上 下
165 / 186
第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!

3.帝VS鬼の君っ!

しおりを挟む


 帝なんて、御殿の奥に座って折られるだけで、身体を動かしたりすることは殆どないと思っていたけれど、実敦親王も鬼の君も、かなりの件の使い手らしいのは、素人の私にもよく解った。

 ソリのない大刀を遣っているので、力押しで行くか、突くか、殴るかというのが戦い方になるのだけれど、鬼の君が、風切る音を残して素早く一撃を繰り出しす。

 すかさず、実敦親王がたたき落とし、そのまま、返す刀で鬼の君の刀を押し上げて、競り合いに持って行く。

 鬼の君と、実敦親王と。

 力比べでは互角のようだった。

 私も、小鬼も、手に汗握って見ているしか出来ずにもどかしい。

「あのオネエに育てられた割に、そこそこ動けるではないか」

 チッ、と実敦親王が舌打ちする。こうも長引くとは思っていなかったらしく、息が乱れている。袖口が邪魔になったのか、片袖を脱いだ。

「はは、年は取りたくないものだな。実敦親王。……息が上がっておいでだぞ。私は、このやりとりが、五刻続いても、このまま、息一つ乱すことはないだろうがね」

 実敦親王が、鬼の君に刃の切っ先を向ける。

「はは、消耗戦にもちこむつもりか? 五刻もすれば、山吹の命はないぞ? ……私が死んでも、山吹の命は守れない。私が死んだら、私の命ともろともに、山吹の命も持って行かれるようになっている」

「くっ……!」

 鬼の君が呻いた。

 その一瞬の隙を突いて、実敦親王が大刀を繰り出す。真っ直ぐ、鬼の君の心臓を狙って!

 マズイ! と私が思ったのより、多分、鬼の君の反応は、一瞬遅れた。

 私は、考えるより先に身体が動く性質なので、とっさに駆け出して実敦親王の腕に飛びついていた。

 ひゅっ、と絹が切れる音がした。

 鬼の君の衣―――袍を横一線に切り裂いて、実敦親王と私が、床に転がる。

 実敦親王の手から離れた大刀は、派手な音を立てて床を滑っていく。それを、足で止めた鬼の君が、拾い上げた。

「まったく、姫。あなたは、いつだって無理をする」

 溜息交じりに鬼の君はいう。はい、こればっかりは反論出来ないわね。

「……実敦親王。姫の呪いを解いて貰おうか」

 鬼の君が凄む。

 床に転がっていた実敦親王が身を起こしながら、鬼の君を睨み付けた。

「大人しく、言うことを聞くとでも?」

「……あなたと取引がしたい」

「取引」

 ふん、と実敦親王は鼻で笑った。

「私が、応じて、なんの徳がある」

「私の取引に応じれば、あなたの命と、余生については保証する。それと、東宮についても」

「みな、どうでも良いものばかりだ」

「あなたなら、そう言うだろうと思っていたよ。しかし、庶人に落とされ、死ぬまで苦役につくのと、安閑とした余生とでは、話が違うだろう」

「首をはねれば良い」

「理由もなく、帝の首をはねるわけにはいかぬよ。……つまり、私は、あなたを、上皇として丁重に扱うと言っているのだ。廃帝でも偽帝だったと糾弾するのでもなく、体の思わしくないあなたに代わり、私が重祚する形だ」

 む、と実敦親王が唸った。


しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:15,358pt お気に入り:1,898

ロマンドール

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:4,090pt お気に入り:24

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49,963pt お気に入り:1,551

美しすぎてごめんなさい☆

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,778pt お気に入り:585

処理中です...