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第四章 後宮には危険が一杯!
11.皇太后、暗殺
しおりを挟む「姫さま……まあ、良かった。本当に、登華殿に倒れていたのを見つけた時には、私も中将も、息が止まるような心地だったのですよ? 一体、お一人で、何があったんです」
早蕨に聞かれて、私は、あの美僧のことは、適当にやり過ごそうかと思ったが、そうはいかなかった。
首―――はきっと、あの美僧の、手のあとがくっきりと残っているはずだ。それほどの力で、首を絞められた。
「首を絞められたのよ」
正直に私が話すと、早蕨は、「まさか、姫さま、なにか夢でも御覧になっていたのでは?」と言う。
信じられないのも、当然だ。
私だって、信じたくはないけど、首は、まだ、痛い……。
「早蕨。私の首、なにかついてない?」
「首、でございますか?」
と、私の首元を見た早蕨が「ひっ!」と声を上げた。
「どうなってる?」
「手、手のあとが……真っ赤に……呪いのようにこびり付いておりますわ」
「これで信じた?」
「勿論でございますとも……姫さま、その他は、大事ありませんの? 医師にでも診て貰った方が良いかしら……」
早蕨が慌てふためいている横で、中将は「大事にしない方が良いのならば、どなたか、信用できる方を呼ぶというのも出来ますけれど」と冷静に言う。
「そうね……」
私は、考えた。
この件―――つまり、登華殿の女御さまの御身に起きた凶事、については早良さまの話などから推察するに、あまり、大事にしない方が良い気がする。
すくなくとも、あの怪しげな僧の素性も解らないようでは、とにかく、困る。
あの僧は、何かを知って居るのだ。
そして……今更だけど、『鬼の君』も気になる。どうにかして、連絡を取りたい。だって、鬼の君の調合法で作ったあの香は、登華殿の女御様の薫りだと、関白殿下は言った。
「中将、早蕨。この件は、大事にしたくないわ。……今、信用できる方と言ったら、関白殿下くらいしか居ないのだけど、あの方を巻き込むのも良くないわ。きっと、話が大きくなってしまうと思うのよ。
だから、どうにかして、山科から、この淑景舎を守る為に、人を連れてこられないかしら」
「姫さま、それは、女房を何人か……ということですか?」
「ええ。それと、出来れば、淑景舎を守ってくれる衛士のような方が居れば良いのだけど……」
と、私は、思い出した。
こういうときには、幼なじみの力を借りよう。
「早蕨。なんとか、私の幼なじみの陽の所へ文を出せないかしら」
「左兵衛大尉様の所ですね。……宮中の女房に頼んで、話をしてみましょう」
「うん、早蕨、有難うね」
「けれど……姫さま、一体、何を考えておいでなのですか?」
早蕨が心配そうに聞く。何を考えて……って、言われても、そんな深い事を考えているわけじゃないけど。
「私を襲ったのは、凄い美貌の僧だったのよ」
「僧? ……まさか、宮中に出入りするような徳高き僧侶が、姫さまの首にあとが残るほど、首を絞めるなんて……」
早蕨と中将は顔を見合わせて驚いている。当然よ、私だって、信じられないもの。
「とにかく、凄い美形だったことは確かよ。……それと、私の事を、登華殿の女御様と勘違いしたみたいよ」
「姫さまを? ……正直、登華殿の女御様とは、似ても似つかぬ感じですけれど」
中将が、なにか気の毒そうに言う。悪かったわね、どうせ、私は、鬼憑きの姫の上、十人前の平凡な顔立ちですよっ!
「装束の事を言っていたわ。おそらく、登華殿の女御様のものだとすぐに解るような紋様が入っていると思うのだけど、中将、解るかしら?」
「ええ。勿論でございます。……登華殿の女御様は、装束に拘りのある方で、特に、胡蝶を愛でておいででしたから、伏蝶丸には、工夫がされているのです」
「工夫?」
「ええ」と言いながら、中将は、頂いた装束から唐衣を取り出した。禁色の『赤』。そこに、伏蝶丸が描かれている。この紋は、蝶が四匹、羽を広げて向かい合った形をもって丸を作っている。
「姫さま、どうぞこれを御覧下さいませ」
中将は、私に伏蝶丸の蝶の一匹を見せた。特に変わったことはないようだったが、しばらく見ていると違和感に気がついた。
「……蝶の羽が、一匹だけ、逆巻きになってる……」
「そうです」
「あの僧は、これを見て、この装束が、登華殿の女御様のものだと言うことが解ったのね……」
私が茫然としている横で、早蕨は、とんでもない問題発言を言ってのけた。
「それならば、その僧は、登華殿の女御様を……殺そうとしたと言うことですわよね」
確かに、その通りだ。
それは、つまり。
―――皇太后、暗殺。
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