オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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10.わたくし、着替え中です!

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 わたくしが思うに、東宮殿下という御方は、きっと、自由な方なのだと思う。

 おそらく、ご自分の思い通りにならなかったことなんて、今までの人生で一度もなかったのでしょうし。だから、わたくしが、入内を拒みたいと思うなんて、露にも思って居ないだろうし。

 きっと、他の女人にょにんのように、東宮妃になったほうが、親王妃よりも良い……なんてことを考えていらっしゃるのでしょうけれど。

 世の中には、純粋に恋焦がれる気持ちというのだってあるのですからね!

 もちろん、わたくしは、それを面と向かっていうほど愚かではないので、とにかく、東宮殿下の思し召しにしたがうほかない。


 つまり、わたくしは、この宮中で一晩過ごすと言う時に、凝花舎ぎょうかしゃに滞在することになってしまったし、なし崩し的に、『表向き』出仕ということになってしまって、そのまま、一度も実家さとへ戻ることなく、このまま入内という怖ろしい道筋が待ち受けているところなのだ。

 ここまでされたら、もう、笑うしかない。

 わたくし、実敦さねあつ親王に、思いを寄せて頂けたことを、一生の思い出にしていくと心に決めたので、それで良い。

 東宮殿下は、入内の夜―――初夜まではわたくしを妻にするという意味で『抱く』ことはないと仰せになって下さったから、とりあえず、それを信じて。

「ねーぇ、まだあ? アタシいつまで簀子すのこに居ればいいわけ?」

 一応、まだ、『嫁入り前』ということで、着替えるときには外に出て頂いた。それくらいは、わたくしも、主張しますわよ。夜着用の小袖など持ってきていなかったので、致し方なく、東宮殿下からお借りした。

 この東宮殿下は、なんのご趣味だか、わたくしたちと同じ女房装束を纏っていらっしゃる。

 しかも、表向き中宮さまだとか東宮殿下(ご自分だけど、病で伏せっていることにして居るらしい)だとかにお仕えしているという設定らしく、女房装束も省略なしでお召しだから。

 つまり、小袖(下着)の上にひとえ薄衣うすぎぬを重ねた『五衣いつつぎぬ』(五枚というわけでもない)に、表着うわぎ、唐衣、裳という一式をお召しなのだけれど、上背があるので、とても迫力がある。

 わたくしは、下着である小袖をお借りして、着込んだのだけれど……薫りが……、東宮殿下のもので、肌に近い所に纏ったものだから、香に混じって、男の方の、匂いを感じるので、とにかく落ち着かない。

 これが、きみのものならば、『後朝きぬぎぬの衣の』のようで、艶めかしくて、嬉しくなるのだろうけれど。

「やっと着替え終わったのね? ……だからアタシが手伝った方が早いって言ったじゃない」

「いやですわよ! わたくし、不埒なことをされたくありませんもの」

 ふい、とわたくしは東宮殿下から顔を背ける。そんなわたくしを見て、東宮殿下は、「くすっ」とお笑いになってから、からかうようにわたくしにいう。

「そぅお? 案外、期待しているんじゃないの?」

 東宮殿下は、わたくしを弄んでいらっしゃるのだわ。本当に、腹立たしい。なんでもご自分の思い通りになると思って!

「なにを怒ってるのよ……さ、高紀子。アタシの着替え手伝ってよ。これ、脱ぐの大変なのよ―――脱がせるのは好きなんだけどね~」

 薄暗がりの中、なんてことを仰有るのだろう!

 わたくしは、仕方がないと思いつつ、東宮殿下のお側に立って、唐衣、裳裾……と順番に脱がせて差し上げた。五衣は、少し思案したけれど、一枚ずつ脱いで頂いたら、

「高紀子って、ちょっとずつ脱がすのが好きなのね。焦らされるのが好きだとみたわ!」

 なんて勝手なことを仰せになって、わたくしを抱き寄せてしまった。

「東宮殿下っ!」

 小袖と長袴という軽装の東宮殿下の胸の中で、わたくしは肌の体温を布越しに感じた。

 こんなに、薄着で近づいた事なんてなかったものだから、わたくしは、気が動転しそうになって、思わず、東宮殿下の胸にしがみついてしまった。

「言ったでしょ? アンタを抱かないけど。たーっぷり抱きしめるから。その方が、お互い、『仲良く』なれるわ。本当よ?」

 東宮殿下が、にっこりとお笑いになったのを感じながら、ワタクシは、気が遠くなりかけた。
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