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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!
9.二条の姫@昭陽舎
しおりを挟む後宮をひた走って昭陽舎へたどり着くと、女房さんの鳴き声が折り重なるように聞こえてきて、私は、背筋が冷たくなるのを感じていた。
「姫さまっ!」
私は、殿舎へと駆け入る。
跳ね上げられた半蔀を越えて、御簾を払いのけ、部屋へ入ると、褥の上に、直親さまに抱えられた、姫さまが居た。
姫さまは、殆ど血の気というものを感じられないほどに、青白い顔をしていて、くちびるなんか、紫色に近い。
「姫さまっ!」
駆け寄ると、直親さまが、私の口唇を指で触れた。
「お静かに。……私は、この姫の身固めを行うゆえ、お師匠さまに言伝を頼む」
直親さまの表情は、いつになく硬い。おそらく、楽観的な状態じゃないというのは、よく解った。
(絶対に助けてよ!)とは、とても言えなくて、私は、こくんと頷いてから、唐衣を姫さまの身体に掛けた。
実敦親王の女御様の、唐衣だ。少しでも、呪いが緩和できれば良い。
「この姫は、私がなんとしてでもおたすけするゆえ、あなたは、主上達の所へ! そちらの方が大変だが、源大臣家が何か掴んでいるかも知れない」
「ええ、今度、我が家で宴でも開くわ。……皆様お呼びするから、絶対に、直親さまもおいでになってね!」
「約束をしよう」
私は、そう言ったきり、昭陽舎を後にした。
清涼殿に戻り、陰陽頭に直親さまのことを告げると、配下の陰陽師を数名向かわせてくれた。
「あとは、この呪いを掛けている者を、見つけ出さなくてはならぬのですね?」
「あなたが、唐衣で、呪詛そのものを追いやって下さったので、おそらくは、この呪いは、呪った者に『返されて』居るはずです」
「呪い返し……ですか」
さよう、と陰陽頭は、ゆっくりと頷いた。
「先ほども申し上げましたが、貴方様は、きらきらしいばかりの宿命を持っておいでです。その貴方様が、唐衣で呪いを返したのですから、おそらく、倍返しにあって、術者は瀕死でしょう。人を呪えば穴二つです。貴方様も、この言葉は、覚えて置いて下さい」
「では……死んだ、のですね?」
鉉珱は……。死んだ、のだろう。私が、呪いを返したことで死んだのだったら、私が殺したも同然だと言うことに気がついて、手が震えた。
「姫さま。通常ならば、死んだ、と断言できます。けれど、主上と関白殿下は、まだ、苦しんでおられる。呪詛は消えたが、術者はまだ、彷徨っている。おそらく、そういうことだと思います」
「やっぱり、探さなければならないのですね……」
「いや、おそらく、その者は、ここに姿を現すことでしょう」
陰陽頭は、キッパリと言い切った。それを、私が不思議がっていると、「もはや、この術者は、呪うことは出来ないでしょう。ですから、直接現れて、殺しに来るはずです。すくなくとも、手の者か誰かは、ここに現れることでしょう」と、言う。
「けど……宮中って、出入りも大変なのに……」
一体どうやって忍び込むことが出来るのだろうと私が首を捻った時、女房集団が到着して、清涼殿に褥の用意を始めた。普段、主上は、この奥『夜御殿』にてお休みになるが、今日は、三人纏めて、清涼殿の床上で介抱することにしたらしい。それで、褥の準備なのは解ったけれど。
この、ザツな所は、きっと、勘解由さんだろうな、と思った私は、視界の端に、なにか、違和感を感じた。
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