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平安時代の大晦日は追儺(ついな)です
しおりを挟む十二単を身に纏った女性たちが、わらわらと宮中や貴族のお邸に仕える今日この頃。
大晦日を迎えた宮中では、追儺が始まっていた。
亥の刻(午後十時くらい)、小雪の舞う中、
「おにーやらーいー、おにーやらーいー」
独特の節回しで声を掛けながら、方相氏たちが、大内裏の中を歩いて回る。
宮中では、十二月十三日頃にすす払いを行って(若い殿上人などが行う)、様々な仕度、掃除、儀式に宴を経た後に、大晦日のこの日『追儺』を行うのである。
宮中を練り回る方相氏の姿を見て、
(山科の姫ならば、『きっと千年後には『節分』とか言われてると思うわ!』というのだろうね)
などと思いながら、六月に即位したばかりの帝は、くすっと笑った。
方相氏は、規定の装束(玄衣朱裳)を来た上に、金色の四つ目の面を掛けている。面と言っても、紙に書いたようなものであるから、のっぺりとしていて、不気味なことこの上ない。
実際、小さい皇子達は方相氏の姿を見て逃げ惑い、泣きわめいていた。
「……主上、宴の席も終わりましたゆえ、お早くお休み下さいませ。明日は、はっきり言って殺人スケジュールです」
傍らにやってきたのは、蔵人(帝付の秘書)の小槻氏だった。小槻氏は、代々蔵人となることが多かった上、帝とは元々昵懇で―――今年の春頃の『事件』では、身を隠すのに実家に住まわせて貰った経緯もあるし、妹姫を入内させたい意向もあったので、秋の除目(定期的に行われる昇級)をもって蔵人に配した。
「ああ、そうだねぇ」
帝は、明日―――元日の儀式を思い浮かべた。
帝が一年の内に一番忙しいのは、間違いなく、元日だ。もし、ここで改元や即位などと言われたら、おそらく帝本人よりも、通常温厚な侍従達がブチ切れることだろう。
まずは、四方拝、これが早朝薄暗い中から始まって、とにかく、あちこちに向かって拝礼拝礼拝礼の連続。この時ばかりは、黄櫨染御袍という、天皇だけが着ることを許される袍を纏って、したがって、冠も長々としたもので、それで、庭先で行うのである。
一年の初めに、帝が国家と民の安寧を祈願する大切な行事はあるが、正直、大変だ。(このまま雪が残らないことを心から祈っている)
それが終わって、着替えてすぐに節会。
去年一年の臣の働きなどに依っては、この時、加級(昇進)の話が出たり、いろいろ。
そこから、大体二十三日頃までは、毎日何らかの『正月行事』がある。
儀式毎が多いのは仕方がないが、こうも多いと気分が萎えてくる。
「大体、今年は杜鵑帝(先帝・実敦親王)の件だとか、色々ありすぎたよ。……蔵人、君の妹も、入内承知してくれると有り難いんだけどね」
蔵人は、答えなかった。
方相氏の声が、宮中に響く。
「まあ、良いか。……とりあえず、君の妹も、出仕はしていることだしね」
「なし崩し的に入内に持ち込むのは、おやめくださいませ」
今度は帝の方が答えなかった。
「おにーやらーいー、おにーやらーいー」
鬼を追い払うこの言葉を聞きながら、帝は一つ呟いた。
「鬼憑きの姫が欲しいのだから、追い払われては困る」
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