず、この人の状態を確認した方が宜しいんじゃないでしょうか」
「何、汝が心配することはない。コヤツの状態は万全。フルポーションを使ったのだ。心配はなかろう?」
「ひぃえぇぇ」
ここにギムレットがいれば…!!
そう思いながら、私はジリジリと後退する。
ドンッと、背中に硬いものの感触がし、壁に行き当たったことに気付く。
や、ヤバい!
ヴィネが私の距離を縮め、恐ろしいくらいに大きく感じる右手が顔に迫る。
息が、止まる。
ヴィネはチョン、と私の鼻をつまんだ。
「く、ふはははっ!我が力を振るうのは、戦いの場でのみだ。そう怖がらなくてもよいぞ?」
「う、うん」
ウォッカに頭を叩かれたのがトラウマか、人の手が伸びるたびに頭を守る体勢が身についてしまったようだ。
止めていた息を吐き出し、ヴィネの横を抜けて若返ってしまった男の人の元に戻る。
「会話だけ聞いていたが、お前達は恋人か?」
「「ぶふぉっ!!」」
彼から飛んできた純粋な質問に、私とヴィネは盛大に噴き出した。
「…ん?違うのか?そうにしか聞こえなかったが…」
「ふ、あははっ!やばい、やばいよヴィネ!!腹筋が殺られそう…!!」
「わ、我に言うな。ふは、ふははははっ!!」
バシバシと自分の膝を叩き、笑い続けているヴィネは膝をついて天井を仰いだ。
私も口に手を当て、何とか笑いをこらえようとするも、ヴィネと目が合いさらに噴き出してしまう。
男は訳が分からないと言ったように体を起こした。
ーーその時だった。
ハラリと封魔の白布が男の瞼から落ち、シーツの上に落ちた。
次の瞬間、男の目に青白い光が収束し、圧倒的な熱量とともに眩い光線が放たれた。
「「あはは…………は!?」」
それは木造の壁を容易く突き破り、外に広がる景色に色を残していく。どこまで伸びたのかは定かではなかったけど、少なくともこの貴族街の外まで行ったんじゃないだろいか。
たった3秒の中で起こった出来事に、私たちは口をアングリと開け、まるで夢遊病に侵された病人のように、フラフラと壁に開いた大穴に近寄った。
まだ空気中に青白い線の余韻が残っている。
…もし、ここが一階だったら。
ゾッとした。
焼け爛れた地面と建物が脳裏を過ぎる。
二階の一番北側の部屋だったからこそ、怪我人が0で済んだ。
黒焦げた板に触れると、灰のように風にさらわれていく。
「…どうしてこうなった」
さっきまでは笑ってたのに、と口に出す前に目をキツく瞑る。
1階から上がる喧騒と階段を登ってくる音が耳にかじりつき、私は焦りと罪悪感で涙目になった。
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