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第1話 四天王、作戦会議する
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『氷結魁』ゼラン。
魔王軍四天王の1人。
雪男というパッとしない種族ながら、冷気を操る能力と優れた格闘技術で四天王に抜擢された若き闘将。
いわゆる下克上タイプの猪突猛進キャラで、四天王の中でも一番喧嘩っ早い。
ワイルドな青髪と、屈強な肉体がトレードマークの熱血漢だ。
子供から大人まで幅広いプレイヤーに人気の王道RPG「グロリアスファンタジー」。
ゼランはその作中で最初に戦うことになる大ボスなのだが、同時に四天王最弱ポジションのやられ役でもある。
その実力は勝ち確定のイベント戦のようだと揶揄されるほどの弱さ。
他作品でもそうは見かけない雑魚っぷりに、多くのゲームファンが驚愕した。
攻略サイトでも「グロファン唯一のバランス調整案件」、「クリエーターが酒飲みながら考えたステータス」などと散々ネタにされるキャラだった。
それがどうだ。今となってはまったく笑えない。
「なんでよりによって、俺がそのかませキャラに転生しちまってんだよおおぉ!!」
◆
進級してからの生活にもすっかりなじんだ高校2年の秋。
いつもの通学途中でうっかり事故に遭った俺は、どうやら最近ハマっていたゲームの世界に転生してしまったらしい。
しかも、主人公とかではなく、敵側のボス。
最弱四天王のゼランになっていたのだ。
そしてタチの悪いことに、この世界はゲームのシナリオ通りに動いているらしい。
俺は今まさに、四天王として勇者討伐の作戦会議に招集されている。
このまま流れに身を任せていたら、すぐにでも主人公である勇者と戦う羽目になってしまう。
そうなれば十中八九、倒されて再び命を落とすことになるだろう。
転生して速攻で死亡ルートなんて冗談じゃない!
なんとかして破滅の運命を回避しなければ。
そんなことを考えながら、俺は魔王城の一角にある会議室の扉をくぐった。
「遅いわよ、ゼラン。ワタクシを待たせるなんてどういう了見かしら?」
開口一番、甲高い声で捲し立ててくる女がひとり。
『紅蓮姫』ベロニカ。
四天王の紅一点。見た目は若く麗しい美女であるが、その正体は赤竜である。
たいそうな自信家で、高飛車な性格が玉に瑕だが、その実力は本物だ。
「うるせぇな。遅れたわけじゃねーんだから、そんなに吠えるなよ」
俺は慎重に言葉を選んで返答する。
全然選べてないように聞こえるかもしれないが、そこは仕方ない。
これがゼランのキャラなのである。
他の四天王に不審がられては、なにが起こるか分からないからな。
できるだけ、作中のキャラを演じて四天王に溶け込む必要がある。
「相変わらず生意気ね。まぁいいわ。会議なんて早くすませたいの。さっさと始めましょ」
ベロニカはそっけない態度で、心底めんどくさそうに片手をヒラリと振った。
よし。今のところ怪しまれてはいないようだ。
しかし、室内を見回してみると人数が一人足りない。
それとなく、問いを投げてみる。
「いいのか?まだソウマが来ていないみたいだが」
「……『無限伯』は欠席だ。これで揃った。会議を始めるぞ」
ぽつぽつと独特の語り口で俺たちの会話に割って入ったのは、巨大な体躯の悪魔だった。
『魔大将』エルガノフ。
四天王最強の悪魔公爵。漆黒の鎧を身に纏ったその巨体は見るからに威厳たっぷりだ。口数は少なめだが、それがかえって威圧感を増している。
単体での戦闘力は群を抜いており、勝ち気な他の四天王も彼には頭が上がらないという設定だ。
それにしても、ソウマが欠席とはどういうことだ?
たしか、イベントムービーでは顔見せのために四天王は全員参加していたはず。
てっきりゲーム通りの展開になるものだと思い込んでいたが、もしかするとそうとも限らないのだろうか。
少々疑問は残るが、俺は適当に悪態をつきながら席につく。
ベロニカも大人しく従った。
「議題は伝わっているな」
エルガノフの簡潔な問いにベロニカが涼しい顔をして応じる。
「勇者討伐の作戦会議だったかしら?くだらないわね。誰かが戦って倒せばいいだけじゃない」
「ではベロニカ。オマエが行くか?」
そう言うならばと、エルガノフが即座にベロニカを指名する。
するとベロニカの眼の色が一瞬変わった気がした。
「別に構わないけど、いいの?ワタクシが手柄を独り占めしてしまうわよ?」
ベロニカは挑発するようにこちらへと目線を滑らせた。
俺をあざ笑うかのように、口元に薄い笑みを浮かべている。
少しばかり様子を見ていたが、このままではマズイな。
やっぱり基本的にはゲームのシナリオ通り、放っておけば四天王は単騎で勇者に挑む流れになるようだ。
そして、本来ならここで出世欲の強いゼランこと俺が一番手に名乗りを上げ、最初に散ることになっている。
手を上げないこともできるが、それでは一時しのぎにしかならないだろう。
ならば、ここは勝負に出るしかない!
「別に1人で行くことないんじゃねぇの。四天王全員で戦えば楽勝だろ?」
「「え?」」
2人は間の抜けた声を上げてこちらを見た。
そのまましばし沈黙が続く。
まるで時間が止まったかのような間が会議室を支配する。
シナリオに反する発言をしたわけだから、ここからは完全にアドリブで乗り切らなければならない。
じわりと頬を汗が伝う。生唾を飲み込み、覚悟して反応を待つ。
「な、なにを言っているのかしらぁ?まさか、1人で倒す自信がないとか?アナタがそんな臆病者だったとは知らなかったわねぇ」
やはりというべきか、ベロニカからツッコミが入る。
そりゃそうだ。ゼランは一匹狼キャラだからこんな提案するわけないもんな。
「ちげぇよ!」
とりあえず、否定の意だけは表明する。
「だ、だったら理由を言ってみなさいよ!」
しかし、追及されて言葉に詰まる。なんとか理屈をこねて返答を絞り出す。
「あー、なんつーか……。一緒に戦えばお前らにも俺の実力を見せつけられると思ったんだよ!」
「苦し紛れのいい訳ね!実力を示したいならまずワタクシに勝って見せて欲しいものだわ」
そう言うや否や、ベロニカの頭から生えている湾曲した角が煌々と輝きを放つ。
すると彼女の全身から凄まじい熱気が吹き出し始めた。
おいおい、それはヤバイって!
ぶっちゃけゼランとベロニカの実力には天と地ほどの差がある。
本気を出されたら、勇者と戦う前に丸焦げになってしまう。
一瞬身構えるが、そこでエルガノフの視線がベロニカを射抜く。
「待て。ベロニカ。私闘は見過ごせん」
エルガノフはベロニカを遥かに上回る魔力を瞬間的に発した。
ビリビリと大気が震え、ベロニカは肩をびくつかせる。
さすがは四天王最強。とんでもないオーラだ。
「っ……!し、しかたないわね」
エルガノフの制止を受けて、ベロニカはおとなしく引き下がった。
「ゼラン。共闘とはオマエらしくない。が、悪くない提案だ」
怪しまれてはいるが、エルガノフは理解を示してくれている。
これはありがたい。そう思った矢先。
「そこでだ。まずはオマエたち2人で勇者討伐に行ってもらおう」
「「え?」」
今度は俺とベロニカの声が重なった。
「ちょ、ちょっと待って?なんで私まで行かなきゃならないのよ?」
ベロニカは突然怯えたように真っ青な顔で反論した。
よく見るとわずかに体を震わせている。
なんか怖がっているように見えるんだが、どういうことだ?
ベロニカって、そんなキャラだったか?
「……?さっきは構わないと言っていたはずだが」
エルガノフも不思議そうにしている。
「……!それはっ……、そうだけどぉ」
ベロニカはなおもなにか言いたげだが、すっかり押し黙ってしまった。
彼女の様子がおかしいのはちょっと気になる。
だがそれはそれとして、俺にはエルガノフに聞きたいことがあった。
「エルガノフ、全員で行くんじゃないのか?」
正直、物語序盤の勇者ならエルガノフだけでも敵ではないはずだ。
一番頼もしい戦力がいないのはかなり困る。
俺の問いかけを受けて、エルガノフはパッとこちらを見た。
「うむ、僕たちは――、あっ……」
ん?
「ゴホンッツ!!ゴホッゴホンッ!」
エルガノフは大げさに咳き込むと、姿勢を正して改めて口を開いた。
「ワ、ワシらは共闘経験がない。下手に人数が増えれば逆に力を発揮できないやもしれん。特に、ワシの技は周りを巻き込んでしまうのでな……」
なんか今、少し喋り方おかしくなかったか?
その無骨な顔に似合わない一人称が飛び出したような気もするが……。
……まあ、それはさておき理屈は分かる。
エルガノフは「味方殺し」と恐れられるほど強力な広範囲攻撃を得意としている。
リアルであるこの世界で彼の攻撃に巻き込まれたら、こっちもただではすまないだろう。
「なるほど?だからこの場にいる俺とベロニカの2人だけで行けということか」
「そうだ」
できればエルガノフが1人で勇者を倒してくれたら万々歳なのだが……。
さすがに実力も発言権も一番強い彼に単独で先鋒をお願いしたいなどとは口が裂けても言えない。
まあベロニカが来てくれるなら、1人で勇者に挑むよりは全然マシだ。
「俺は賛成するぜ」
ベロニカの方を見ると、彼女は燃えるような赤髪をくるくると弄びながら不服そうに顔を顰めている。
「ま、まぁいいわ。ワタクシの足を引っ張らないでよね。ゼラン」
そっちこそ、と軽口を返すとエルガノフが1つ咳払いをした。
「異論はないな。では最後に。勇者の実力は未知。2人とも危険を感じたら無理はしなくていい。生きて帰って来るように。以上だ」
おや?
普通に頷きかけたが、かすかな違和感に疑問符が浮かぶ。
「……ありがたいお言葉どうも。でも、どうしたの?生きて帰って来いだなんて。いつもの口癖と真逆じゃない」
ベロニカが訝し気に目を細めながら、俺の気持ちを代弁してくれた。
そうだ。ゲームでのエルガノフは「魔族に敗走はあり得ない」との主張を貫き通す、無慈悲な実力至上主義のキャラなのである。
勝ちよりも生き残ることを優先させるような、情に厚い性格ではなかったはずなんだが……。
と、エルガノフがなにやら手をワタワタさせてうろたえ始めた。
「あっ、それは、そのだね!オマエたちには勇者の力を見極めて来てもらいたいからなのだ!そう、威力偵察というやつだよ。無論、すぐにでも勝てるのならそれに越したことはないがな!」
さっきまでとは別人のように、やけに早口で主張を語るエルガノフ。
急にどうしたんだ?
エルガノフらしくはないが、そういう戦略だというのなら納得はできる。
それに、偵察という体にしてくれるなら、逃げる選択肢が増える分俺としてはむしろありがたいくらいだ。
「……そう。分かったわ。じゃあ、これで会議は終わりね?」
ベロニカもそれ以上深くは突っ込まず、気だるげに席を立つ。
「うむ!健闘を祈る」
エルガノフのやや棒読みな号令を最後に会議は終結。
かくして、俺とベロニカは勇者との戦いに挑むことになった。
もちろん、ここでやすやすと死んでやるわけにはいかない。
覚悟してろよ、勇者どもっ!!
魔王軍四天王の1人。
雪男というパッとしない種族ながら、冷気を操る能力と優れた格闘技術で四天王に抜擢された若き闘将。
いわゆる下克上タイプの猪突猛進キャラで、四天王の中でも一番喧嘩っ早い。
ワイルドな青髪と、屈強な肉体がトレードマークの熱血漢だ。
子供から大人まで幅広いプレイヤーに人気の王道RPG「グロリアスファンタジー」。
ゼランはその作中で最初に戦うことになる大ボスなのだが、同時に四天王最弱ポジションのやられ役でもある。
その実力は勝ち確定のイベント戦のようだと揶揄されるほどの弱さ。
他作品でもそうは見かけない雑魚っぷりに、多くのゲームファンが驚愕した。
攻略サイトでも「グロファン唯一のバランス調整案件」、「クリエーターが酒飲みながら考えたステータス」などと散々ネタにされるキャラだった。
それがどうだ。今となってはまったく笑えない。
「なんでよりによって、俺がそのかませキャラに転生しちまってんだよおおぉ!!」
◆
進級してからの生活にもすっかりなじんだ高校2年の秋。
いつもの通学途中でうっかり事故に遭った俺は、どうやら最近ハマっていたゲームの世界に転生してしまったらしい。
しかも、主人公とかではなく、敵側のボス。
最弱四天王のゼランになっていたのだ。
そしてタチの悪いことに、この世界はゲームのシナリオ通りに動いているらしい。
俺は今まさに、四天王として勇者討伐の作戦会議に招集されている。
このまま流れに身を任せていたら、すぐにでも主人公である勇者と戦う羽目になってしまう。
そうなれば十中八九、倒されて再び命を落とすことになるだろう。
転生して速攻で死亡ルートなんて冗談じゃない!
なんとかして破滅の運命を回避しなければ。
そんなことを考えながら、俺は魔王城の一角にある会議室の扉をくぐった。
「遅いわよ、ゼラン。ワタクシを待たせるなんてどういう了見かしら?」
開口一番、甲高い声で捲し立ててくる女がひとり。
『紅蓮姫』ベロニカ。
四天王の紅一点。見た目は若く麗しい美女であるが、その正体は赤竜である。
たいそうな自信家で、高飛車な性格が玉に瑕だが、その実力は本物だ。
「うるせぇな。遅れたわけじゃねーんだから、そんなに吠えるなよ」
俺は慎重に言葉を選んで返答する。
全然選べてないように聞こえるかもしれないが、そこは仕方ない。
これがゼランのキャラなのである。
他の四天王に不審がられては、なにが起こるか分からないからな。
できるだけ、作中のキャラを演じて四天王に溶け込む必要がある。
「相変わらず生意気ね。まぁいいわ。会議なんて早くすませたいの。さっさと始めましょ」
ベロニカはそっけない態度で、心底めんどくさそうに片手をヒラリと振った。
よし。今のところ怪しまれてはいないようだ。
しかし、室内を見回してみると人数が一人足りない。
それとなく、問いを投げてみる。
「いいのか?まだソウマが来ていないみたいだが」
「……『無限伯』は欠席だ。これで揃った。会議を始めるぞ」
ぽつぽつと独特の語り口で俺たちの会話に割って入ったのは、巨大な体躯の悪魔だった。
『魔大将』エルガノフ。
四天王最強の悪魔公爵。漆黒の鎧を身に纏ったその巨体は見るからに威厳たっぷりだ。口数は少なめだが、それがかえって威圧感を増している。
単体での戦闘力は群を抜いており、勝ち気な他の四天王も彼には頭が上がらないという設定だ。
それにしても、ソウマが欠席とはどういうことだ?
たしか、イベントムービーでは顔見せのために四天王は全員参加していたはず。
てっきりゲーム通りの展開になるものだと思い込んでいたが、もしかするとそうとも限らないのだろうか。
少々疑問は残るが、俺は適当に悪態をつきながら席につく。
ベロニカも大人しく従った。
「議題は伝わっているな」
エルガノフの簡潔な問いにベロニカが涼しい顔をして応じる。
「勇者討伐の作戦会議だったかしら?くだらないわね。誰かが戦って倒せばいいだけじゃない」
「ではベロニカ。オマエが行くか?」
そう言うならばと、エルガノフが即座にベロニカを指名する。
するとベロニカの眼の色が一瞬変わった気がした。
「別に構わないけど、いいの?ワタクシが手柄を独り占めしてしまうわよ?」
ベロニカは挑発するようにこちらへと目線を滑らせた。
俺をあざ笑うかのように、口元に薄い笑みを浮かべている。
少しばかり様子を見ていたが、このままではマズイな。
やっぱり基本的にはゲームのシナリオ通り、放っておけば四天王は単騎で勇者に挑む流れになるようだ。
そして、本来ならここで出世欲の強いゼランこと俺が一番手に名乗りを上げ、最初に散ることになっている。
手を上げないこともできるが、それでは一時しのぎにしかならないだろう。
ならば、ここは勝負に出るしかない!
「別に1人で行くことないんじゃねぇの。四天王全員で戦えば楽勝だろ?」
「「え?」」
2人は間の抜けた声を上げてこちらを見た。
そのまましばし沈黙が続く。
まるで時間が止まったかのような間が会議室を支配する。
シナリオに反する発言をしたわけだから、ここからは完全にアドリブで乗り切らなければならない。
じわりと頬を汗が伝う。生唾を飲み込み、覚悟して反応を待つ。
「な、なにを言っているのかしらぁ?まさか、1人で倒す自信がないとか?アナタがそんな臆病者だったとは知らなかったわねぇ」
やはりというべきか、ベロニカからツッコミが入る。
そりゃそうだ。ゼランは一匹狼キャラだからこんな提案するわけないもんな。
「ちげぇよ!」
とりあえず、否定の意だけは表明する。
「だ、だったら理由を言ってみなさいよ!」
しかし、追及されて言葉に詰まる。なんとか理屈をこねて返答を絞り出す。
「あー、なんつーか……。一緒に戦えばお前らにも俺の実力を見せつけられると思ったんだよ!」
「苦し紛れのいい訳ね!実力を示したいならまずワタクシに勝って見せて欲しいものだわ」
そう言うや否や、ベロニカの頭から生えている湾曲した角が煌々と輝きを放つ。
すると彼女の全身から凄まじい熱気が吹き出し始めた。
おいおい、それはヤバイって!
ぶっちゃけゼランとベロニカの実力には天と地ほどの差がある。
本気を出されたら、勇者と戦う前に丸焦げになってしまう。
一瞬身構えるが、そこでエルガノフの視線がベロニカを射抜く。
「待て。ベロニカ。私闘は見過ごせん」
エルガノフはベロニカを遥かに上回る魔力を瞬間的に発した。
ビリビリと大気が震え、ベロニカは肩をびくつかせる。
さすがは四天王最強。とんでもないオーラだ。
「っ……!し、しかたないわね」
エルガノフの制止を受けて、ベロニカはおとなしく引き下がった。
「ゼラン。共闘とはオマエらしくない。が、悪くない提案だ」
怪しまれてはいるが、エルガノフは理解を示してくれている。
これはありがたい。そう思った矢先。
「そこでだ。まずはオマエたち2人で勇者討伐に行ってもらおう」
「「え?」」
今度は俺とベロニカの声が重なった。
「ちょ、ちょっと待って?なんで私まで行かなきゃならないのよ?」
ベロニカは突然怯えたように真っ青な顔で反論した。
よく見るとわずかに体を震わせている。
なんか怖がっているように見えるんだが、どういうことだ?
ベロニカって、そんなキャラだったか?
「……?さっきは構わないと言っていたはずだが」
エルガノフも不思議そうにしている。
「……!それはっ……、そうだけどぉ」
ベロニカはなおもなにか言いたげだが、すっかり押し黙ってしまった。
彼女の様子がおかしいのはちょっと気になる。
だがそれはそれとして、俺にはエルガノフに聞きたいことがあった。
「エルガノフ、全員で行くんじゃないのか?」
正直、物語序盤の勇者ならエルガノフだけでも敵ではないはずだ。
一番頼もしい戦力がいないのはかなり困る。
俺の問いかけを受けて、エルガノフはパッとこちらを見た。
「うむ、僕たちは――、あっ……」
ん?
「ゴホンッツ!!ゴホッゴホンッ!」
エルガノフは大げさに咳き込むと、姿勢を正して改めて口を開いた。
「ワ、ワシらは共闘経験がない。下手に人数が増えれば逆に力を発揮できないやもしれん。特に、ワシの技は周りを巻き込んでしまうのでな……」
なんか今、少し喋り方おかしくなかったか?
その無骨な顔に似合わない一人称が飛び出したような気もするが……。
……まあ、それはさておき理屈は分かる。
エルガノフは「味方殺し」と恐れられるほど強力な広範囲攻撃を得意としている。
リアルであるこの世界で彼の攻撃に巻き込まれたら、こっちもただではすまないだろう。
「なるほど?だからこの場にいる俺とベロニカの2人だけで行けということか」
「そうだ」
できればエルガノフが1人で勇者を倒してくれたら万々歳なのだが……。
さすがに実力も発言権も一番強い彼に単独で先鋒をお願いしたいなどとは口が裂けても言えない。
まあベロニカが来てくれるなら、1人で勇者に挑むよりは全然マシだ。
「俺は賛成するぜ」
ベロニカの方を見ると、彼女は燃えるような赤髪をくるくると弄びながら不服そうに顔を顰めている。
「ま、まぁいいわ。ワタクシの足を引っ張らないでよね。ゼラン」
そっちこそ、と軽口を返すとエルガノフが1つ咳払いをした。
「異論はないな。では最後に。勇者の実力は未知。2人とも危険を感じたら無理はしなくていい。生きて帰って来るように。以上だ」
おや?
普通に頷きかけたが、かすかな違和感に疑問符が浮かぶ。
「……ありがたいお言葉どうも。でも、どうしたの?生きて帰って来いだなんて。いつもの口癖と真逆じゃない」
ベロニカが訝し気に目を細めながら、俺の気持ちを代弁してくれた。
そうだ。ゲームでのエルガノフは「魔族に敗走はあり得ない」との主張を貫き通す、無慈悲な実力至上主義のキャラなのである。
勝ちよりも生き残ることを優先させるような、情に厚い性格ではなかったはずなんだが……。
と、エルガノフがなにやら手をワタワタさせてうろたえ始めた。
「あっ、それは、そのだね!オマエたちには勇者の力を見極めて来てもらいたいからなのだ!そう、威力偵察というやつだよ。無論、すぐにでも勝てるのならそれに越したことはないがな!」
さっきまでとは別人のように、やけに早口で主張を語るエルガノフ。
急にどうしたんだ?
エルガノフらしくはないが、そういう戦略だというのなら納得はできる。
それに、偵察という体にしてくれるなら、逃げる選択肢が増える分俺としてはむしろありがたいくらいだ。
「……そう。分かったわ。じゃあ、これで会議は終わりね?」
ベロニカもそれ以上深くは突っ込まず、気だるげに席を立つ。
「うむ!健闘を祈る」
エルガノフのやや棒読みな号令を最後に会議は終結。
かくして、俺とベロニカは勇者との戦いに挑むことになった。
もちろん、ここでやすやすと死んでやるわけにはいかない。
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しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
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