鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!

6.10年越しの事実

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「まさか……だって……」

 実敦さねあつ親王の薄い口唇から、掠れた声が漏れた。

「母の死については、父上もご存じでない。―――いやご存じでなかった、と言えば良いのかな。私は、八年前、このことを父上に告げることが出来なかった。それで、廃帝に追い込まれたのだから、私も甘かった」

「まて、懐仁やすひと、それは、本当なのか? ………あの人が、そこまで、私を、疎んじていたのか?」

 実敦親王は、鬼の君の袖に縋り付いた。それを、振り払うでもなく、鬼の君は、こくん、と頷く。

「な、なぜっ! ……だって、あの方は………っ!」

 なぜ、と言っても、多分、答えをだせるひとなんか居ないだろう。だから、私は、口を挟むことにした。

「なぜって、当たり前ですよ! 女の子が、好きでもない男に、好き放題辱められたら、どれだけ苦痛か、アンタは知らないんでしょうけどね! 嫌いな男に指一本触れられるんだったら、舌かみ切って死んだ方がマシ! よ!」

「けれど、高紀子と、私は、好き合っていたのだぞ!」

「私は、登華殿の女御様を知らないけど、鷹峯院に入内して、あの方と一緒にいたら、きっと、あの方のほうを好きになったのよ! でなかったら、鬼の君に、大事にしていたお香の調合法レシピを教えるのは、妃に迎える人にだけにしなさいなんて、言うはずないもの!」

 おそらく、いやきっと。

 登華殿の女御様は、女御としてお過ごしになった間、幸せだったんだ。だから、鬼の君にお香の調合法レシピを教える時だって、『迎える后を大切にして上げなさい、そしてあなたも幸せにおなりなさい』という意味が込められていたんだと思うもの。

「高紀子の気持ちは、私からはなれていたと……?」

 実敦親王の頬を、涙が伝っていった。

 鬼の君が、なにやら目配せしてきたけれど、私は気にしない。登華殿の女御様、同じ女子として、言うべきことはしっかり言いますよ! と私は腹に力を込めてキッパリと言い切った。

「ええ! 勿論。登華殿の女御様の心なんか、これっぽっちも実敦親王に向いていないから、いろいろと世をはかなんで自殺したんです。
 ………これが、同じシチュエーションで『源氏物語』の『輝く日の宮』さま(桐壺帝に入内した藤壺様)ならば、まだ、ご自分を犯した源氏に、なにがしかの気持ちがあったから、皇子さまを儲けるまで、関係をダラダラ続けてしまったけれど、登華殿の女御様は、一切そういうお気持ちがなかったので、キッパリ自害です」

 物語の人と、現実の人は違う……というかもしれないけど、紫式部のオバチャンだって、女子だから! そこは、きっと同じ気持ちのはずよ。

「そう……だったのか……」

 実敦親王は、がくり、と床に膝を突いてうなだれた。

「私は、ずっと、勘違いをしていたのだな……。高紀子が……あなたの母君が、まだ、私を思っていると……」

 口許を手で覆って、嘆く実敦親王が、急に、ごほごほと咳き込んだ。

「実敦親王? 如何なさいましたか?」

 キツク言い過ぎて、ショック症状が出たかな、と私が冷や汗をかいていると、実敦親王は殊更大きく咳き込んで、

「ぐはあっ」

 と、とても至尊の位にあられた方とも思えないようなうめき声をあげて、盛大に吐血して床に崩れた。

「実敦親王っ!」

 駆け寄ろうとした私の視界の端で、鬼の君と、関白殿下が、やはり床に倒れ込むのを見た。



「鬼の君っ!」

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