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第五章 後宮からの逃走
19.幽霊がでる噂
しおりを挟む帝が、登華殿の女御を、呪い殺した。
しかも、当時の帝に罪を着せ、処刑に追い込んで。
これは、ちょっと、とんでもない、わよ。
「もし、事実が公表されたら、どうなるんですか?」
「混乱するから、多分、真実がそのまんま公表されることはないわ。だから、どう、決着するか、だけよ」
鷹峯院は、固い声で言う。
「そうですよね。帝が、そんな陰謀を企てていただなんて……みんな、知ったらかなしむでしょうし……」
「それより、政が荒れるわよ。せっかく、いま、安定してるのに、まずいでしょ? 荒れたりしたら。民の生活が、立ち行かなくなるわ。
アンタは、知らないと思うけど、アタシの代にね、北のほうで大きな地震があって、次の年から五年も飢饉だったのよ。
やっと、最近、立ち直ってきたから、政に混乱があってはまずいわ。
帝を、退位させるにしても、穏当なやり方をしないと困るわね。
だから、まずは、早良に話を聞きましょ。早良が何を隠しているか分からないけど、聞き出さないと、埒が開かないわ」
登華殿の女御さまに起きたことは、なんなんだろう。
早良さまの、あのご様子を見る限り、尋常でないことが起きたのだろうけど。
ふと、横を見ると、小鬼の顔が酷く強張っているのがわかった。
「どうしたの? 小鬼」
「い、いえ……」と上擦った声で小鬼は言う。
なんか、あやしい。
「どうしたのよ、小鬼」
「春丸、なにか、気にかかることでもあるの? 素直にはかないと、酷いことをするわよ?」
「ひっ!」
小鬼は、ひきつった声を上げて、鷹峯院から目を反らした。
「春丸!」
「い、いえ! 嵯峨野の太閤さまと考えたら、昔、ものすごく怒られたのを思い出したんです。
そうしたら、気分が悪くなって……。物凄い折檻だったんですよ!
正直、針のむしろに座らせられたり、舌を抜かれたりするほうが楽だと思いましたもん!」
ぞっとした!
どんな拷問を子供相手にやってるんだ。その、嵯峨野の太閤さまと言うかたは!
「アハ! 愉快ねえ! 春丸、アナタなにやったの? 流石にあの、シスコンもふだんはそこまでやらないわよ!」
鷹峯院は、お腹を抱えて笑っている。今の、どこに笑う要素があったんだろう?
「皇后宮の後ろだったかなあ、幽霊がでるって噂の場所があって……」
「そんなの、あったかしらね?」
「それで、秋丸と二人で胆試しをやったんです。たしか、大昔に自害された皇女さまの霊がでるとか……」
小鬼の言葉が止まった。
鷹峯院が、大きく目を見開いていたからだ。
「春丸、アンタ、それ、誰から聞いたの?」
「多分、秋ちゃんです」
「ということは、今の関白ね。……春丸、それに、山科の。アンタたち、これは、他言無用よ? もし、誰かに言ったら、アタシは地のはてまでも追いかけて、族滅させるからね?」
それが、出来るかただわ。
私は、こくこくと、頷いた。
「それで、春丸、アンタ、見たの? 威萬内親王の霊を……」
威萬内親王。
聞き覚えがある。
たしか、朱鳥帝の同母妹で、女二宮と呼ばれた方だ。
その方が、一体、なんなんだろう。
「見たと、思います。でも、狂女のように髪も装束も乱れた姿で、正直、怖くて。
血まみれだったし」
「なら、威萬内親王で、間違いないわ。その幽霊、最近のものよ。
こんなの、今、知ってるのは、嵯峨野の太閤くらいね」
鷹峯院は。私を見た。
「あの男も、この国の為に、天下無双のシスコンの汚名を着たのよ? アナタと同じように」
鬼憑きの姫の、汚名を着た、私みたいに。
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