ずっと親友だと思っていたのに(康哉編)

カム

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 何だろうこの気まずさは。
 廃屋を出る俺の手を、康哉はずっと繋いでいてくれた。
 車は一週間前に停めた場所に変わらず存在していた。

 助手席に乗り込むと、康哉が手を伸ばしてきて、何故か身体を固くした俺に、康哉は弱々しく笑った。

「熱があるか気になっただけだ。病院行くか?」
「いや……いい。康哉は? 疲れてないか? 少し眠ってからでも」
「大丈夫だ。修平、怖いんだろ?」

 康哉はそう言って車を発進させた。
 怖いって、廃屋の事だろうか。すっかり忘れていた。
 真っ黒オバケやアルマと遭遇した事を考えれば、廃屋は平和な一軒家に思える。いや、やっぱり少し怖いかな。

「康哉……ありがとう」

 康哉だって疲れているはずなのに、傍目には全然そんな風に見えない。
 異世界の格好で車を運転する康哉をいつもなら絶対茶化してるけど、車内には重苦しい沈黙がおりていて、何も言える雰囲気じゃなかった。
 気まずいと思いながらも車の振動が心地よくて、俺はあっさりと眠りに落ちてしまった。


「修平」

 頬を撫でられる感覚、耳元で囁く声に身体が反応した。

 心地いい振動はいつの間にか止まってる。アパートに着いたのかな、起きないと、と思うのになかなか目が開かない。

「お前、鍵は?」
「んー……」

 がさがさとポケットを探される気配がする。体温を感じて無意識に腕を回すと、康哉の身体がびくりとした。

「修平……無防備すぎ」
「眠い」
「やっぱり熱があるんだろ?」
「そうかも……熱い」

 頬を撫でていた手が額に移動する。康哉の手はひんやりして気持ちいい。

「やっぱり病院に」
「……嫌だ。寝れば治るから」
「ひどくなったら医者を呼ぶからな」

 康哉の言葉にこくこくと頷き、ゆっくり目を開けると、そこは俺のアパートの前だった。

「ほら、あと少しだ」

 康哉に支えてもらいながら階段を上がり、鍵を開ける。
 俺は靴さえ脱げばベッドに這って行って眠れるんだけど、康哉はそういうタイプじゃなかった。どんな日でも入眠前の儀式、つまり顔を洗って着がえて歯を磨き消灯、をしないと寝ない奴らしい。
 俺がベッドにダイブしたのを横目で見ながら、荷物を部屋に運び、冷蔵庫を開けて中を確認し、ミネラルウォーターと体温計とタオルを持って戻って来た。

「修平、ほら熱はかるぞ。水飲むか? 着替えは?」

 お前は俺の母親か。相変わらず気が利く奴だ。

「水飲む。熱はいい。どうせ微熱だし……着替えも面倒くさい。寝る」

 康哉はため息をついた。

「分かった。傍にいるから寝ろ」

 そう言うと、腕を組んでベッド脇の椅子に座る。マントはいつの間にか外していたけど、康哉は王様みたいに見えた。疲れてる王様だ。偉そうに見えるけどいつも平民(俺)の事を考えている。

「康哉……」
「何だ?」
「歯ブラシとか、俺の使っていいから。風呂も入っていい。ベッドも」

 康哉は俺のアパートに遊びに来たことはあるけど、一度も泊まっていった事はない。
 俺が泊まっていけって言っても必ず断られていた。他人と寝るのは落ち着かないとか、潔癖性だとか言って。だから彼女と続かないと話に聞いた事がある。
 でも、この日の康哉は俺の誘いを断らなかった。

「何言ってるんだ?」
「疲れてるだろ? ベッドで寝ろよ」
「……お前、俺の気持ち知ってて誘ってんのか?」
「俺の知ってる康哉は、病人には手を出さない」

 そう言うと、康哉は何とも言えない顔をした。


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