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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!

7.IT/イット “それ”が見えたら、終わり。

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「鬼の君っ! 鬼の君っ!」

 駆け寄ろうとした私を、陰陽師が制した。

「待て、これは呪いだ。……それも、相当強い呪いを受けている……。誰ぞ、ひとっ走り総動員して、陰陽寮の職員全員連れてこい!」

 途中、騒ぎを聞きつけた女房達が集まってきたので、その者達に、陰陽寮へ走ってもらい、また、数名は待機して貰った。

「師が来れば、当座は持つだろうが、このままでは、危ない。この呪いが鉉珱げんように依るものだというのならば、一刻も早く、鉉珱げんようを探し出さねばならない。
 すくなくとも、このままでは、死人が出る」

「ちょっと、陰陽師、山吹! あんたら、アタシになにか出来ることはないか?」

 尚侍しょうじ(宮中の上位の女官の役職名ね)の勘解由かげゆさんが、私に声を掛けてくる。なにか……と聞かれて、私は、「そうだ!」と思い出したことがあった。

「勘解由さん。源大臣のご子息のうるむさまが、源大臣の曹司のほうで待機しています。すぐさま、鉉珱げんようの行方を探すのと、鷹峯へ人をやって欲しいと伝えて下さいませ!」

「わかったよ! それは任せな。アンタは、そこの陰陽師と一緒にここを頼む。……一人二人、つなぎの女房は置いて行くよ」

 勘解由さんはスピーディーに立ち去っていく。

 苦しんでいる三人を見て、どうしようもない気分でいると、陰陽師は、………直親なおちかさまは、なにやら、ぶつぶつと呟きながら、呪いについて調べているようだった。

 私がここに残っている理由は……直親さまのサポートだ。陰陽寮本職の方々が来るまでの間、私は、ここで直親さまの役に立たなければならない。

 気配を殺して、息を潜める。直親さまの呟く言葉をしっかりと聞いていると、

「おかしいな」

 と小さく呟くのが解った。なにが『おかしい』のか、私にはさっぱり解らない。

「……まだ、引き続き苦しんでいるから、今まさに、修法の途中であろう……ならば、私も、ここで、なんの備えもないが、祈祷をしなければならないだろう」

 直親さまは、床に座り込むと、手で印形を組み、そして、なにやらブツブツと祈祷をはじめた。

 そのとき、私は、ふと、芥子の香りを感じた。

 ふ、と…………。

 芥子の香りを感じる。私の耳許に、なにか、吐息が掛かったような気がした。怖くて、振り返れない。

「……

 地獄の底から響いてくるような声がして、私は、ぞっとした。

 そして、私の後ろに居た『それ』は、ひた……、ひた……、ひた……と鳥肌が止まらなくなるような足音を立てながら、鬼の君たちのところへ近づいて行くのが解った。

 姿は見えない。

 でも、『芥子の香りを纏った何か』は、確実に『いる』!

 そして、私は、なんとなく、察した。

 私に対して『あれ』は『お前は違う』と言った。つまり、私は、呪いの対象ではない。ということは!

『あれ』が話しかけたら、確実に、呪いが完成してしまう!

 私は、また、鬼の君に怒られるのを、確信していたけれど、動かざるを得なかった。

 直親さまは、直親さまの仕事をしている。

 ならば、私も、私に出来ることをしなければ!



 そして、私は目には見えない『芥子の香りを纏った何か』に向かって走り出した!

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