鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第五章 後宮からの逃走

18.女四人の内訳

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 牛車を二台も連ねていくわけには行かないので、一台の牛車に四人。

「鷹峯院……、本当に、その女装のままいらっしゃるんですか?」

「当たり前よっ!」

 とビシッと鷹峯院は、私の前に指を突き出す。

「良いこと? アタシが、ちゃんとした格好してご覧なさいよ。臣邸御幸しんていごこうってこてになるでしょう! そうなったら、もの凄い大がかりなことになるんだからね!」

「つまりお忍びならば、その格好の方がよろしいと……」

「そ! もし、検非違使に牛車を止められても、女四人よ。不審はないわ」

 ……………。

 内訳。
  女一(年増、元天皇)
  女二(ステータス呪い)
  女三(地縛霊)
  女四(中身は男)

 どこに、まともな女がいるんだっ!

 突っ込みたかったけど、相手は、間違いなく、高貴な方なので、とりあえず、やめておいた。うん、やめておいた方が良い。

 そういえば、父様の出世の件、どうなったのかなあ。

 関白様からの結婚を受けたら、とんとん拍子に、出世しそうだけど。

 さて、私たちは、あれから、早良様の事も、登華殿の女御様の事も触れないまま、牛車でじっとしている。

 『嵯峨野の太閤』こと藤原忠宗ふじわらのただむねさまのお邸には、早良様が居るのだと思う。多分。だからこそ、唐突に鷹峯院が、『嵯峨野へ行く』と仰せになったのだし……。

「それにしても、アナタ、顔は十人前だけど、不思議に、惹かれるのよねぇ……。ねぇ、アナタ、うちの懐仁やすひとのどこが好きになったの?」

 ……好きになった前提で話進めるのやめましょうよぉ。

「客観的に見て、うちの息子、かなり美形だと思うのよ、アタシに似て!」

「……というか、皇室の皆様方、かなり麗しいですわよ……当今様だって」

 思い浮かべてみると、やはり、美形な方だった。すらりとした長身だったし、意外に、優しげだったのよね……。

実敦親王あのばかの話は聞きたくないわ」

「あ、済みません。……ただ、私は、あの方、ちょっと優しそうな方だと思ったのです。私に、『山吹』というお名前も与えて下さったし。みんなから、評判が悪くて驚いたんです。女御様とも疎遠でいらしたと言うし」

「ええ……その評判の方は間違ってないわよ」

 鷹峯院は、顔を檜扇で覆って、何事かを考えて居るようだった。

「ねぇ、アナタ。その時も、その香を……たいていた?」

 扇の影で、キラリと瞳が光る。怖い。

「え、ええ……、ただ、鬼の君……二条廃帝さまからは、人前でたかないようにと言われておりましたので、こっそり小袖にくゆらせておいたのです。そうしたら、その小袖が盗まれて、呪詛が掛かってるみたいですし」

「解ったわ!」

 鷹峯院は、真っ青な顔をして、私を見た。

「多分、その香りで、実敦親王あのばかは、アンタを高紀子だと思ってるのよ」

「登華殿の女御様……?」

「そう。……いまさらだから言っておくけど。本当は、高紀子は、アタシじゃなくて、実敦親王あのばかと結婚する予定だったのよ。それが、ちょっとまあ、トラブルがあって、当時東宮だったアタシに入内することになったの」

「えっ? じゃあ……、当今様と、登華殿の女御様は……婚約者だった?」

 なんと言うことでしょう! そうなると、話が違ってくるわよ。

「当今様は、この季節、関白殿下のお邸で開かれる宴に、こっそり参加されます。亡き、登華殿の女御様を偲んで……」

「ええ、そうよ。高紀子の方はともかく、実敦親王あのばかは、高紀子に惚れ込んでいたもの。だから、アタシも、相当恨まれたのよ。しまいには、実敦親王あのばかったら、高紀子を攫おうとするし……」

「攫うっ?」

「そう。婚礼の夜にね? 流石に、高紀子の女房達も、婚礼の夜くらい、アタシも束帯着てると思ったらしいのよ。実際は、高紀子とおそろいの、蘇芳の八枚襲だったんだけど……。それで、騙されて、あいつの邸に捕まりそうになったもんだから、アタシも、大変だったわよ」

 なんか……、それは、帝を責められないと思う。

 婚礼の夜まで、女装束って、どうなのよ!

「アンタのこと呪ってるのが、実敦親王あのばかだって?」

「二条廃帝は、そうお考えです」

「じゃあ……、高紀子を呪い殺したのも、実敦親王あのばかなんだ」

 鷹峯院は、地獄の底から響くような怖ろしい声音で、そう、呟いた。

 ということは?

 鬼の君は、いまの帝に、『実の母を呪殺した』という汚名を着せられたということ?

 なにも聞かなかったことにしたい。

 私は、返す返す、あの香を小袖にたきしめたことを後悔していた。





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