鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第一章 花の宴の夜は危険!

11.姫の部屋にて

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「山吹は、色白だから、きっとどんな装束でも似合うと思うわ」

 姫さまは、うきうきと私を装束部屋へと連れて行く。

 正直、もう、夜も更けて、暗いのだし、早く眠りたい。今から着替える気力なんか無い。脱ぐのは簡単なんだけど、着るのは大変なのが、この装束。

 ちなみに、脱ぐときは、するっと抜けます。それが、もぬけの殻ね。

 昔読んだ物語では、夜這い男から逃げるのに、この手をつかった姫がいたのを思い出す。今考えてみても、あの物語の主役とも言うべきあの男は、酷い男だった。うん。

「そうだ、山吹は、装束が汚れているのだから手足も汚れていますね……人を呼んで、桶でも持って来させましょう」

 私は、『だれか!』と闇に向かって呼びかける勢いの姫さまに、

「皆様方、今日の宴で疲れ果てて眠っておりますから、どうぞ、そのままで! 身を清めるのでしたら、私、井戸に参りますので」

 と飛びつく勢いでお止めした。

 なんというか、超お姫様なので、すごく、マイペースだ。

「そうなの。じゃあ、私も一緒に参ります」




 誰も見ていないことを良いことに、唐衣も五衣も袴まで脱いで仕舞って、下着である小袖一枚の姿になってから、私は、泥で汚れた手足を拭うのに、井戸で湿らせた懐紙を使った。

 綺麗になったかどうかは、暗いから、正直、よく解らない。

 泥で汚れた装束を羽織るわけにも行かずに、私は小袖姿のままで自分の装束一式を手に持った。

「姫さま、有難うございます。それでは、私は、これで……」

 部屋に下がろうとした私の手を、姫さまが掴んだ。

「折角だから、私のお部屋にいらっしゃって。朝一番で、山吹に似合いそうな装束を持って来させますからね。その装束は、私が、必ず綺麗にしますから」

「えっ、でも……」

「いいの、私、山吹が気に入ったわ。……第一、関白殿下と帝のお二人に挟まれて、普通にお話し出来る方なんて、今まで見たこともなかったわ。あのお二人は、とても、難しいかたなの。あまり、他人を信用なさらないし、お側近くに寄せるのは、限られた方だけなのよ」

 それにしては、割合、セクハラされた気がするなあ、と今の私は余裕満々で思ってみたりする。

「私には、心安こころやすく接して下さる方のように思えましたけれど」

「それは、山吹が気に入られたからよ。私も、山吹を気に入ったのですもの。きっと、人を寄せる性質があるのね、山吹は」

 にこり、と姫さまは微笑む。

 その微笑みに魅了されている間に、私は、姫さまのお部屋に連れ込まれてしまいました。




 主の帰りを待っていた、良く出来た女房さんたちが、姫さまの到着を知って、大殿油おおとなぶらの燭台に火を入れて静かに待っていました。
 女房は四人。どなたも、しっとりと落ち着いた感じのする美女で、おそらく、詩文に優れ、和歌を良く作り、楽器もこなすという、女房中の女房であるはずです。

 姫さまのお部屋は、如何に大殿油が入っていようとも、薄暗くてはっきりとは解らなかったけれど、広々としたお部屋で、几帳などのしつらいなども優美なことこの上ない。

小少将こしょうしょう、先に休んで居て良いと言いましたよ」

 姫さまの口調には、すこし、苛立ちのようなものが滲んでいた。休めと言ったのに、休まなかったというのは、指示に背いたと言うことだ。それは解るけど!

 実際、主より先に眠ることなんか出来ないわよ!

 けれど、こちらの女房さん達はプロなので、いちいち、取り乱したりはしない。おそらく、いつも、姫さまがお休みになるのと同じ手順を整えている。

 つまり、私、ムシ。

「小少将。今日は、この山吹も一緒に休みます。朝になったら、装束部屋から、山吹の為に装束を持ってきて頂戴」

 小少将、と呼ばれた女房は、ちらり、と私を見る。切れ長の瞳をした、怜悧そうな女房だ。視線で、『こんな下賤の女に?』というような侮蔑が滲む。

 ええ、解りますとも。深夜、小袖一枚ですからね。私。

「さきほど、小君を捕まえてくれたのよ」

「左様でしたか。それで、こんなに、装束を汚してしまったのですね。私は、なにか、頭がおかしくなったのかと思って、姫さまのお側近くで休ませるのはどうかと思ってしまいましたわ」

 しかし、快くは思っていないらしい。

「そうなのよ。小少将、仲良くして下さいね。私、関白殿下にお頼みして、山吹を、私の女房に付けて貰うようにしますから」

「えっ、姫さま……こんな、どこの里の出とも思えぬものを……」

 小少将さんは、驚いて、目を丸くしている。私も、勿論、寝耳に水だ。だって、そんな話、聞いていないもの。

 小少将さんが、私を、じーっと見つめる。

 彼女にとって、私は、きっと、主に取り入る、賤しい女と映っていることでしょう。誤解だよー! と叫びたくなるのに、姫さまがあくまで無邪気だ。

「泥だらけになってしまった装束は、なんとか、元の通りに綺麗にしてもらいたいの。小少将、出来るかしら」

「ええ、それは、問題ありませんけれど……」

 小少将さんは、やはり、私をじっと見つめている。





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