169 / 186
第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!
7.IT/イット “それ”が見えたら、終わり。
しおりを挟む
「鬼の君っ! 鬼の君っ!」
駆け寄ろうとした私を、陰陽師が制した。
「待て、これは呪いだ。……それも、相当強い呪いを受けている……。誰ぞ、ひとっ走り総動員して、陰陽寮の職員全員連れてこい!」
途中、騒ぎを聞きつけた女房達が集まってきたので、その者達に、陰陽寮へ走ってもらい、また、数名は待機して貰った。
「師が来れば、当座は持つだろうが、このままでは、危ない。この呪いが鉉珱に依るものだというのならば、一刻も早く、鉉珱を探し出さねばならない。
すくなくとも、このままでは、死人が出る」
「ちょっと、陰陽師、山吹! あんたら、アタシになにか出来ることはないか?」
尚侍(宮中の上位の女官の役職名ね)の勘解由さんが、私に声を掛けてくる。なにか……と聞かれて、私は、「そうだ!」と思い出したことがあった。
「勘解由さん。源大臣のご子息の潤さまが、源大臣の曹司のほうで待機しています。すぐさま、鉉珱の行方を探すのと、鷹峯へ人をやって欲しいと伝えて下さいませ!」
「わかったよ! それは任せな。アンタは、そこの陰陽師と一緒にここを頼む。……一人二人、つなぎの女房は置いて行くよ」
勘解由さんはスピーディーに立ち去っていく。
苦しんでいる三人を見て、どうしようもない気分でいると、陰陽師は、………直親さまは、なにやら、ぶつぶつと呟きながら、呪いについて調べているようだった。
私がここに残っている理由は……直親さまのサポートだ。陰陽寮の方々が来るまでの間、私は、ここで直親さまの役に立たなければならない。
気配を殺して、息を潜める。直親さまの呟く言葉をしっかりと聞いていると、
「おかしいな」
と小さく呟くのが解った。なにが『おかしい』のか、私にはさっぱり解らない。
「……まだ、引き続き苦しんでいるから、今まさに、修法の途中であろう……ならば、私も、ここで、なんの備えもないが、祈祷をしなければならないだろう」
直親さまは、床に座り込むと、手で印形を組み、そして、なにやらブツブツと祈祷をはじめた。
そのとき、私は、ふと、芥子の香りを感じた。
ふ、と…………。
芥子の香りを感じる。私の耳許に、なにか、吐息が掛かったような気がした。怖くて、振り返れない。
「……お前は違う」
地獄の底から響いてくるような声がして、私は、ぞっとした。
そして、私の後ろに居た『それ』は、ひた……、ひた……、ひた……と鳥肌が止まらなくなるような足音を立てながら、鬼の君たちのところへ近づいて行くのが解った。
姿は見えない。
でも、『芥子の香りを纏った何か』は、確実に『いる』!
そして、私は、なんとなく、察した。
私に対して『あれ』は『お前は違う』と言った。つまり、私は、呪いの対象ではない。ということは!
『あれ』が話しかけたら、確実に、呪いが完成してしまう!
私は、また、鬼の君に怒られるのを、確信していたけれど、動かざるを得なかった。
直親さまは、直親さまの仕事をしている。
ならば、私も、私に出来ることをしなければ!
そして、私は目には見えない『芥子の香りを纏った何か』に向かって走り出した!
駆け寄ろうとした私を、陰陽師が制した。
「待て、これは呪いだ。……それも、相当強い呪いを受けている……。誰ぞ、ひとっ走り総動員して、陰陽寮の職員全員連れてこい!」
途中、騒ぎを聞きつけた女房達が集まってきたので、その者達に、陰陽寮へ走ってもらい、また、数名は待機して貰った。
「師が来れば、当座は持つだろうが、このままでは、危ない。この呪いが鉉珱に依るものだというのならば、一刻も早く、鉉珱を探し出さねばならない。
すくなくとも、このままでは、死人が出る」
「ちょっと、陰陽師、山吹! あんたら、アタシになにか出来ることはないか?」
尚侍(宮中の上位の女官の役職名ね)の勘解由さんが、私に声を掛けてくる。なにか……と聞かれて、私は、「そうだ!」と思い出したことがあった。
「勘解由さん。源大臣のご子息の潤さまが、源大臣の曹司のほうで待機しています。すぐさま、鉉珱の行方を探すのと、鷹峯へ人をやって欲しいと伝えて下さいませ!」
「わかったよ! それは任せな。アンタは、そこの陰陽師と一緒にここを頼む。……一人二人、つなぎの女房は置いて行くよ」
勘解由さんはスピーディーに立ち去っていく。
苦しんでいる三人を見て、どうしようもない気分でいると、陰陽師は、………直親さまは、なにやら、ぶつぶつと呟きながら、呪いについて調べているようだった。
私がここに残っている理由は……直親さまのサポートだ。陰陽寮の方々が来るまでの間、私は、ここで直親さまの役に立たなければならない。
気配を殺して、息を潜める。直親さまの呟く言葉をしっかりと聞いていると、
「おかしいな」
と小さく呟くのが解った。なにが『おかしい』のか、私にはさっぱり解らない。
「……まだ、引き続き苦しんでいるから、今まさに、修法の途中であろう……ならば、私も、ここで、なんの備えもないが、祈祷をしなければならないだろう」
直親さまは、床に座り込むと、手で印形を組み、そして、なにやらブツブツと祈祷をはじめた。
そのとき、私は、ふと、芥子の香りを感じた。
ふ、と…………。
芥子の香りを感じる。私の耳許に、なにか、吐息が掛かったような気がした。怖くて、振り返れない。
「……お前は違う」
地獄の底から響いてくるような声がして、私は、ぞっとした。
そして、私の後ろに居た『それ』は、ひた……、ひた……、ひた……と鳥肌が止まらなくなるような足音を立てながら、鬼の君たちのところへ近づいて行くのが解った。
姿は見えない。
でも、『芥子の香りを纏った何か』は、確実に『いる』!
そして、私は、なんとなく、察した。
私に対して『あれ』は『お前は違う』と言った。つまり、私は、呪いの対象ではない。ということは!
『あれ』が話しかけたら、確実に、呪いが完成してしまう!
私は、また、鬼の君に怒られるのを、確信していたけれど、動かざるを得なかった。
直親さまは、直親さまの仕事をしている。
ならば、私も、私に出来ることをしなければ!
そして、私は目には見えない『芥子の香りを纏った何か』に向かって走り出した!
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる