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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!
8.芥子の香り
しおりを挟むあたりには、確かに芥子の香りがしている。
私は、とにかく、この『香り』を追い払おうとして、一応、引っかけてきた(源大臣家で借りてきたのだ。なんでも実敦親王の女御様である源和子さまの料らしい)唐衣を脱いで、思い切り振り回す。
とにかく、香り、どこか行け!
私の、必死の(ちょっとみっともない)やり方が功を奏したのか、芥子の香りは静まっていった。
これで、なんとかなるかしら! と思って居ると、ドタドタと足音を立てながら、(おそらく)陰陽師さんらしき人たちが、わらわらとやってくる。
とたんに、芥子の香りが消えうせたので、陰陽師さん達が来ただけで効果があるのか! とちょっと感心してしまった。
「直親! そなた、無事か」
壮年の男が直親さまに近づいて、身体を抱き留める。良く見たら、直親さま、汗でびっしょりだわ。
「無事、です……」
「よかった! ……そなたに、なにかあったら、我が娘に顔向けできぬところであった」
「ですから、お師匠さま……私は、縁談はお断り申し上げたはずですが……と、そんなことより、主上のご様子は、如何です」
「うむ」
とおそらく、会話の流れから言って、陰陽頭さまが、辺りを見回す。配下の陰陽寮の方達が、鬼の君、実敦親王、関白の三人を抱き起こして居るところだった。
「なんとか、主上は、難を逃れたようだな」
「すべて、この姫のおかげです」
直親さまは、言う。私は何にもしてないけどな。むしろ、そちらの婚約破棄については、こちらに問題があるような……と思うと脂汗が出そうになった。
「この姫が、お前が、私の玉依姫を蹴って、求愛しているという姫か。なるほど、確かに、ただ者ではない。千年に一度のモテ期というが、これは、もっと凄い相だぞ。これは、国母になる相だ。うむ……直親。そなた、諦めよ。この姫は、そなたのような陰陽頭程度のものでおさまるような、方ではない」
「この姫が、唐衣をぶん回していたくれたおかげで、なんとか、なりましたよ」
直親さまは、陰陽頭の話なんか全く聞いていない!
「唐衣を……? ああ、高貴な方の衣は、魔を祓う……たしかに。ん? あれは、関白殿下ではないか」
「はい。関白殿下も、一緒に倒れました、呪いの影響を受けたものかと存じますが……」
直親さまがさらりと答えると、陰陽頭の顔が、途端に鬼瓦みたいな憤怒の相を浮かべて、赤黒く変色した。
「こ、の、馬鹿者がっ!」
びりり、と耳が震える。これだけで、ちょっとした霊だったら簡単に祓えるわね。
「そなた、この呪いが、誰に掛かっているのか、ちゃんと調べもしなかったのか!」
「ですから、帝室に掛かった呪いだと……」
「馬鹿者が! 帝室に掛かった呪いであれば、なぜ、関白殿下が倒れる! これは、『二条関白家』の血の者に掛かった呪いだ!」
その言葉を聞くなり、直親さまは、清涼殿の北廊下向かって一目散に駆け出した。
あちらは、後宮がある。
「直親っ! どこへ行く!」
「二条関白の妹姫が、参内中です! 昭陽舎に滞在しておられるはず!」
そうだった! 関白殿下の妹君、香子さまが参内しておいでだった。
もしかして、今頃、呪いに苦しんでおられるのでは……と思ったら、居ても立っても居られずに、私も、直親さまの後を追いかけていた。
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