鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

文字の大きさ
36 / 186
第二章 山科にて『鬼の君』と再会……

16.鬼の君の香

しおりを挟む
 


 私は―――鬼に魅入られた鬼憑きの姫とか言われるようになったけど、鬼の君を守り切ることが出来たのだから、と思えば悔いはない。

 私は都から離れた山科に住んでいるから、あまり、都の様子については詳しくないけれど、都では、なにかゴタゴタとしたことがあったらしい。

 噂に聞く限りだと、二年前に亡くなった皇太后さまが実の息子である帝に呪詛されたのが発覚したとか……。

 人を呪いころす帝なんて、怖ろしいわ……と思ったけど、別の噂だと、呪われていたのは帝の方だとか言う話しもあるし、とにかく、御所中の床下はくまなく探したらしい。

 大抵、人を殺す呪いは、呪いたい相手の寝所の、しとねが真上に来るように、床下に仕掛けることが多いと言う。

 眠っている間の無防備なところの方が、よこしまなる者が狙いやすいと言うことなのだろう。

 鬼の君は、こういう時期に検非違使たちに追われていたので、多分、都を揺るがした事件に、何らかの関わり合いがあったのだと思う。

 私は、鬼憑きの姫と言われたせいもあって、出家という未来を突きつけられたけど、乳母が猛反対してくれた。

「怪異の物に好かれた姫さまが仏門に入っては、かえって迷惑になりましょう。ですから、姫さまは、この山科で、のんびりと過ごされれば良いのです!」

 とは乳母の弁だけど、まあ、結構酷いわよね~。だけど、この乳母の機転のおかげで、私は仏門には入らずに済んだから、それは良かったと言うことなのだろう。





 その後、一年ほど経った後、一度、旅の僧がうちの邸に来て、私宛にと文を置いていった。

 その文には、例の衣と同じ布の切れ端が入っていたので、すぐに、鬼の君からの文だと解った。

 文を開くと、今は、遠方の地にて過ごしていると言うことで、傷も癒えて、今はのんびりと過ごしていると言うことだったので、私はホッとした。

 山科に鬼に魅入られた鬼憑きの姫がいるという噂は鬼の君の住まう土地にまで聞こえているらしくって、それは心苦しいことになってしまったというお詫びも添えてあった。

 お礼として、特に何も出来ることはないけれど、特別な香の調合を伝受するから、作っても良いが、他の者には絶対に教えないことと、他の者には作った香も聞かせてはならないということが書き添えてあった。

 ただ、七年後には、必ず都に舞い戻るので、あの香は、七年後の桜の美しい夜にでもくと、薫りに導かれて、逢うことが出来るかも知れませんよ……という、なんだか不思議なことが書かれてあった。

 香の調合というのは、結構、大変なのよね。

 香木を用意して、それを細かく砕いて、何種類か混ぜる。鬼の君から頂いた香の調合法レシピは、誰にも教えないというお約束だから言わないけど、有名所でいうと、『六種むくさ薫物たきもの』というのがあって、他に侍従じじゅう梅花ばいか荷葉かよう菊花きっか盧橘ろきつという名前の六種類の薫物がある。

 梅花ならば、その名の通り『春』の薫りで、荷葉が『夏』、菊花が『秋』、侍従が『冬』で盧橘と黒方が『通年』となっている。

 家毎に、微妙に調合は違うので、有名所の調合法だと、沈香が四両、丁字が二両、甲香が一両二分、白檀が一両、麝香が二分……というような香を混ぜる。混ぜただけではなくて、炭を細かく砕いたものと、蜂蜜と、うちの場合は梅肉を加えて、ひたすら練り上げる。

 炭が入っているので、練っている間は、手が真っ黒になってしまうけれど。(そしてその手で顔を擦って、顔まで真っ黒になる)

 そしてここからがポイント。出来上がった薫物の香は……小さく丸める。真っ黒いまん丸の玉(丁度、野ウサギの落とし物か何かを想像してもらったら、わかりやすいわね)になる。

 それを壺に入れて、水辺とか床下とかの、人目につかない湿った所に置いておくこと、一年。混じった薫りがこなれてまろやかに風味になることで、薫りは、霊妙なものになる。

 鬼の君から貰った調合法だと、この熟成期間が、一年ではなく、なんと三年だ。

 その代わり、この香は、本当に素晴らしい。まあ、他の人に聞かせられないから、一人で楽しむほかなくて、殆ど、自分でもたいたことはないけれど。

 ……鬼の君から頂いた調合法で作ったこの香を……たいてしまおうかしら。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...