オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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51. わたくし、色めき立ちましたわ

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「なにがしの廃院とかに、女の子連れ込むの、やってみたかったのよね~」

 香散見かざみさんは、うきうきしていらっしゃるけれど、わたくしは断固拒否! の気分ですわよ。

「いやです。不吉です! ……夕顔だって、そうやって死んだじゃないですか」

「六条御息所に取り殺されて?」

 ふふ、と香散見さんが笑う。

 夕顔というのは、『源氏物語』に出てくる女の人。源氏の身分の低い恋人だったのだけれど、元々、源氏の正室、葵上のお兄さんで、源氏とは親友の頭中将の愛人(しかも、頭中将との間には、子供まで居る!)。

 源氏の君はそれを承知の上で、夕顔と付き合って、ふたりで廃院でいちゃいちゃしてたら、その当時源氏が付き合っていた身分の高い恋人……六条御息所に取り殺されてしまったという哀れな女性だ。

「だーいじょうぶよぉ、アタシの妃で、アンタに嫉妬するような女は居ないから」

 それは、わたくしが、勝負にならないという意味にも聞こえて、ちょっと、気分が悪い。

 確かに、わたくしは、ほかのお妃さまたちより、大分年下だし、胸もありませんわよ!

「というか……普通に不気味で嫌です!」

「じゃあ、ちょっと、牛車でいちゃいちゃしてよっか」

 牛車は……割と広い。今日の牛車は、四人乗りのものだったから、わたくしと香散見さん二人で使っているのはちょっと贅沢よね。まあ、牛は、疲れなくて済むのかも知れないけれど。

 香散見さんは、わたくしの腰を捕らえて、密着させた。香散見さんの身体を、間近に感じる……とはいえ、わたくしも、香散見さんも女房装束だから、はっきりと言うと、装束が分厚くて、お互いの身体の熱までは届かない。それに、ちょっとだけ、わたくしは、ほっと安堵している。

「……アンタは、おじさまのところを探ろうとしてたんでしょ?」

 香散見さんが、耳許に囁く。かりっ、とわたくしの耳を噛んだ。

「っ!」

 鋭い痛み。なのに、何故か甘さがあって、わたくしは、変な声が出るのを、すんでの所で堪えた。

「アタシにはお見通しなのよ。素直に吐きなさい……悪いようにはしないから」
 
 うふふ、と香散見さんは笑う。

「今から行く廃院は、五の宮の住まいの近くなのよ。おそらく、破れた垣根から五の宮の邸内の様子が探れるほどに……ね」

 なんですって……っ!

 わたくしは、俄然、色めき立ちましたわよ。

 それにしても、香散見さんってば、本当に侮れない。

 ホントに、わたくしといちゃいちゃしたかっただけなのか、それとも、五の宮さまのことを探る為なのか。判然としないけれど。
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