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大書楼の司書と謎めく甜食
しおりを挟む仙花十七年、三月二十七日。
堋国では、恒例の『大茶会』が予定通り、滞りなく勧められていた。
首都湖都の外れにある、大庭園という風光明媚な庭園で行われる茶会である。大茶会は、身分の貴賤関係なく、茶を楽しむことが出来るという一大行事である。堋国の者ならば、おそらくすべての者が楽しみにしているはずの行事だった。
そして、今日は、堋国に取って宗主国である游帝国から、皇太子殿下がおいでになるというので、菓子を任された娃琳は、仕度に余念がない。
「……それが、『珍奇で美味なる菓子』か」
と兄王が、小さく切り分けた一つを指で摘まんで口に放り投げている。
「それが、今回の簒奪計画を阻止した、いわば、国を救った菓子です」
『五香糕』である。
もう一つ摘まもうとしたのを「皇太子殿下の分がなくなってしまいます」と制してから、「これで、合格ですか?」と聞いた。
「勿論、合格だ。……あなたを、大書楼司書監に任じよう。だが、こうなると困ったな。あなた宛ての縁談なんだが……」
兄王は、ぺらり、と釣書らしき紙を取り出して、娃琳に見せた。
「ですから、私は……雑琉の、鴻殿と結婚すると決めてますから、こういうものを見せられても……」
釣書を見て、娃琳は、額を手で押さえた。
「兄上……もしかして、すべてご存じで、私と鴻に、あんなことをさせたのですか?」
『天糕』を探すように言われたときも、妙にあっさり、と鴻との二人旅を了承したものだったが……。
釣書には、『雑琉鴻』の名前がある。
「……まあ、結果として、あなたは昇進した。ついでに結婚する。愛も仕事も手に入れて良かったじゃないか。しかも、鴻王子については、今年から、二年間は、堋国で留学……皇太子殿下の、ご学友まで仰せつかっているという破格の話だ。その上、あなたは、味覚も取り戻した!」
女帝が、『応援する』と言ったら、それは、こういう所まで配慮があるのだ。
(遊嗄さまが、好きになるはずだわ……)
濘灑洛という女性は、強く、そして美しい。
「そうですね……すべてが、上手くいきました」
「雑琉に行くことになるかも知れないが、月季殿のことも、悪いようにはしないから、安心しなさい」
月季は、現在、後宮の女官総取締という役職を得て、後宮で暮らしている。上手く婚家とは離別させることが出来たという。
「ついでにあの家も潰せたし、余も、万々歳だよ」
怖ろしい事を、サラリという兄王の嗄れた姿をみながら、娃琳は、ふっと笑った。
游帝国の皇太子殿下は、次の夏から留学予定だ。留学は二年を予定している。その間、一緒に学びの時間を過ごす、『ご学友』と一緒に、来る予定になっている。
(おいでになったら、このお菓子が、国を救った話をして差し上げよう)
「游帝国、皇太子殿下のおなり! 一同、皇太子殿下に拝礼!」
到着の声が、庭園に谺した。
皇太子の一団の、仰々しい行列が連なっている。その中程に皇太子の輿が見えたが、傍らに、馬に乗って皇太子に付き従う鴻の姿があった。
遠くの鴻が笑った気がして、娃琳の頬もふ、と緩んだ。
-了-
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