115 / 186
第五章 後宮からの逃走
14.軽ーく現実逃避したくなった
しおりを挟む鷹峯院というくらいだから、高貴なことは当然なんだけど、山の中にあると聞いてからは、まあ、田舎の閑静なところで、こぢんまりとお過ごし遊ばしていると思いきや。
私は、牛車が止まったお邸をみて、ひっくり返るかと思った。
なんというか、果てが見えない程に長々とした塀に囲まれたお邸で、外からみたら、ここにも御所があると、勘違いしそう。
「如何なさいましたか、山科の姫」
小鬼が聞いてくる。
「なんか、御所みたいだなあと思って圧倒されちゃって……」
「それはそうでしょうね。本来ならば、仙洞御所というものをつくって、そこに上皇がお住まいになるのを、こんな鷹峯あたりまで引っ込んで仕舞われたのですから」
程なく出迎えの女房がやってきたので、私は、申し出る。
「鷹峯院には、ご機嫌よろしゅう御座います。源大臣家より、ご挨拶に参りました」
「源大臣さんには、お変わりなく、ご機嫌よろしゅう御座います。院は、ご対顔なさるとの仰せでございますゆえ、どうぞ、いらせられませ」
出迎えの女房さんは、かなりの年配だ。もしかしたら、鷹峯院が高御座におわした頃から、ずっと仕えていた方なのかも知れない。
車寄せから邸へ上がり、進物として、反物や唐物の珍しい硯なんかをたんまり運ばせている。
一応、私が筆頭女房、あとの三人はお供ということで、進物を捧げ持つのは、三人だ。正直、私の場合、しずしずと動くのが手一杯で、進物を捧げ持つなんて、とても出来ない。
それにしても……女房装束なんか、慣れてないだろう小鬼までもが、涼しい顔して荷物を捧げ持っているのはどういうことだ。
鷹峯院の長々とした廊下を行く。車寄せは、おそらく邸の東の方にあったのだろう。周囲は、竹が巡らせてあってサラサラとした葉擦れの音が聞こえてくる。陽の光を好かせて柔らかな光が廊下に落ちて、その中を行くのが、ちょっと心地よい。
美しいお邸だな……と思う。池もあって、それが、呆れるほど広いものだった。
「凄い、お邸ですね……」
「もともと、このあたりは、主上が鷹狩りを遊ばすのに行幸なさるところでしたから、このような広々とした邸をお建て遊ばしたのです」
成る程、主上が行幸なさるのならば、こういう広々とした邸が都合が良い。
これならば鷹狩りに随行した者たちすべて、ここに滞在できる。万が一のことがあっても、安心して休むことの出来る場所としては、優秀な場所なのだろう。
「そもそもは、十年ほど前になりますか……、雷が落ちて、内裏が焼けたことがあるのです」
雷……。私は、何か、引っ掛かった。それは、確かに、覚えのある言葉だ。
「それで、今までも内裏が焼け落ちたことは多々あって、その時時に、中宮の実家を内裏代わりにしたり、離宮をお使いになったりしておりましたので……」
まあ、多分、そういうときの為に『なにがしの院』みたいなのが、あちこちにあって、一応、やる気の無い管理人とかが居る感じなんだろう。
たしか『源氏物語』にも書いてあったもの。源氏が夕顔を連れ出した時に、そういう場所で、ほにゃららしちゃってるわけだから。
けれど、ちょっと不思議だな。こちらの邸の女房さんだったら、もっと、権高くて、私たちみたいな大臣家の女房なんて相手にしないと思ってた。
「こちらの女房さんは、心安くおいでですのね。私、緊張しておりましたけれど、すこし、安堵しましたわ」
などとデキる女房気取りで言うと、院の女房は、ばつが悪そうに口ごもった。
「あら、本当は、こんなことはないのですよ? ここは、本当に、会話一つないくらい静かなところですから」
「あら、そうでしたの」
その割には、口数多かった気もするが、まあ、良いか。
「それはそうと、院は、大変……変わった方ですので、それだけは、お覚悟なさいませ。見れば皆様方、初めて見るお顔ですから……」
「あの、それって、どういう……」
私の言葉が終わらないうちに、なにかが猛突進してくるような音が聞こえた。
ドドドドドドド……と音を立ててやってくるのは、猪か何かかしらと手近な部屋に逃げ込んだ方が良いかしらと思っているうちに、
「ちょーーーーっと、そこな女房、待ちなさぁぁぁぁいっ!」
と、叫び声がした。
けど、なんか、ヘン? だ。野太い。野太い……?
そして、前方から猛突進してくるのは、豪華な女房装束フルセットを纏った……ちょっとお年を召した方だった。だけど、長袴を膝まで手繰って猛突進してくるって、ちょっと、ヘンっ!
ついでに、そ、その……足、すね毛、針金みたいに剛毛なのが、びっしり……ですよ?
「うわぁんっ、高紀子っ! アタシ、寂しかったのよっ? 逢いたかったっ!」
思いっきり抱きつかれて、私は混乱した。
とにかく、身体が硬い。女の方じゃない。なのに、女房装束フルセット。髪も長い、化粧もバッチリ。翠黛も施してる。紅も……だけど、顎の所、ちょいちょい、ヒゲが残ってるのと、のど仏。
えーと……、これは……女装した……男の方?
「た、鷹峯院っ!」
小鬼の狼狽する声を聞いて、私は、「は?」と間抜けな声を上げた。
この方が、こ、女装おじさまが、鷹峯院?
はい、私の頭の許容範囲を超えていた為、プツン、と意識が途切れました。
とりあえず、鷹峯院? が私を『高紀子~っ! 死んじゃイヤー! もう死んでるけど、嫌なのよぉっ!』と言って揺さぶり続けていて、もう、私は、軽ーく現実逃避したくなったわけですよ。
どうなってんの、この国っ!
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる