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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!
16.夜叉王再び
しおりを挟む狂ってる!
私は、鉉珱の姿を見ながら、腰を抜かしそうになったのを、なんとか、耐えた。
「山吹の……。そなたは、ここに居なさい。火の手が上がっている」
嵯峨野の太閤殿下が、御剣を捧げ持ったまま、院の御所へと入っていく。
「だ、駄目ですよ! 太閤殿下!」
「今、私は、あの方をお守りしなければならない。……なに、大丈夫だ、私は、稀代のシスコンらしいから、妹の葬儀を出してからじゃないと死ねないんだよ」
ロマンスグレーの美貌にて、振り返りざまに、にっこり微笑んで、究極の残念発言をして去って行った太閤殿下の後ろ姿を見て、私は、一瞬、意識が遠のいていたことに気がついて、慌てて現実に立ち戻る。
「けど、確かに、このままじゃ、焼け死ぬわね」
さて、どうしたものか。
鷹峯院を無事に逃がさなければならないとして……。
私は鉉珱の姿を目で追って、あることに気がついた。
「……左手が、ある! なんでっ!」
たしかに、あの左手は、清涼殿の床上に、ぼとっと落ちたはずだ。
いや、まって。おそらく、出血が酷かったのよ。だから、ここに来る間に、死んでいるに違いない。
あれは……最後の執着で作り出した……怨霊、のようなものだろう。
うちの中将を見てると、幽霊だろうが、フツーに生活出来るようだし、あれも、油壺から油をばらまいて、火を付け歩くという誠に厄介(かつ地味な)攻撃に出ているようだった。
普通、怨霊と言ったら、雷なのにねぇ。(無実の罪で死んだ人は、みんな雷を落として『祟る』のだ)
しかし、このままじゃ、どうしようもない……。とにかく、鷹峯院を救出しなければ! と意を決して衣を脱いで、長袴をたくし上げた時(最近、よくこんな恥ずかしい格好ばかりしている)、
「うにぁうぅ~」
とうなり声が聞こえてきた。
「お前! 白き夜叉王じゃない! よかった、無事なのね。ちゃんとお逃げ?」
けれど、夜叉王は逃げなかった。
私の足首の所まで来て(すんごい、もっふりしてる)から、おもむろに私の脚をがぶーっと噛んだのだ。
「ちょっ、ちょっと! 夜叉王っ!」
夜叉王は、だーっと走り出す。あの巨体で、一体、どういうことなんだろう。夢中で走っていると、あることに気がついた。
炎、熱くない……。これ、幻の炎なんだ!
そうなれば、まずは一安心。道理で、煙が酷くならないはずだわ。
そして、私は、鷹峯院と嵯峨野の太閤殿下の元へと走ったのだった。
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