鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

文字の大きさ
126 / 186
第五章 後宮からの逃走

25.恋の秘密は女を五歳若返らせ、心に秘めた重い罪は女を二十歳フケさせる

しおりを挟む



 早良さまは、震えていた。

 仕方がない。私が身に纏っているこの『香』は、登華殿の女御様の調合。

 この世に存在するはずのない香り………。

 私だって、この香が、こんなに特別なものだなんて知らなかったもの。

 私たちのこの社会では、香はその人そのものを表すと言っても過言でない。だからこそ、この香は、特別なのだ。

「お許し下さいませ、あのようなむごいことを、この口からは……」

 嘆いて床に崩れる早良さまの姿を、嵯峨野の太閤と鷹峯院も、茫然と見ていた。

「まさか、早良が、こんなに取り乱すなんて……」

「……一体、どうして……」

 しかし、これでは埒が明かない。なんとしてでも、早良さまから、お話しを聞かないと……と思っていると、動いたのは、中将だった。

「早良さま……、短い間、お世話になった私を覚えておいででしょうか」

 早良さまが、顔を上げる。

「私です、中将ですわ」

「えっ?」

 早良さまは、まじまじと中将を見て、それから、大きく目を剥いて……、

「な、なんであなたがっ! だって、あなた、自邸で首を括ったって……」

「そうなのです。私が首を括ったのは、鷹峯院が、高御座に着いたその年のこと……」

「ええ……そ、それにしては、あなた、あの当時と変わらなくって正直羨ましいけど……あなた、亡霊、よねぇ?」

 すっかり、動転が収まったようで、正直助かった。

 まあ、今は、ある意味、別な動転してるんだろうと思うのだけれど。

「ええ、わたくしは、亡霊です。……ただ、早良さま。あなたのことが心配で、ここまで来てしまいましたの、怖がらないで下さいましね」

 あ、これ、大嘘吐いてる。でも、ここは、中将のナイスファイトに報いなければ!

 中将~、あとで、必ず、源大臣に逢わせて差し上げるからね!

「私が、心配?」

「ええ……心に秘めたことがあれば、女は十五歳フケましてよ?」

 なにそれ!

「じ、じゅっ、十五歳……」

 ごくり、と早良さまが、何かを呑み込んだ。

「ええ。恋の秘密は、女を五歳若返らせ、心に秘めた重い罪は、女を二十歳フケさせましてよ」

 五歳増えてる!

「……なんて、こと……。最近、肌の調子は悪いし、なんだか、目が、かすむとおもっていたら」

「全部、あなたの背負った重いもののせいよ? ……ああ、そういえば、登華殿の女御様は……、一体、どうして、実の息である帝に呪われるようなことになって仕舞ったの? んもう、あなたさまがついておいでだったのに」

「いやだ、中将! ……女御様は、呪われて亡くなったわけじゃないわよ。勿論、呪いはあったけれど」

「でも、その呪いって、本当に、帝がやったって、証拠でもあるの? 呪いに名前なんか書かないでしょ?」

 そうだ、そうだ。だったら、私の呪いも、すぐに解る。

「……呪いは、でっち上げ! だけど、登華殿の女御様の御寝所の床下から、呪物まじものがでてきたんだから、仕方がないでしょう! しかも、山鳩の御衣おんぞの切れ端が、そこに残ってたのよ!」


 えー……?

 山鳩は、帝しか使ってはいけない色だけど。だけど……。

 すくなくとも、鬼の君が、母上を呪い殺す理由がないわよ!

 それに、さらっと流れたけど、早良さま、確かに『呪われて亡くなったわけじゃない』って言ったわ。

 ええ。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...