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第一章 花の宴の夜は危険!
6.帝vs関白……ってどういうこと?
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やんわりと笑顔で応対する帝と関白。
間にいる私は、もう、何が何だか解らずに、胃がキリキリと痛み出した。
だって、ねえ。別に、美人でもなく、気が利く受け答えをしたわけでもない私が、なんで、こんなところで、高貴な方々に取り合われるようなことになるのか。
「山吹。そなた、どちらを選ぶ?」
帝に聞かれて、私は、本当に答えに窮した。
帝に逆らうのも、良くない気がするし、かといって、父親の就職斡旋が掛かっている関白殿下にも逆らいづらい。
「あの……えーと……」
しどろもどろになって、多分、私は、今、汗だくだと思う。ああ、お化粧がハゲたりしたら、みっともないなあ。
夜なら見えない……とは思うけど。
「主上、そのような聞き方は、卑怯ですよ。―――主上のお召しとあらば、それはどんな女性でも、喜んでお側にお仕えするでしょう。しかし、この娘は、まだ、幼いのですよ」
「そうか? 丁度、花開くような年齢だと思うのだがな」
「他のものよりも、のんびりと咲く花もあるのです」
「関白、そなたにはそう見えるだけであろう。余には、今まさに開く花に見える。手元に置きたい」
「私は未熟な花をも好みますゆえ」
なんか、平行線だ。
しかし、このまま、どうすればよいのか……と思っていると、
「あら、兄君様。それに主上。このようなところで……まあ、お二人で花見をされていたのですね」
と、鈴を転がしたような愛らしい声が聞こえてきた。
関白殿下に向かって『兄君』と仰せになったのだから、こちらの姫君だろう。ちらりとみやると、夜の闇の中、そこだけ月の光を受けて光り輝くように、神々しいまでに美しい姫が居た。
ものがたりの『かぐや姫』なんてもんじゃない!
たおやかなご様子とか、黒く流れる美しい髪とか、朱く小さな口唇とか、もはやそういう物すべてが可愛らしい。可愛らしい物が集まって出来たような、本当に、完璧なお姫様。
この二条関白邸にお住まいであるから『二条の姫君』と呼ばれる方だ。
月明かりを受けて光り輝く二条の姫君は、『色々』の襲をお召しで、それは華やか。
ああ、こういう美人だけが似合う襲なのね、『色々』って。
普通の姫が着たら、きっと、色とりどりすぎて、雑多な雰囲気になってしまうもの。
「あら、お兄様、その女房はどなた? 丁度良かった。あなた、一緒に来て下さらないかしら。小君が逃げてしまって、一緒に探して欲しいの」
渡りに船!
「畏まりました、姫様。それでは、関白殿下、主上、失礼いたします」
とそそくさと、私は逃げ出して、廊下に戻る。二条の姫君は、私を見るなり、「お兄様と主上のお相手を有難う。難しい方達なので大変だったでしょう」とねぎらってくれる。
美しい姫は、心まで美しいんだ~!
近くに来ても、本当に美しくて、その上、とても良い薫りがする。
「見ないお顔ですね。本日の宴の為に、お手伝いで来て下さった女房ですか?」
やんわりとお聞きになるお声が、本当に心地よくて、うっとりと聞き惚れて仕舞いそうになったので、これはマズイ、と気を入れる。
「はい。本日の為に参りました……よろしければ、山吹などとお呼び下さいませ」
丁度、帝が付けて下さったお名前ですものね。有り難く遣わせて頂きます。だって、この姫様に、『私は山科住まいで、鬼が憑いていると評判の田舎娘です』なんて言ったら、卒倒してしまいそうだもの。
「山吹、良い名前ですね。私も好きよ」
にこりと微笑んで下さる姫様の笑顔は花が綻ぶようで……。
「それはそうと……、小君というのは?」
逃げ出した、と言うからには、猫か何かなのだろうけれど。
「実はね、驚かないで聞いて下さいませ」
姫様が、私に耳打ちする。あまりにも、姫様が近くに居るので、ちょっと、ドキドキする。
「小君というのは、私が飼っている蝶々なのです」
まさかの虫愛でる姫!
「籠の中に入れていたのだけれど、女房が籠を倒してしまって、逃げてしまったの」
逃げた蝶々を探すのは、割と至難の業だなあと、私は思う。けれど、この姫様のガッカリした顔を見たくないという気持ちになって、
「解りました。きっと蝶々は、花が好きですから、お花があるところへ参りましょう。前栽(お邸の前庭にある花壇のような場所)などにはお花があるかと思いますので」
実は、この関白邸、あまりに広すぎて、前栽なんて行ったことはないのだけれど。まあ、大抵の貴族の家には、立派な前栽があるものだから、きっと大丈夫でしょう!
私は、とにかく、空気を読んで、蝶の小君が、前栽で舞っていますようにと祈らずには居られなかった。
間にいる私は、もう、何が何だか解らずに、胃がキリキリと痛み出した。
だって、ねえ。別に、美人でもなく、気が利く受け答えをしたわけでもない私が、なんで、こんなところで、高貴な方々に取り合われるようなことになるのか。
「山吹。そなた、どちらを選ぶ?」
帝に聞かれて、私は、本当に答えに窮した。
帝に逆らうのも、良くない気がするし、かといって、父親の就職斡旋が掛かっている関白殿下にも逆らいづらい。
「あの……えーと……」
しどろもどろになって、多分、私は、今、汗だくだと思う。ああ、お化粧がハゲたりしたら、みっともないなあ。
夜なら見えない……とは思うけど。
「主上、そのような聞き方は、卑怯ですよ。―――主上のお召しとあらば、それはどんな女性でも、喜んでお側にお仕えするでしょう。しかし、この娘は、まだ、幼いのですよ」
「そうか? 丁度、花開くような年齢だと思うのだがな」
「他のものよりも、のんびりと咲く花もあるのです」
「関白、そなたにはそう見えるだけであろう。余には、今まさに開く花に見える。手元に置きたい」
「私は未熟な花をも好みますゆえ」
なんか、平行線だ。
しかし、このまま、どうすればよいのか……と思っていると、
「あら、兄君様。それに主上。このようなところで……まあ、お二人で花見をされていたのですね」
と、鈴を転がしたような愛らしい声が聞こえてきた。
関白殿下に向かって『兄君』と仰せになったのだから、こちらの姫君だろう。ちらりとみやると、夜の闇の中、そこだけ月の光を受けて光り輝くように、神々しいまでに美しい姫が居た。
ものがたりの『かぐや姫』なんてもんじゃない!
たおやかなご様子とか、黒く流れる美しい髪とか、朱く小さな口唇とか、もはやそういう物すべてが可愛らしい。可愛らしい物が集まって出来たような、本当に、完璧なお姫様。
この二条関白邸にお住まいであるから『二条の姫君』と呼ばれる方だ。
月明かりを受けて光り輝く二条の姫君は、『色々』の襲をお召しで、それは華やか。
ああ、こういう美人だけが似合う襲なのね、『色々』って。
普通の姫が着たら、きっと、色とりどりすぎて、雑多な雰囲気になってしまうもの。
「あら、お兄様、その女房はどなた? 丁度良かった。あなた、一緒に来て下さらないかしら。小君が逃げてしまって、一緒に探して欲しいの」
渡りに船!
「畏まりました、姫様。それでは、関白殿下、主上、失礼いたします」
とそそくさと、私は逃げ出して、廊下に戻る。二条の姫君は、私を見るなり、「お兄様と主上のお相手を有難う。難しい方達なので大変だったでしょう」とねぎらってくれる。
美しい姫は、心まで美しいんだ~!
近くに来ても、本当に美しくて、その上、とても良い薫りがする。
「見ないお顔ですね。本日の宴の為に、お手伝いで来て下さった女房ですか?」
やんわりとお聞きになるお声が、本当に心地よくて、うっとりと聞き惚れて仕舞いそうになったので、これはマズイ、と気を入れる。
「はい。本日の為に参りました……よろしければ、山吹などとお呼び下さいませ」
丁度、帝が付けて下さったお名前ですものね。有り難く遣わせて頂きます。だって、この姫様に、『私は山科住まいで、鬼が憑いていると評判の田舎娘です』なんて言ったら、卒倒してしまいそうだもの。
「山吹、良い名前ですね。私も好きよ」
にこりと微笑んで下さる姫様の笑顔は花が綻ぶようで……。
「それはそうと……、小君というのは?」
逃げ出した、と言うからには、猫か何かなのだろうけれど。
「実はね、驚かないで聞いて下さいませ」
姫様が、私に耳打ちする。あまりにも、姫様が近くに居るので、ちょっと、ドキドキする。
「小君というのは、私が飼っている蝶々なのです」
まさかの虫愛でる姫!
「籠の中に入れていたのだけれど、女房が籠を倒してしまって、逃げてしまったの」
逃げた蝶々を探すのは、割と至難の業だなあと、私は思う。けれど、この姫様のガッカリした顔を見たくないという気持ちになって、
「解りました。きっと蝶々は、花が好きですから、お花があるところへ参りましょう。前栽(お邸の前庭にある花壇のような場所)などにはお花があるかと思いますので」
実は、この関白邸、あまりに広すぎて、前栽なんて行ったことはないのだけれど。まあ、大抵の貴族の家には、立派な前栽があるものだから、きっと大丈夫でしょう!
私は、とにかく、空気を読んで、蝶の小君が、前栽で舞っていますようにと祈らずには居られなかった。
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