鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第一章 花の宴の夜は危険!

3.桜の木の下には……

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 酒飲みから逃れて人気のない裏の庭へ来ると、美しい桜の木があった。

 満開の桜なのに見る人もいないのは、勿体ないわねえ、と思っていたら、一人、すらりとした殿方が、桜を見上げて佇んでいる。

 宴の席には不似合いのような、地味な灰色っぽい緑色のほうを着ているので、おおかた、宴の華やかな雰囲気に馴染めない公家なのだろう。

 春の時期。花見の宴……と言っても、花を見ながら風情に浸るのなんか、よほどのナルシストか、ボッチと相場は決まっているもので。

 そういう変人には近付かないほうが良いのは解っていたので、宴から遠く離れた桜の木の下、一人佇んでいた、身分の高そうな公家のことは、放っておこうとしたものの、

 ふいに、

「女御様。なぜ、余を残して貴女は、逝ってしまったのだろう……」

 などと切ないお声で、桜に呼び掛ける姿を見て、私は、そりゃあ、飛び上がるほど、驚いたのよ。

 この、まったりとした尊いお声の語る内容から察するに。

 ここにおわすのは、帝だ。

 つまり、この国でもっとも尊い方。

 その方が、(おそらく)お忍びで、家臣である関白邸の宴に参加されていたのだ。

 帝のお顔なんて、ご存知なのは、ほんの一部の大臣とか、そういう方々だから、そりゃ、バレやしないとは思うけど!

 私は、とにかく、見てはいけないものを見てしまった気分で、こっそりと立ち去ろうと、そろそろと動きだす。

 畏れ多くも、帝になにか粗相でもしたら、うちみたいな下級公家なんか、すぐに潰されるわよ!

 下手したら、東国に、配流(ようは、島流しね!)になるわ。

 東国は、鬼が住んでいると、いうから、もしかしたら、かつて出会ったあの、麗しい鬼の君にお会い出来るかも知れないけど!

 とにかく、見つからないように~、と気配を殺して歩いていく。

 風が、そよ、と頬を撫でて。本当なら、心地よい夜風、なんて言うべきところだけど、とにかく、急がないと!

 さいわい、帝は、私に気付いておられないわ。

 さあ、邸への渡橋に近付いてきた。もう、ひと安心……と、思ったところで、

「そなた、関白の邸の女房か?」

 と、柔らかなお声が掛けられた。

 どう、受け答えれば良いのかしら。

 帝は、きざはしの下においでで、くつをお穿きになっている。

 私と来たら、邸のすのこ(廊下)にいるものだから、帝よりも高いところにいるのよ。

 ここで、お返事申しあげたら、きっと、失礼だわ!

 ごめんなさい、父親の妾さま。御借りした装束、汚します!

 意を決して、私、階から降りました。

 地面に伏せて、帝に申しあげる。

「私は、本日の宴の為に、こちらへ参りました、女房でございます……」

 ああ、声が、震える。

「それで、見たことのない方だったのか」

 竜顔を見るなど、あまりに畏れ多いので、私は顔も上げることは出来ませんでしたけれど、お天気(帝のご機嫌)を損ねたわけではなさそうで、安堵しました。

 首のかわ一枚で繋がったような感覚です。

「関白はね。十年前に黄泉へ下った、女御様の弔いの為に、毎年、この季節に宴を催して、余をこっそり招くのだ。あれから、十年も経つのに、余の悲しみは、少しも癒えることがない」

 それで、一人、桜の下においでだったのか。

 偏見で、変人とかボッチとした自分が、恥ずかしい。

 しかし、良いのかしら?

 畏れ多くも帝と、こんなに話してしまって!

 私の胸は、もう、これ以上はないというほど、高鳴っていた。
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