オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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07.わたくし、これから、どうなるの?

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「そうよぉ? 大人しく言いなさい」

 香散見かざみさんの妖艶な眼差しが、わたくしを射る。膝が、触れる。

 今は、女房装束を纏った姿で、まったく、ただの女性に見えるけれど、本当は、多分……男の方。

 わたくし、男の方と二人きりでいるのだと、今更ながらに自覚してしまって、怖くなってしまった。

「あ、あのっ……」

「だーいじょうぶよ、別に、命まで取って食おうっていうわけじゃあないんだから。それとも、命を奪ってほしい? まあ、アタシだって、二条関白家を敵には回したくないから、アンタのことは……殺したりしないわ」

 そうでなかったら、この方、わたくしの命を取ろうというのだろうか!

「あ、あなたは……、東宮殿下、ですよね? ……なぜ、こんな、女装束をお召しなのですか?」

 奥歯が、かみ合わなくて、ガチガチと歯が音を立てている。

「何でだと思う? 高紀子」

 東宮殿下の手が、私の腰を捕らえた。

「ひっ!」

 腕の中に抱き寄せられてしまって、わたくしは混乱する。どうして、何故?

 香散見さん……いいえ、東宮殿下は、女物の装束をお召しなのに、体つきはとても逞しくて、ぎゅっと腕の中に閉じ込められてしまったらあらがうことさえ出来なかった。

「と、東宮殿下っ!」

「大丈夫よ、高紀子。……もうすぐ、女房が来るわ」

 東宮殿下の言葉の意味は、よく解らなかったけれど、どうやら、女房が今から来るらしい。そして、その予告通りに、女房がやってきた。東宮殿下の側に、ささっと寄ると、ふみを捧げ持つ。

 わたくしは、東宮殿下の腕の中に閉じ込められたままだ。

「……東宮殿下」

 女房さんの、呆れたような声がした。わたくし、この女房さんに、不品行な女だと思われているのではないかしら……。そう思うと、恥ずかしくて、涙が出る。

 第一、今の、この状態を、実敦さねあつ親王が御覧になったら、一体、どう思われるだろう……。

 きっと、わたくしは、あの方を裏切ったと言うことになって……そして、憎まれてしまうんだわ。だって、東宮殿下は、実敦親王にとって、お年は離れているけれど、実の兄弟ですものね……。

「なあに? なにか、文句があるの? 初花はつはな

「差し出がましいことを申し上げますけれど、その方は、弟君と結ばれることが既に決定しておりますが」

 女房さんは、わたくしに、哀れんだ眼差しを向けて下さった。

 どうか、もう一押しして下さいませ! と私は、眼で訴える。けれど、初花さんと呼ばれた女房は、わたくしに眼で語りかけていた。


  ―――『諦めて』。


 なぜ、なぜ、わたくしが諦めなければならないのだろう。

 だって、酷いことをなさっているのは、東宮殿下なのに。

「文を見せて上げるわ……あ、畏れ多くも宸筆しんぴつ(天皇の直筆)だから、心して扱って頂戴? 少しでも破いたら、咎めを受けるわよ~」

 ほほほ、と東宮殿下は笑っておられる。

 わたくしは、文を受け取って、「うそよ」と呟いて、倒れそうになった。それくらい、文面は、私にとって、いいえ―――多くの人にとって、衝撃的な内容だった。

 文には、こう書かれていた。



『藤原高紀子に東宮への入内を命じる』



 附記として書かれたのは、『実敦親王との婚礼は取りやめとする』ということだった。

 しかも……これは宸筆。その上、勅命。勅命に背くことは出来ない。背けば、朝敵と見なされてもおかしくないのだから。

「だ、だって……」

「まあ、アンタが、いくら、泣きわめいても、無駄よ?」

 気がついたら、わたくしは、背中に、床があると感じていた。床に、横たえられてしまったのだ。その先のことは、勿論、わたくしだって知って居るけれど……。

 それは、わたくしは、東宮殿下ではなくて、実敦親王と結ばれたくて、勉強していただけで……。

「これで、もう、アンタはアタシの女御よ? 大丈夫。他にも、女御はいるけど、ちゃんと大事にするわ。アンタの大事な実敦よりも、ね?」

 頬に口づけられて、わたくしは、頭の中が真っ白になるのを感じていた。
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