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99.わたくし、無事に、結婚するのよ
しおりを挟むわたくしの懊悩など全く無視した香散見さんは、暢気にこんなことを宣った。
「高紀子~。ねえねえ。いっそのこと、しばらく、明石とかの田舎に引っ込んで大人しくしてようか」
それは身の危険はなくなるでしょうけれど、その間に、香散見さんの席もなくなるわよ。
都の一大事に、引っ込んでしまった東宮―――。
それは、無責任にも程がある。そうなったら、きっと、東宮に相応しくないとかなんとか言われて、そのまま、廃太子一直線!
わたくしが、その通りに申し上げたら、香散見さんたら、まったく他人事みたいに仰せになった。
「えー……まあ、それも良いんじゃない? アタシは別に、高御座に上るのだけが人生だとは思ってないからさぁ。ホント、アタシと二の宮が逆だったら良かったのにね!」
きゃらきゃらと笑う香散見さんを見て、わたくしは、深々と溜息を吐きましたわよ。
「香散見さん、それ、絶対に、二の宮さまには仰せにならないでくださいませ」
「なんで?」
「二の宮さまの、火に油を注ぐようなものですからっ!」
「そういうことなのかしらねぇ?」
ああ、この方、なんというか、鷹揚というか……違うわ、鈍いのよっ! 人並み外れて、鈍くていらっしゃるのっ! だから、その超鈍い香散見さんが、二の宮さまのお気持ちを鑑みることなんて、絶対に出来ないわけよ。
「あ! そうだわ。ここは、逆に行きましょう!」
「逆? どういうこと?」
香散見さんは、不審そうに、首を傾げるので、わたくしが懇切丁寧に説明して差し上げることにした。
「つもり、今まで、病勝ちで、梅壺からお出にならなかった東宮様が、外に出て、バリバリお仕事をなさっていたら、それこそ、二の宮さまも、五の宮さまも諦めると思うのです」
「えーっ? それは、正論だけど、面倒じゃない?」
香散見さんは、断固、働きたくないらしい。ああ、この方を高御座にすえるなんて、私は怖ろしくて、絶対に無理だわ。
「で・す・か・らっ! わたくしは、考えましたわ。うちの異母兄に、いつも通り影武者をさせて、表に立たせておけばよろしいのです。異母兄上は……まあ、多分、死なないと思います。存外、あの方、いろいろ鍛えておいでですから。無茶なことばかり要求されるものだから」
わたくしの言葉を聞いた香散見さんは、「そうよ! それが一番だわっ!」と叫ぶ。
「問題は……主上にバレないかと言うことですけれども」
「大丈夫、大丈夫。主上がアタシの顔なんて、覚えているとは、到底思えないもの。だって、帝よぉ?」
どういう理屈だろうかとは思ったけれど。
存外、ノッてくれたから、わたくしは、これで、二の宮さまたちの企みを暴かなければならない、ということだ。
そして……わたくし、無事に、結婚するのよ。
ちょっとだけ、大丈夫かしら、と不安になった。
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