鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第四章 後宮には危険が一杯!

17.情報料の請求

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 関白殿下に連れられたのは、なんのことはない、淑景舎の北舎だった。

 あまりのことに、女房もついてこられなかったらしく、私と関白殿下、二人きりだ。

 逃げられない。

 私は、関白殿下を部屋に招いた割には、気軽な格好で、ようは、長袴に五衣を纏っただけの、春の夕暮れには、寒々しいものだ。

 関白殿下の袍に包まれていれば、それほど寒くはないけど、つまり、それは、関白殿下の腕の中……ということだ。

 なんだか、それも、危険だ。

「あの、関白殿下……」

 関白殿下が、私の顔を見る。したがって、私も間近に、整った顔を見ることになった。

 そのまま、関白殿下の手が、私の、喉元に延びる。

 五衣のあわせに手が懸かったので、私は、

「関白殿下っ!」

 と、悲鳴のような声を上げてしまったが、関白殿下は、お構いなしだ。そのまま、ぐい、と私の喉元を、くつろげる。

 ちょっと、どころじゃなくて、えらい恥ずかしい。ジタバタするけど、関白殿下は呆然としたまま、固まっていて、放しても下さらない。

「これほど、強く首を絞められたとは……」と、関白殿下は小さく呟いた。掠れた声が、聞こえる。

「だから、死にそうになったと、申し上げたはずですけど」

 いい加減、首、元に戻して欲しいなあ。さすがに、恥ずかしいわよ。

「これほど、とは思いませんでしたから……。これは、あまりにも、酷い。これでは、しばらく、主上の御前に出ることも出来ないでしょうね。まあ、どうせ、犬の産穢が五日続きますから、その間は、ここで静かにしているほかありませんが」

 溜息交じりに言う関白殿下は、私の喉元の合わせを整えてくれたけど……、乱れてるんだろうなあ。大体、私たちの装束は、脱ぐときは、するっと脱げるのだけど、着るときは絶対に一枚ずつ丁寧に、なのだ。だから、こうして襟元を乱されると、容易には戻らない。

 私は、ふと思いついて、関白殿下に問い掛けた。

「関白殿下。……二条廃帝という方は、崩御されたのですか?」

 ぴくり、と関白殿下の眉が上がる。

「なぜ?」

 これは、簡単には答えてくれないヤツだな……と薄々解ったけど、とりあえず、そのまま、聞いてみた。

「夢から目覚める前に、女房が帝がおいでになったといいましたから。登華殿の女御様が皇太后の折ですから、前の帝の事だと思って―――二条廃帝と呼ばれる方ですよね?」

「そうだね。そして、私とも、登華殿の女御様を通して、血縁の方でもある」

 血縁、ねぇ……。

 はぐらかすようにいう関白殿下の言葉だった。だって! 主立った公卿なんか、みーんな、親戚だと思うわよ。この二条関白様は!

 朱鳥帝から始まって、今は鷹峯にお住まいの上皇様、二条廃帝、今上帝に至る四帝は、すべて、血縁だろう! と盛大に突っ込みたくなるのを、すんでの所で堪えた自分は偉いと思う。うん。

「二条廃帝は……登華殿の女御様を呪殺したということで、自死された」

 ぽつり、と関白殿下が呟く。

「自死……?」

 あまり、聞かない言葉だ、と私は思った。けれど、関白殿下の様子から察するに、これは、真実のことなのだと、それも悟る。

「自死は、自ら死ぬことだ。刑罰を受けて、遠流おんるになるくらいならばと、自ら、お腹をお召しになった

 お腹を、お召しになる―――。

 つまり、切腹……。

「けど、関白殿下、『らしい』とは、どういうことなのです?」

「私も、人づてに聞いただけだから、『らしい』としか言えないだけだよ」

 関白殿下は、しれっと、そんなことを言う。私のカンが告げる。この人は、きっと、もう少し、何かご存じだと。

「関白殿下でしたら、何かごぞんじでしょう? ……第一、ご遺骸は、どうなされたのです」

 重ねて聞く私の目の前で、関白殿下は、にこり、と微笑んだ。

「山吹。……ここから先は、情報料を担保して貰わないと、私も、安心出来ない」

 貧乏公家の娘にむかって、情報料と来たか!

 くそう、と私は、口惜しくて歯噛みをしたが、関白殿下は相変わらず、にこやかにしているだけだ。

「君から、私に口づけてくれれば、教えてあげる」

 なんですってーっ!

 私は、頭に血が上るのを感じながら、関白殿下を見遣った。

 関白殿下は、涼やかに、笑ってる。


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