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第六章 大ピンチ! 呪いも運命も蹴散らして
18.帝室の系図
しおりを挟む鬼の君が『おまる』等と仰せになったのは樋洗のことだ。
まあ、鬼の君が、ストレートに表現されていたので、一々説明は省くけど、現代貴族は、こういう物に用を足していて、端女が持って行って処分するスタイルだった。
とまあ、鬼の君は完璧に勘違いしていたんだけど……。
中将の様子が気に掛かったし、ここは、話を聞かなければ、と私は中将と二人きりにして貰った。
源大臣邸の女房さんたちは、とても良く出来た方々で、ちゃんと樋洗を置いて行った。
「中将、大丈夫? ……なんだか、誤解があったみたいだけど」
中将は、やんわりと微笑して目頭を押さえた。
「大丈夫です。……私とあの方は住む世界は変わってしまったけれど、あの方は、私に、まだ思いを寄せて下さっていた。それならば、本当に嬉しい」
「うん……」
「それにしても、よく、あの方、私のお尻を覚えておいでだったこと!」
ころころ、と中将は笑う。その目元に涙が浮かんでいるのは、言わないでおこう。
「あの方ね……今の姿からは想像出来ないでしょうけれど、本当に、初々しくて、宮中一の堅物だったの……わたくしの恋は、あとで、姫さまに聞いて頂きますわね」
少女のような初々しさで、中将は微笑む。
私は、中将の手を取って「必ず、あなたの恋を聞かせて貰うから!」と約束した。
「そうそう。わたくしも、まだ、三途の川は渡るつもりはありませんから、早々と、ご用を済ませて下さいませ。早蕨さんと一緒にお待ちしておりますわ。
それと―――」
と中将は、文箱を捧げ持った。
「こちらは、鷹峯院よりお預かり致しました、帝室の系図でございます。傍系まで、秘密の内容まで書かれていると言うことですから、どうぞ、お取り扱いには、ご用心頂きますよう」
「解ったわ。中将、有り難う。あなたは……とりあえず、ここで待機していてね」
「畏まりましたわ、姫さま」
私は、中将をのこして、母屋へ向かった。
源大臣邸の女房が、すかさず先導に付いてくれたのだ。
「皆様、母屋におられます。姫君様も、お急ぎ下さいませ」
と高速で音もなく歩く女房さんのうしろを、私も、行く。女房装束フルセットだったら、絶対について行けないけど、私の前を行く女房さんはおそらく、女房のプロフェッショナル。女房装束など、天女の羽衣のように軽々と着こなしている。
対の屋から打橋を渡って、母屋へ向かう。流石に、うちの実家と違って、廊下に簀子もある、完璧な作りだ。
簀子には女房が控えているようだったので、私は一存で下がって貰った。
御簾だけ上げて貰ってから、部屋に入ると、薄縁(薄い畳のような物)を十枚ばかり積み上げて、即席の高御座(風)を作ったところに、鬼の君が鎮座坐していた。
さすがに、元(というか、現?)主上。後光が差しそうな程、神々しい。
「随分早かったね。すっきりしたの?」
乙女に向かって、どういうクチ聞いてンじゃ! と怒鳴りつけてやりたくなったのをすんでの所で止めて。
「女同士、秘密の話し合いがあっただけですから」
「も、もしや、うちの父の、セクハラに対する賠償金の相談をなさっていたのでわっ! わわわわ、本当に済みませんっ! うちの、家財でよければ、何でも良いんで、訴訟とか上奏だけは勘弁をっ!」
見事なスライディング土下座をかました潤さんが、私に訴える。
なんだか、この人、厄介な人だなあ。
と思っていたら、鬼の君も、同じ気持ちだったらしく、源大臣に目配せしていた。
「これ、潤。……そなたは、宮中へ出仕していなさい。私の曹司にて宿直するように」
源大臣の命に、潤さんは、意気揚々と御前を辞して、宮中へ向かって行った。
「さて、鷹峯院からの文箱を預かろう」
鬼の君が仰せになるので、私は、その御前に捧げ持つ。鬼の君が文箱を手に取るタイミングで、
「そちらは、帝室の系図だそうです」
と申し上げた。
「系図……ね。鉉珱については、先ほどの女房は、何か言っていなかったかい?」
「中将は、なにも」
中将、と言ってしまってから、(しまった!)と思ったけど、源大臣が気付いていないようなので、このままスルー。
「継春、お前は何か聞いているかい?」
確かに、橘継春こと『小鬼』も、鷹峯に居たのだから、何か聞いているかも知れない。
「いいえ……」と小鬼は言を切ってから、「けれど、鉉珱については、その系図になにか在るようです」とだけ告げて、平伏した。
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