大書楼の司書姫と謎めく甜食

鳩子

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第二章 菓子を求めて游帝国へ

そして、真相へ

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「娃琳が、俺に投げつけてきた菓子だよな」

 ああ、と娃琳は頷いた。『一吻餅いっふんびん』。たしかに、そうだ。

「ここには、現在のように乳と砂糖を煮詰めて、とろみを付けた、柔らかな餡は入れていない。だが、確かに名前は、『一吻餅いっふんびん』なんだ。そして、ちゃんとここに書いてある」

「『男女が真実を告げる菓子として祭りの際に饗される』……」

 鴻が、読み上げた。

「まさか、真実を告げる菓子が『一吻餅いっふんびん』だったとは……」

 溜息を吐きながら言う娃琳は「だが、これで雑琉ざいるは救われるのだろう?」と良かったな、と気軽に言う。しかし、鴻の顔色は、青白かった。

「……鴻?」

「あ……いや、確かに、さっきの、『双甘麺そうかんめん』のところにも書いてあった。たしか『るーより古い時代には、この菓子と似た意味を持つ菓子があり、それは、『真実を告げる』と言われており、現在でも、祭りの時に食される。』だったか。
 それならば、『一吻餅いっふんびん』が、『真実を告げる菓子』なのは、間違いない……間違いないが……」

 鴻の手が、震えていた。

「鴻? どうした……?」

「ちがう、んだ……『真実を告げる菓子』は、たしかに、そう言われてきた。だけど、これじゃ、用途が違う!」

 用途は、確かに限られている。これは、男女の告白、或いは秘密めいた駆け引きの際に使われる菓子だろう。

「どうした、鴻?」

「……これじゃない。これじゃないんだ……その……実は」


 ―――鴻が、初めて語った真実は、娃琳にとって、衝撃的な内容だった。




 雑琉に、ある日、男達が乗り込んできた。

 雑琉の王宮に攻め入った男達は、女帝から皇位を簒奪する為に、『封禅ほうぜん』の儀式を執り行うと、言い出した。

 封禅の儀というのは、皇帝が天と地に自身の即位を伝える儀式である。この儀式を行えば、天地より、皇帝と認められたことになる……というが、歴代の皇帝が行っているわけではない。

 初代皇帝は行っているが、その後は果たしてどうか、史書を紐解かなければ解らない。大抵、国家にとって神聖な山である、靡山びざんなどで行うのが普通だが、その男は、もっとも天に高いところにある山ということで、雑琉ざいるの聖なる山である、『禄山ろくさん』で封禅の儀を行うと言った。

 それだけならば、雑琉は、無関係だったが、男達は、要求した。

 太古、封禅に生け贄を捧げたと聞いたので、雑琉の民、三千人を殺して首を並べると言い切ったのだった。

「そこで、声を上げたのが、老巫女だったよ」

 彼女は、『雑琉一の巫女』であるといい、『封禅には、血を流すことは許されず、地の供物、天の供物を供えなければならない。地の供物とは、この地で取れた、様々な果物と穀物。そして、天の供物とは、この国に古くから伝わる『真実を告げる菓子』である』と預言したのだった。

「それは、王子が、堋国の大書楼に行けば、見つけることの出来る菓子であり、その菓子なくて、今まで封禅を行った者はいないということだったから、俺が、ここまで来たんだ」

 真実を知らされて、娃琳は、目の前がクラクラするのを感じていた。

 簒奪を企てた者たちに……、脅されているとは、思わなかった。

「だが、『真実を告げる菓子』は、封禅になんか、使わないだろう? どういうことなんだ、娃琳」

 鴻は、娃琳に縋り付く。その眼差しが、不安げに揺れていた。

(一つ考えられるならば)

 娃琳は仮定する。それは、王子一人を逃がして、雑琉の血を守ると言うこと。

(だが、これは不適当だ)

 それならば、菓子を見つけて『戻ってくる』可能性を捨てるだろう。あくまでも、王子が『戻って』来て、雑琉を救うことを考えての―――おそらく、誣告ぶこくだ。

(誣告をした巫女は、死ぬと言っていたな……)

 そのことは鴻には言わないでおいた。鴻は、かつて、この巫女のことを慕っているように言っていたはずだ。

(……『雑琉一の巫女』ね。たしかに。あなたは、そうやって、時間を稼いだんだ)

 おそらく。巫女は、堋国が、鴻の味方をしてくれる未来だけは、預言できたのだろう。それを形にする為に、誣告で、自分の命と引き替えに、時間を稼いだ。

「鴻。……要は、封禅を阻止して、雑琉の民を救えば問題ないんだな。それと、游帝国で、簒奪の話をするなとあなたは言った。その男達に口止めされているな?」

 問い詰めると、鴻は、こくん、と頷いた。

 仕方がない。雑琉の民、三千人の命が掛かっている。滅多な行動は取れないだろう。確かに、焦っては居るようだったが、娃琳に対する接触も多かった。国の危機はどう考えて居たのかと、問いただしたくなったがとりあえず止めておく。

「もはや、こうなったら、女帝陛下にはお伝えするぞ。あちらは、きっとご存じだ」

「けど……女帝の元に、報せを出している時点で、反乱者たちに気付かれる」

 鴻は不安げだが、娃琳には奥の手がある。

「丁度、游帝国の馬車が、ここに居るだろう。それと、こいつを使う」

 娃琳は、抽斗から、一枚羽を取り出した。黄金の羽。それは、游帝国の通信で最優先される、皇族専用の羽だ。羽の根元には、『えい遊嗄ゆうさ』の書名がある。

「かつて、人から貰ったものだ。……今こそ、これを使うときだ。鴻、できる限りの情報を、書いて女帝に送るぞ」

「でも……」

「書きながら、私たちも、対策を立てる。……良いか、一度すべて書き出すんだ。そうすれば、自ずと、問題は見える。大丈夫だ。私は、雑琉の民を絶対に死なせるつもりはない」

 鴻の瞳が。うるっと潤った。いちど、口唇を真一文字に引き締めてから、鴻は呟く。

「ずっと秘密にしてたのに……良いの? 手伝ってくれるの?」

「まあ……女帝は、私が、恋を取るなら、応援してくれると言ったしな。これくらい、なんとか出来ないと、仕方がないだろう」

 鴻が、娃琳に抱きついた。

「おい、まだ、そういうことをやっている場合じゃないぞ」

「ああ、じゃあ……知って居ることをすべて、書き出そう」








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