12 / 66
12.皇太后
しおりを挟む
白亜の殿舎に入り、通されたのは、家族が団らんのひとときを過ごす為にもちいるような、部屋だった。
床に近い卓子に、低い椅子。故郷のお茶会を思い出す。こういうテーブルの上に、香りの良いお茶、それに美味しい茶菓子を用意して、お茶の時間を過ごしていたのだった。
実家を離れてみると、あのひとときが、どれほど貴重で愛おしいモノだったのか、よく解る。
卓子には、先帝と、皇太后が座っている。完爾たる笑顔を浮かべては居るが、威圧感に、肌がピリ、と刺激されるほどだった。先帝、蓮花帝は、齢五十を回っているはずで、確かにその顔には深い皺が幾つか走っていたが、象牙色の肌は艶やかで、張りがある。現皇帝と、眼差しが似ているが、もっと毒々しいような色気が漂っていて、琇華は怖ろしく感じる。
淋皇太后は、皇帝より十歳近く年若い方で、流石にみずみずしさを感じる事はないが、菩薩のような慈愛に満ちた眼差しをしている。
(それでも、このお二人は、妾を蕃国の娘と言って、嫌っておいでなのね)
琇華は切なくなって、涙が零れるのを止められなかった。
「皇后」
窘めるような皇帝の声を聞いた琇華は、はた、と気がついて、伏して拝礼する。
「慈愛ある両陛下のお姿をみたら、感動のあまりに胸が一杯になってしまいまして、涙を止めることが出来ませんでした。ご挨拶も済まないままに、申し訳ございません。伏して、お詫び申し上げます」
お詫びの言葉を述べると、「そんなことはどうでも良い」と皇帝が苛立たしげに、琇華を立たせた。
(いつも、苛立っている方……)
そんなに、堋国との婚姻が嫌だったのならば、黄金など諦めれば良かったのに、と琇華は思う。
「煌焔殿が、掌中の玉のように愛していた姫とは聞いているが、これほど美しい姫だとは思わなかった。こんなことなら、漓曄に帝位を渡すのではなかったよ」
はは、と先帝は笑う。煌焔は、琇華の父で堋国王だ。
冗談にしては、きわどい言葉だったので、流石に淋皇太后が窘める。
「陛下、また、女人好きの血が騒ぎまして?」
「いや、惜しいことをしたと思っただけだ」
「ご冗談でも、口にするのはお止めなさいませ。皇后ともなれば、血は繋がらずとも、わたくしの娘ですよ」
「勿論、余は、息子の妃を取るほど、道を踏み外すことなどしないよ」
先帝は、皇太后の機嫌を取るように、そっと、皇太后の口唇に指を触れる。仲睦ましいようすの二人を見ていると、羨ましくて、胸が痛む。
(妾には、こんな未来はないのだものね……)
目頭が熱くなってくるのを必死で堪えつつ、なんとか、微笑みを作る。
「父上、母上。この通り……まだ、稚い皇后ですが、これから、娘として、どうぞお導き下さいませ」
皇帝が拱手して拝礼するのに、琇華も倣った。
「皇后は、皇帝の後宮を束ねる重要な役目です。隅々まで目を配るようになさい。後宮の乱れは、国の乱れ―――情けなくも、わたくしは、その為に、この国を危機に晒しました。あなたは、そうならないように、よくよく、夫の行動と、端女に至るまで、すべての女達の行動に気を配るのですよ!」
「はい、……皇太后さま」
皇太后が、この国を危機に晒したというのは、どういうことか気になったが、この場で聞くのは気が引けたので、あとで、調べてみようと思った。しかし、それにしても、琇華は、孤立無援だ。おそらくは、しばらく、堋国へ文を書くことも出来ないだろう。
先帝、皇太后への挨拶を済ませて殿舎から出たところで、琇華は、安堵のあまりに眩暈がした。どうせ、皇帝に言っても、相手にもされないだろうと、手近に居た宦官を呼んで、輿を用意するように言う。殿舎に横付けするわけには行かないが、玄叡宮の入り口までは来て貰えるだろうと思ったのだった。
「お輿ですか?」
宦官が、驚いて聞く。か弱い皇后だと思われたかも知れないが、どうせ、皇后が使うという殿舎も解らないので、輿は必須だった。皇帝は、後ろも振り向かずに歩いているので、やはり、頼りにならない。
(なにか与えなければ、動いて貰えないのかしら)
与えられるモノと言ったら、釵くらいだ。髪から引き抜こうとしたところで、低い声に打たれた。
「何をしている」
皇帝の声だった。やはり、不機嫌そうで、殿舎から遠く離れていたのにもかかわらず、足早に琇華に近づいて来る。
「陛下……。妾は、歩いて殿舎に戻るのがむずかしいので……輿を頼んで居たところです」
小さな声でいう琇華、皇帝は一度溜息を吐いた。
「俥を用意している」
面倒そうに呟いて、来た時と同じように琇華を抱き上げて、すたすたと歩き出す。
間近で見る、整いすぎた無表情の下で、この皇帝がなにを考えて居るのか解らなくて、琇華は戸惑う。
「俥……を、用意して下さったのですか?」
問いに、答えはない。琇華を気遣って俥を用意した―――と言ってくれることを期待したことに気がついた琇華は、自嘲の笑みを浮かべる。そんなはずはない。
(きっと、良く気がつく宦官が手配してくれたのでしょう)
そう思うことにして、琇華は黙った。軋むほど胸が痛いのに、皇帝の腕は、なにかを勘違いするほどに温かかった。
床に近い卓子に、低い椅子。故郷のお茶会を思い出す。こういうテーブルの上に、香りの良いお茶、それに美味しい茶菓子を用意して、お茶の時間を過ごしていたのだった。
実家を離れてみると、あのひとときが、どれほど貴重で愛おしいモノだったのか、よく解る。
卓子には、先帝と、皇太后が座っている。完爾たる笑顔を浮かべては居るが、威圧感に、肌がピリ、と刺激されるほどだった。先帝、蓮花帝は、齢五十を回っているはずで、確かにその顔には深い皺が幾つか走っていたが、象牙色の肌は艶やかで、張りがある。現皇帝と、眼差しが似ているが、もっと毒々しいような色気が漂っていて、琇華は怖ろしく感じる。
淋皇太后は、皇帝より十歳近く年若い方で、流石にみずみずしさを感じる事はないが、菩薩のような慈愛に満ちた眼差しをしている。
(それでも、このお二人は、妾を蕃国の娘と言って、嫌っておいでなのね)
琇華は切なくなって、涙が零れるのを止められなかった。
「皇后」
窘めるような皇帝の声を聞いた琇華は、はた、と気がついて、伏して拝礼する。
「慈愛ある両陛下のお姿をみたら、感動のあまりに胸が一杯になってしまいまして、涙を止めることが出来ませんでした。ご挨拶も済まないままに、申し訳ございません。伏して、お詫び申し上げます」
お詫びの言葉を述べると、「そんなことはどうでも良い」と皇帝が苛立たしげに、琇華を立たせた。
(いつも、苛立っている方……)
そんなに、堋国との婚姻が嫌だったのならば、黄金など諦めれば良かったのに、と琇華は思う。
「煌焔殿が、掌中の玉のように愛していた姫とは聞いているが、これほど美しい姫だとは思わなかった。こんなことなら、漓曄に帝位を渡すのではなかったよ」
はは、と先帝は笑う。煌焔は、琇華の父で堋国王だ。
冗談にしては、きわどい言葉だったので、流石に淋皇太后が窘める。
「陛下、また、女人好きの血が騒ぎまして?」
「いや、惜しいことをしたと思っただけだ」
「ご冗談でも、口にするのはお止めなさいませ。皇后ともなれば、血は繋がらずとも、わたくしの娘ですよ」
「勿論、余は、息子の妃を取るほど、道を踏み外すことなどしないよ」
先帝は、皇太后の機嫌を取るように、そっと、皇太后の口唇に指を触れる。仲睦ましいようすの二人を見ていると、羨ましくて、胸が痛む。
(妾には、こんな未来はないのだものね……)
目頭が熱くなってくるのを必死で堪えつつ、なんとか、微笑みを作る。
「父上、母上。この通り……まだ、稚い皇后ですが、これから、娘として、どうぞお導き下さいませ」
皇帝が拱手して拝礼するのに、琇華も倣った。
「皇后は、皇帝の後宮を束ねる重要な役目です。隅々まで目を配るようになさい。後宮の乱れは、国の乱れ―――情けなくも、わたくしは、その為に、この国を危機に晒しました。あなたは、そうならないように、よくよく、夫の行動と、端女に至るまで、すべての女達の行動に気を配るのですよ!」
「はい、……皇太后さま」
皇太后が、この国を危機に晒したというのは、どういうことか気になったが、この場で聞くのは気が引けたので、あとで、調べてみようと思った。しかし、それにしても、琇華は、孤立無援だ。おそらくは、しばらく、堋国へ文を書くことも出来ないだろう。
先帝、皇太后への挨拶を済ませて殿舎から出たところで、琇華は、安堵のあまりに眩暈がした。どうせ、皇帝に言っても、相手にもされないだろうと、手近に居た宦官を呼んで、輿を用意するように言う。殿舎に横付けするわけには行かないが、玄叡宮の入り口までは来て貰えるだろうと思ったのだった。
「お輿ですか?」
宦官が、驚いて聞く。か弱い皇后だと思われたかも知れないが、どうせ、皇后が使うという殿舎も解らないので、輿は必須だった。皇帝は、後ろも振り向かずに歩いているので、やはり、頼りにならない。
(なにか与えなければ、動いて貰えないのかしら)
与えられるモノと言ったら、釵くらいだ。髪から引き抜こうとしたところで、低い声に打たれた。
「何をしている」
皇帝の声だった。やはり、不機嫌そうで、殿舎から遠く離れていたのにもかかわらず、足早に琇華に近づいて来る。
「陛下……。妾は、歩いて殿舎に戻るのがむずかしいので……輿を頼んで居たところです」
小さな声でいう琇華、皇帝は一度溜息を吐いた。
「俥を用意している」
面倒そうに呟いて、来た時と同じように琇華を抱き上げて、すたすたと歩き出す。
間近で見る、整いすぎた無表情の下で、この皇帝がなにを考えて居るのか解らなくて、琇華は戸惑う。
「俥……を、用意して下さったのですか?」
問いに、答えはない。琇華を気遣って俥を用意した―――と言ってくれることを期待したことに気がついた琇華は、自嘲の笑みを浮かべる。そんなはずはない。
(きっと、良く気がつく宦官が手配してくれたのでしょう)
そう思うことにして、琇華は黙った。軋むほど胸が痛いのに、皇帝の腕は、なにかを勘違いするほどに温かかった。
0
あなたにおすすめの小説
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! -
文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。
美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。
彼はいつも自分とは違うところを見ている。
でも、それがなんだというのか。
「大好き」は誰にも止められない!
いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。
「こっち向いて! 少尉さん」
※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。
物語の最後の方に戦闘描写があります。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました
七宮叶歌
恋愛
政略結婚が決まった王女・メヌエッタは、決められた未来に従うだけの人生を拒んで王宮を飛び出した。逃げ込んだのは、侯爵令息・アルフレッドの操る飛空船だった。
ところが逃亡の途中、「王女は事故死した」「アルフレッドは指名手配」という報道が流れ、二人は一転して国中から追われる立場になる。更にアルフレッドの父から提示された逃亡の手助けの条件は、逃げ切ることが出来たなら、アルフレッドと『契約結婚』するというものだった。
結婚から逃げてきたはずなのに、行きついた先もまた結婚。けれど、空の旅の中で触れ合う彼の優しさや弱さに、メヌエッタの心は少しずつ揺れ始める。
追手、暗殺の影、契約から始まる恋――。
二人は無事に逃げ切り、幸せを掴むことができるのか。ちょっぴりコミカルで、ときどき切ない空の逃避行恋愛ストーリーです。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
求婚されても困ります!~One Night Mistake~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「責任は取る。僕と結婚しよう」
隣にイケメンが引っ越してきたと思ったら、新しく赴任してきた課長だった。
歓迎会で女性陣にお酒を飲まされ、彼は撃沈。
お隣さんの私が送っていくことになったんだけど。
鍵を出してくれないもんだから仕方なく家にあげたらば。
……唇を奪われた。
さらにその先も彼は迫ろうとしたものの、あえなく寝落ち。
翌朝、大混乱の課長は誤解していると気づいたものの、昨晩、あれだけ迷惑かけられたのでちょーっとからかってやろうと思ったのが間違いだった。
あろうことか課長は、私に求婚してきたのだ!
香坂麻里恵(26)
内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部営業
サバサバした性格で、若干の世話焼き。
女性らしく、が超苦手。
女子社員のグループよりもおじさん社員の方が話があう。
恋愛?しなくていいんじゃない?の、人。
グッズ収集癖ははない、オタク。
×
楠木侑(28)
内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部課長
イケメン、エリート。
あからさまにアプローチをかける女性には塩対応。
仕事に厳しくてあまり笑わない。
実は酔うとキス魔?
web小説を読み、アニメ化作品をチェックする、ライトオタク。
人の話をまったく聞かない課長に、いつになったら真実を告げられるのか!?
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる