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第四章 後宮には危険が一杯!
35.あなたは、私が救ってみせる
しおりを挟むヘビーだ、なあ。
私は、流石に、目の前がくらくらするのを感じた。
うん、ヘビー。
「陰陽師。それ、どれくらい、確実に、満願来るの?」
陽の声も振るえている。
「うむ、おおよそ確実に死ぬだろう。……が、これだけの大掛かりな呪詛ならば、満願まで、二三日ということはあるまい。十日は掛かる。とはいえ、あなたの小袖が盗まれてから、時間も経っていることだろうし、全く安心は出来ない」
「十日だとすると、短いな」
関白殿下も、真顔で呟いた。
「確かに、短い。これが、一撃必殺を狙った四十九日間の大修法とか、百日業であることを期待するばかりだが、こればかりは、なんともいえない」
「ちょっと、陰陽師! 少し、気休めとか、効果を薄くするとか、そういうの、出来ないの? 僕、昔、なんか、えらい陰陽師が、一晩祈祷して、最悪事態を防いだ話を聞いたことがあるよ? そう言うの、陰陽師の役目なんでしょ? なんか、ないの?」
陽が身を乗り出して陰陽師に聞く。
あるなら、是非!
私は、死亡へのカウントダウンに怯えながらいう。
流石に、死ぬのは、嫌だ。
「あることには、ある。お前が言う陰陽師というのは、間違いなく、陰陽寮の大先輩の話だろう。
今回の呪法がどんなものだか解らないが、この役目を師匠に渡すわけにはいかない。
私自ら、呪いから身を守る方法を試す」
「方法とは、どうするつもりだ。相手も方法も解らぬのに、呪詛返しでもうつのか?」
関白殿下は、ある程度、こういう事態に詳しい様子だった。
多少は、頼りになるかな?
「なんなら、あなたの上司を呼びつけても構わないが。……少なくとも、今や、山吹は主上からお召しが掛かる女人だ。陰陽博士でもなんでも、必要ならば呼び寄せる」
なんだか、大事になってる気がしないでもないけど……。
「いや、この役目は、他には渡さない」
陰陽師の、強い光を宿した眼差しが、私の視線と絡み合った。
「あなたは、私が救ってみせる」
いつの間に、私は手を取られていたんでしょうね!
ぎゅっと陰陽師に手を握られて居ることに気がついて、放して貰おうとしたけれど、陰陽師は放してくれない。
「陰陽師、何する気だい、君」
「身固めだ」
「身固め?」
私は、聞いたことがないので、聞き返したけれど、陰陽師は教えてくれない。
「あれが一番、確実だ。とにかく、今夜は、私が身固めで山吹を守護する」
「主上に身固めを行う場合は、御衣をお借りして行うのだったな」
つまり、服に掛ける呪法ということかしらね。
「こうなっては、仕方がない。今すぐ、身固めの準備をする。そして、朝一番、鶏が鳴き始める前に、あなたは、そこの左兵衛大尉の邸へ向かうのだ。
関白殿下、そのように計らってくれ。それと、あなたの身辺を守る女房達と共に出るから、牛車の手配を」
やけにテキパキと陰陽師は仕切り始める。
「ああ、そうしたら、その牛車一度山科へ行って欲しいの。忘れ物をしちゃったのよ」
関白殿下に言われたのだ。
あの香を、たきしめておくようにと。
うう、髪に口づけさりた事まで思い出して仕舞ったじゃない……。
「解った。そのように手配しよう」
「それじゃあ、私の女房を呼んで欲しいんだけど……」
「いや、このまま、すぐに始めた方が良い。いろいろと、あなたが逃げ出したりしても困るから」
どういうことだ?
「ねぇ、陰陽師。さっき主上のときは、御衣に身固め? を行うとか言ってたけど、鬼ちゃんには、どうやるの?」
陽が、割合無邪気に聞いた。
「最初に誤解のないように言っておくが、我が陰陽寮の伝説の大先輩、かの晴明公でさえ、かつて、この方法で某の少将殿をお救いになったと言うことは、紛れもない事実として残っているからな? その辺は記録を調べてくれ」
なんか、いやな、予感。
そして、がっちりと、手は握られたまま。
「だから、どうやるのだ?」
「うむ。一晩、私が、この山吹を抱きしめて加持祈祷を行うのだ」
死ぬか、一晩、陰陽師殿に抱きしめられるか……。
これは、ある意味、究極の選択……だ、わ。
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