鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第四章 後宮には危険が一杯!

13.その人の正体は

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 目の前で艶然と微笑する小鬼を見ながら、私は、少し思案した。

「なぜ……私に逢いに?」

「私の主は、あなたに山科で大人しくしているようにと申し上げたはずですよ? なのに、あなたときたら、洛中に邸を構えるわ、参内するわ……、あなたの護衛をしていた私の身にもなって下さいよ」

 小鬼が、私を睨み付ける。

「えっ? あなた、私の護衛なんかしてたの? そんなの、聞いてないわよ」

「ええ、申し上げたら、護衛にならないでしょう。……あなたは、関白と、帝から狙われているんですよ?」

 狙われるって……物騒な言い方を。

「何よそれ、私が命を狙われているとでも言いたいの?」

「ええ。その通りですよ。……あなた、今し方、襲われたでしょう?」

「それは、なんか、変な僧よ。あなた、知らない?」

「僧?」

 小鬼が聞き返す。なんだ、あの僧を見たわけじゃなかったのか。残念。

「ええ。僧よ。もの凄い美形で……、どうやら、私と、登華殿の女御様を間違えたらしいわ」

 登華殿の女御様の名前を出した途端、小鬼の顔が、青ざめていくのが解った。

「その、僧は……っ! なにか、手がかりはないのか? 第一、なぜ、あなたと、登華殿の女御様を間違える!」

 お顔立ちが全然違うって言いたいのね、あんたも!

「……僧の手がかりは解らないわ。ただ、宮中に出入りできるんだから、それなりの高僧なんでしょう? 私を間違えた理由は、装束よ」

 その時、私は、自分が小袖(下着)一枚で小鬼と会話していることに気がついたけれど、まあ、もう仕方がない。

 装束は、部屋の隅に置いてあった。

「あそこに唐衣がおるから、見れば解るわ。……その装束は、登華殿の女御様の御料だったのを、私が、関白殿下から頂いた物だから」

「関白が……これを、あなたに?」

 小鬼は信じられない、と言うような顔で言う。私も、信じたくないけど、事実なんだから仕方がない。

「けど、確かに、これは、登華殿の女御様のものよ?」

「ええ、解っています。この伏蝶丸は、登華殿の女御様のものです」

 あら、小鬼も知って居るのね。なんだか意外な気がする。そして、小鬼の声は、酷く、震えていた。

「どうしたの、小鬼」

「だって……こんな、畏れ多い……。これは、国母さまお召しの衣なのですよ! 私は、とてもじゃないが、袖を通すなんて無理です」

「誰もあなたに着ろって言ってないわよ」

 はは、と笑った私は、ふと、思い出すことがあった。

 あの時は、この装束じゃなかった。

 だけど、あの、山科で、鬼の君に再会したとき、確かに私は、二条関白家で着せられた装束を、几帳に引っ掛かけて居たはずだった。

 そう。表着と唐衣。

 関白殿下のお邸からお借りした、装束。

 『山吹の匂』の五衣に合う、萌黄色の表着。それと、黄色の唐衣。表着は、地紋に唐花の浮紋と伏蝶丸の紋が入ったもの。唐衣は亀甲の地紋に向蝶が入ったものだった。

 ―――伏蝶丸。

 蝶が四匹、羽を広げて向かい合った形をもって丸を作っている紋様だ。

 そして、その蝶の羽が、一匹だけ逆巻になっている。

 これは、登華殿の女御様だけの工夫のはずだった。だからこそ、あの美貌の僧侶は、私を、登華殿の女御様と勘違いしたのだから。

 じゃあ、あれは、どういうことだ?

 鬼の君は、確かに言った。
 

 『これは……私の母上のものです』と。


 そして、

『この伏蝶丸は、母上がこだわって作らせたものです。それを、私は、何度となく聞いておりますから。この表着と唐衣は、特に、気に入りの品だったはずです』と。


 つまり……、鬼の君の母上は、まさか。









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