四天王転生~他の四天王の様子がおかしいと思ったら、実は全員転生者だった件~

尾藤みそぎ

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第2話 ベロニカの内心

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《ベロニカ視点》

 ううぅ、怖いぃ。

 燭台の灯りで照らされた会議室の隅に立って、私は内心ビクビクしていた。

 壁や柱は統一感のある凝ったデザインの装飾に彩られているのに、色彩は暗く濃い血の色のようで、不気味な雰囲気に満ちている。
 西洋のお化け屋敷ってこんな感じなのかな?行ったことないけど。

 いつ恐ろしいことが起きてもおかしくない不穏な空気が漂っていて、立っているだけでなんだかソワソワしてしまう。
 でも、私が恐怖している理由はそれだけじゃなかった。
 
 部屋の真ん中にある円卓の奥に、すごく大きな悪魔の姿があったからだ。

 それが私のよく知るゲームの登場人物。
 四天王のエルガノフだというのは分かってる。

 人間とは全然違う肌の色に、真っ赤な眼。
 腕組みしてどっしりと構えているだけでスゴイ威圧感。

 ゲームでも迫力凄かったけど、実際目の前にしたらめっちゃ強そうだし、顔は怖いしで足が動かなくなってしまった。

 なんでこんなことになったんだろう……。

 ゲームばかりしてて、学校での人付き合いを避けてきたバチが当たったのかもしれない。

 私は高校1年の秋。帰宅途中に事故に遭った。次に目が覚めた時、私の姿は最近よくプレイしていたゲームのキャラクターになっていた。

 そのキャラクターの名前はベロニカ。
 魔王軍の四天王で、強くてキレイな大人の女性。
 真の姿がドラゴンなのもカッコよくて好きだった。

 でも、これが噂に聞くゲーム世界への転生なのだとしたら。
 私は勇者に倒されるってことになっちゃう。
 
 そんなの嫌だ!
 なんとかして、生き残れるようにしないと。
 ただ、ベロニカへの転生は悪いことばかりではなかった。

 ベロニカは四天王の中では2番目に戦う相手。
 つまりこの身体、なんと結構強いんだよね。

 それに、今から始まるのは最初に勇者を倒しに行く人を決める作戦会議。
 私が勇者と戦うまでは、まだ時間に余裕があるはずだった。

 この会議が終わった後で、ゆっくりどうするか考えよう。

 とは言ったものの、実は会議自体も私にとっては大きな試練だった。

 だって、私はただでさえ喋るの苦手で、前世でも女子グループの会話にはちっとも混ざれなかったくらいだし。

 四天王はみんな強いモンスターで、しかも今までに接したことない個性的なタイプの人たちだから、緊張して絶対話せないもん。

 そんなことを考えていたら、会議室の扉が重たい音を立てて開いた。

 入ってきたのは、ツンツンした青髪とたくましい身体つきが印象的な大男だった。

 彼はたぶん雪男のゼランだ。
 ベロニカとは犬猿の仲で、よくケンカをするという設定だったはず。

 緊張で心臓が張り裂けそうになる。でも、落ち着いて。
 ベロニカのセリフ回しは好きで、真似したこともあるからきっとなんとかなる。

 記憶の中にあるベロニカを演じていれば、会議もすぐ終わってくれる。たぶん。

「ぉ、遅いわよ、ゼラン。ワタクシを待たせるなんてどういう了見かしら?」

 い、言っちゃったぁ。
 こんな喧嘩腰のセリフ人前で言ったことないからやっぱり恥ずかしい!

「うるせぇな。遅れたわけじゃねーんだから、そんなに吠えるなよ」

 ゼランは威嚇するようにこちらを睨みつけてきた。
 分かってたことだけど怖いいぃ。早く会話終わって欲しいぃ。

「ぁ、相変わらず生意気ね。まぁいいわ。会議なんて早くすませたいの。さっさと始めましょ」

 ゼランは室内を見回して言葉を続けた。

「いいのか?まだソウマが来ていないみたいだが」

 そういえば、四天王の最後の一人がまだ来てないんだった。
 どどど、どうしよう?この場合なんて言ったらいいの!?

「……無限伯は欠席だ。これで揃った。会議を始めるぞ」

 部屋の奥からエルガノフが私たちに声を掛けてくれた。
 た、助かったぁ。

「ソウマの奴、舐めやがって。俺もさぼればよかったか」

 ゼランは眉間に皺を寄せて悪態をつきながら、席に向かった。

 とりあえず、ゼランにならって私も席につくことにした。
 それにしても、やっぱりこの人怖いよぉ。できるだけ話したくないなぁ。

「議題は伝わっているな」

 席につくとエルガノフが淡々とした調子で喋り始めた。
 とにかく、早く会議を終わらせなきゃ。

 たしか、この会議ではゼランが一番手を買って出てくれるんだったよね。
 私がその流れを作れば、すぐに会議は決着するんだ。よし!

「ゅ、勇者討伐の作戦会議だったかしら?くだらないわね。誰かが戦って倒せばいいだけじゃない」

「ではベロニカ。オマエが行くか?」

 エルガノフの言葉に心臓がドクンと拍動する。あ、焦らない焦らない。
 ゼランは他の四天王をライバル視してるから、彼に話を振れば手を上げてくれるはず。

 でも言い方も工夫しないと。彼のプライドを刺激するように。
 なんというかこう、挑発的に!

「別に構わないけど、いいの?ワタクシが手柄を独り占めしてしまうわよ?」

 私にできる渾身の演技で、ゼランを煽る様に視線を送る。
 
 どう!?

 内心ドキドキしながらゼランの反応を見る。すると……。

「別に1人で行くことないんじゃねぇの。四天王全員で戦えば楽勝だろ?」

「「え?」」

 思わず変な声が出てしまった。エルガノフも驚いたみたい。
 一瞬その場の空気が凍り付いたのをひしひしと感じる。

 ていうか、なんで?

 ゼランは協力プレーをするようなキャラクターじゃなかったよね?

 いやいやそんなことより、もしみんなで戦うことになったら私もすぐ勇者に挑まなきゃいけないじゃない!
 まだ心の準備なんてできてないのにぃ!

 そう思った途端、頭の中がぐちゃちゃになった。

 そこからは、しばらく夢中で喋って、喋って。
 気が付いたら体中から熱がこみあげてきて。

「待て。ベロニカ。私闘は見過ごせん」

 そして、エルガノフの強力なオーラで我に返った。

「っ……、し、しかたないわね」

 でも、まだ頭に血が上ったままだ。ゼランの意見が通って、私もすぐ出動することになったらどうしよう。そんなことばかり考えてしまう。

 するとエルガノフが口を開いた。

「ゼラン。共闘とはオマエらしくない」

 あっ、もしかして反対してくれる?

「が、悪くない提案だ」

 え。

「そこでだ。まずはオマエたち2人で勇者討伐に行ってもらおう」

 ええええええぇ!?

「ちょ、ちょっと待って?なんで私まで行かなきゃならないのよ?」

 思わず考えていたことがそのまま口をついて出てしまう。
 エルガノフは困惑したように首を傾げた。

「……?さっきは構わないと言っていたはずだが」

「……!それは……、そうだけどぉ」
 
 私の頭はもうパンク寸前で、なにを言うべきなのかまったく分からなくなってしまった。

 やっぱり、人とコミュニケーションを取って来なかったバチが当たったのかな。
 それか、四天王のゼランを見捨てようとしていた私への報いなのかも。

 そこから先の会話はもうよく覚えていない。

 すべてが終わって自室に戻った私は、天蓋付きのベッドに倒れ込むように飛び込んだ。

 仰向けになって天井を眺めながらしばらく放心してたけど、時間がたって私はようやく冷静さを取り戻した。

 そして、気がついた。

 「……待って?よく考えなくても、1人で勇者に挑むより他の四天王と協力した方がなんとかなりそうじゃない?」

 あー、私のバカ!
 素直にゼランの話に乗ってるだけでよかったんじゃない!

 もしかして、私が1人で空回りしてただけ?
 なにやってんのよぉ、私ぃ!

 自分のダメダメさに我ながら呆れてしまう。
 でも、本当に大変なのはこれからよね。
 
 ゼランと2人で勇者に挑む。

 運命の瞬間は早まってしまったけど、絶対生き残ってやるんだから!
 私は自分の頬を叩いて気合いを入れなおした。
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