鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第四章 後宮には危険が一杯!

12.小鬼の来訪

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 頭の中をかすめた仮定に、私の胸が早鐘を打つ。

 皇太后、暗殺だなんて、そんなこと……あるはずがない。うん。

「な、何を言ってるのよ。早蕨……」

「いえ、これは、大事なことですから……念のため、関白殿下のお耳にも入れておきましょう」

「なんで、関白殿下?」

「薨じられた方とはいえども、登華殿の女御様のことでございますから……二条関白家の問題でもある。ならば、ご当主である関白殿下にお話ししておくのは、当然のことです」

 たしかに……、関白殿下は、登華殿の女御様と、『十年前の雷の夜』の事を調べておいでだった。けど……さあ。

 流石に、皇太后、暗殺というのは、インパクトが大きい話だと思うのよ。

「そうですね、早蕨。関白殿下の直廬じきろからでしたら、こちらまで来ることは可能ですし」

 中将まで賛成している。

 関白殿下が来るのは、百歩譲って良いとして。先ほど私が見た、夢? の内容は、マズいのではないか。ここに関白殿下が来たら、私は、多分、それを聞いてしまいそうだし……。

「そうですわ、中将。……だって、姫さまは、僧に狼藉を働かれたのですよ? すんでの所で助けられたから良かったものを……、もし、少し気付くのが遅かったら、大変なことになるところでした」

 早蕨の言葉を聞いて、私は、命の危険にさらされていたのだ、とまじまじと実感した。

 本当に、あの時、声を掛けてくれた女房には感謝だわ。そういえば、誰なんだろう。あの時の女房は。

「ねぇ、私を助けてくれたのは、どこの女房さんなの? お礼がしたいわ」

 今すぐには無理かも知れなくても、あとで、山科から、木菓子でも贈りたい。

「ああ、お待ち下さいませ。その女房も、姫さまの様子を心配していて、控えてくださっているのです」

「まあ、そんなことは早く言いなさいよ、早蕨。すぐに、お連れして!」

「解りましたわ」

 程なく、一人の女房が、私の褥の側に寄った。

 年若い女房のようだけど、なんとなく、物静かな様子の美人で、装束も青柳の襲に、黄色の唐衣というので春めかしく若々しい。

「先ほどは、助けて頂いて有り難うございます」

 私が直接礼を言うと、早蕨が慌てた。

 普通、私のような姫は、お礼も直接言わないのだけれど、自分の命を救ってくれた恩人なのだから、やっぱり私は、直接お礼を申し上げたい。

「私は、声を掛けただけですので」

 声は、やや低めで、落ち着いた感じだった。

「あなた、お名前を伺ってよろしいかしら? 命の恩人のお名前も知らないだなんて、おかしいでしょう?」

「私は……」と躊躇ってから、女房は答えた。「私には、主の恩人がございまして、その方から、小鬼という名を頂きました。是非とも、姫さまには、小鬼と呼んで頂きとうございます」

 小鬼っ?

 私は、驚いて、小鬼を見遣る。良く見れば、それは見知った顔で。鬼の君の従者の小君に間違いなかった。……女装はしているし、かもじ(カツラ)も付けているけれど。

「まあ、その恩人の方……大分、酷い名前を付けたものですわね……。あなたのような方に、小鬼だなんて」

 早蕨は同情しているが、その酷い方というのは、紛れもなく私の事なので、とりあえず、無視した。

「本当ね……。そうだ、早蕨、関白殿下をお呼びしてきて頂戴。それと、中将は、左兵衛大尉さひょうえのだいじょうさまをお連れして。私は……この小鬼と二人で話をしたいの」

「まあ、姫さま……いくら何でも見ず知らずの女房と二人だなんて……」

 早蕨が不満の声を上げるが、私は「お願いだから」と早蕨に頼み込んだ。

 そう。お願いだから、席を外して欲しいのだ。小鬼が、女装してまで、こんな所に潜入するのは、理由があるに違いない。

「まあ、姫さまが、そこまで仰せでしたら……」

 早蕨は不満たらたらではあったが、中将と共に、淑景舎を出て行った。

 私は、人払いに成功したのを確認して、小鬼に向き合う。

「小鬼。あなた、一体、何用で、こんな所に来たの?」

 私に、用事があったのか。それとも、私には関係ないのか。

 小鬼は、ふふっ、と微笑した。

「勿論、姫さま、あなたに会う為に」


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