伏して君に愛を冀(こいねが)う

鳩子

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10.最悪の初夜

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 初夜には、さまざまなやりとりを必要とする。

 花嫁の被り布を花婿が取る。花婿と花嫁は二人が酒を酌み交わして、互いの簪を外してから、牀褥しょうじょく(ベッド)に入るのが手はずっだったが、皇帝は琇華しゅうかから被り布を剥ぎ取って、寝殿に向かいながら、乱雑に琇華からかんざしを取っていく。そのまま、玉や金鎖きんさの付いた釵は、乱暴に廊下に投げ捨てられていた。

「なにをなさるの! 妾の大切な釵よ!」

「大切な? ……また、作れば良いだろう」

 わざわざ、瑪瑙で作った白い牡丹の付いたかんざしを、皇帝は抜き取って、踏みつけていく。パリン、ともろい音を立てて、薄い瑪瑙が、割れた。

 琇華は、点々と散らばる釵や金歩揺、それに簪の残骸を見遣った。踏みにじられた心のようだった。

(なぜ、こんな乱暴な真似をなさるの)

 皇帝は、何かに憤っているようにも見えた。―――憤る。その理由がわからず、琇華は戸惑う。やがて、寝所へ入る。寝所は、濃密な甘い香りが漂っていた。香で満ちているらしい。

 初夜の寝所であるので、真紅一色だった。

 牀褥しょうじょくに敷かれた絹のしとねも真紅。うつもので作られた牀帷しょういも、真紅だ。皇帝は、薄物の帳を開いて、大人二人が大の字になって寝てもまだ余るほどの広い牀褥しょうじょくに、琇華の身体を投げ捨てた。

「きゃっ!」

 たっぷりと褥が敷かれているので、痛くはなかったが、まさか投げ出されるとは思ってもみなかったので、琇華は戸惑う。

 靴を履いたまま牀褥しょうじょくに上がってしまったが、褥に突っ伏していた琇華の足から、靴を奪って、皇帝は牀褥しょうじょくの外へと投げ捨てた。自らの靴も、そうしたのだろう。

丹史たんしねやの記録係)は、いるな?」

 新床にいどこには全く相応しくない、淡々とした口調で、皇帝は確認する。

「丹史……?」

「あなたの祖国にもあるのだろう? 閨での出来事を記録する。つまり……わたしが、どういう形で交接したかまで、子細、記録されるわけだ。……鳳翔で交わっただとか、龍翻で交わっただとか……精を女陰に放っただとか、そういう所まで事細かにね」

(信じられない!)

 琇華は、身をよじって、牀褥しょうじょくから抜け出そうと試みた。少なくとも、ほう国では、そんなことは聞いたことはない。ふざけて、いるのではないかと、本当に思ったが、牀褥しょうじょくの横で、女官が控えているのが見えて、顔色が青ざめた。

「妾は……秘事を、他人に見られるのは嫌です」

「これがしきたりだよ。……皇帝の房事は、国の大事に関わるからね。こうして、記録を付けなければならない。解ったかな」

「解りませんっ!」

 暴れる琇華の手を、皇帝が取った。白く、か細い琇華の腕は、容易く皇帝にねじ伏せられてしまう。恥ずかしいのと口惜しいので、琇華は顔を背けた。

「われわれは、晴れて夫婦になるのだから……諦めなさい。あなたが、泣こうが嫌がろうが、私には関係ない。私だってね」

 皇帝は、琇華の耳朶に口づけながら、そっと囁く。

「あなたの父親さえ、介入してこなければ、抱きたくもない女をねじ伏せて抱くこともなかった」

 皇帝の言葉は刃になって琇華の胸を抉る。

(抱きたくもない女……)

 それは、間違いなく、琇華のことだ。口惜しくて、口唇を噛みしめる。いつの間にか、皇帝にのしかかられている上に、腕は捕らえられている。些細な抵抗も、出来そうになかった。

 絹を切り裂く勢いで帯が解かれ、装束が剥ぎ取られる。

 女の扱い方は知って居るだろうが、皇帝は、酷く乱暴だった。すくなくとも、琇華をおもんぱかる素振りはなかった。脚を取られて無理やりねじ込まれた昂ぶりの熱さと、容積と痛みに身も世もなく泣きながら、琇華は、一応、娘としての嗜み程度で知って居る初夜とはあまりにかけ離れたやり方であることに、気がついて、泣くしか出来なかった。

 その道の本には、『陰と陽は反発しあうものであり、一方的に求めても悦楽は得られない』と書かれている。

 だから、男女が交接する際には、互いの情感を高めあい、女の身体が燃えたぎった頃に交わるべしと書かれている。燃えたぎった女の身体は、陰の門がとろりとゆるみ、男はそこへ、滾った玉茎を挿入する……と書かれている。どんな交接の形を取ろうとも、これは基本のことだった。

 皇帝は、酷いやり方をした。

 その道の本にあるように、情感が高めあうこともなく。従って、琇華は恐怖に戦くばかりで、ろくに前戯もしないままの所へ、無理やり交わった形だった。

 身を引き裂かれるような酷い痛みだった。泣き叫んで懇願しても、皇帝は引かなかった。一気に皇帝を受け容れると、そこが、ひりひりと、唐辛子でも塗り込めたように、酷く痛んだ。

 懇願も空しく、皇帝は自身が精を放つまで、無造作な蹂躙を繰り返した。その度に、酷い疼痛に、落ちかけていた意識が引き戻される。琇華は、何度も何度も、「助けて」と懇願していた。

 

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