好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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5 脅迫

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***

 落ち込んだぞ……。

 俺はジョシュにもらった号外を握りしめ、一人で階段をとぼとぼと上っていた。
 聞かなければいいと分かっていたのに、ジョシュについ聞いてしまった。ルーシェンの過去の恋愛話。

 そりゃ恋人くらいいると思ってた。顔もいいし、王子様だし、今まで恋人がいない方がおかしい。でも……その内容がひどかった。

「僕が知ってるのは、王子様が十代の頃に護衛をされていた方と、あとは侍女の方のお二人だけだけど……」

 ジョシュはそこで声を潜めた。

「お二人とも、亡くなられたんだよ」
『亡くなられた?』
「表向きは二人とも王子を庇って亡くなられた事になってるけど、実は王子を裏切って自殺したっていう噂があるんだ。どっちか分かんないけどね。王子様は誰にでも優しいけど、よく命を狙われるから人間不信なんじゃないかって言われてるよ。以前の恋人の話は王子様の前では禁句なんだって」

 ジョシュはファンクラブの友人から少し聞いただけで、それ以上詳しい事は知らないみたいだった。

 俺は以前聞いたアークさんの言葉を思い出していた。

(ルーシェン王子は過去に三度信頼する者に裏切られている。そのせいで王子は滅多に他人に心を開かない)

(君は王子を裏切らないで欲しい)

 三度のうちの二回は元の恋人の裏切りなんだろうか……。
 ルーシェンが俺に話そうとしない事を中途半端に聞くんじゃなかった。いろいろな意味で落ち込んだ。


 重い足取りで15階に着くと、ロビーの椅子に魔法使いと戦士風の男二人が座っていた。
 15階は確かアークさんの他にもう一人住んでいる人がいるんだよな。会ったことないけど。
 挨拶しようと近付くと、座っていた金髪の美形魔法使いが立ち上がった。どこかで見たような気がする。分かりやすく高そうなマントを着ているからやっぱり隣人かな。

『こんにちは』

 もう夕方だから、こんばんはの方がいいかな。
 美形魔法使いは挨拶に答える事無く、じっと俺の顔を見た。戦士風の男二人が俺の背後に回る。
 何だろう……感じ悪いな。

『お隣さんですか?私に何か用ですか?』

 金髪の魔法使いはクスリと笑った。美形だけど、あまり好きじゃないイヤな笑い方だ。

「こんな高いフロアには住めないよ。僕には何のコネもないからね」
『ええと……』
「僕は王宮内の兵士達で構成されるルーシェン王子ファンクラブの代表だ。後ろの二人もファンクラブのメンバー」

 金髪の魔法使いはそこで一度言葉を切った。俺の持っている号外に視線を落とす。

「君が王子の恋人?」
『……』

 な、何て答えたらいいんだ。恋人?遊び相手?友達?
 分からない。俺はルーシェンが好きだけど。

「答えなよ。言えない理由でもあるの?」
『それは……っ、えっ!?』

 突然背後の男二人が、俺の両腕を掴んだ。軽く押さえられているだけなのに身動きが取れない。

「君、15階に住んでいるとは思えない程、魔力も武力もないよね。実力もないのに王宮に住んで、飛行部隊に守らせて、忙しい王子を頻繁に部屋に呼びつけてるの?」

 魔法使いがゆっくりと手を伸ばし俺の喉を掴む。緩い力だけど怖い。魔法使い特有の手袋をしているから、やる気満々に見える。

「一体どうやって王子に取り入ったの?身分不相応って言葉、知ってる?」
『ぐぅ……』

 力が強くなってきて、だんだん息が苦しくなる。王宮だから油断した。ここにいるのはみんな安全な人ばかりだと思ってた。暴れようにも戦士の力が強くて無理だ。酸欠で視界が暗くなる。俺、死ぬのかな。

「なっ……!?」

 死ぬかも、と思った時、ぶわりと青い光が俺を包んだ。
 魔法使いは驚いて手を引っ込める。戦士二人も腕を離したので、俺はその場にしゃがんで咳き込んだ。青い光のおかげで喉の痛みが急速に引く。守りの指輪の力だ。

 見上げると、呆然としていた魔法使いは、怒りで顔を真っ赤に染めた。青い光が王子の魔法だと気付いたんだろう。

 息をつく暇もなく、みぞおちに衝撃が走った。魔法使いに蹴られたらしい。光のおかげでかなり緩和されたけど、やっぱり痛い。みぞおちを押さえてうずくまる俺を見て少し冷静になったのか、魔法使いが隣にひざをついて囁いた。

「君、目障りだから、王子が帰るまでに荷物をまとめて出て行ってよ。王宮からも王都からも」

『嫌です』

「そう、嫌なら仕方ないね。でも君がここに居座り続けるのなら、不慮の事故には十分気をつけた方がいいよ。君がいくら王子の魔法に守られていても、例えばこの高さから転落でもしたら助からないんじゃない?」

 魔法使いはそう捨て台詞を残し、戦士二人と笑いながら階段を下りて行った。

『……イテテ』

 身体を起こして、三人がいなくなったロビーをぼんやり眺める。確かに、ここから落ちたら助からないな……。

 あの魔法使い、どこで見たのか思い出した。パーティーでルーシェンの周りにくっついていた取り巻きの一人だ。
 もっと落ち込んだとしても、俺はルーシェンの元恋人が亡くなった事情を、もう少し詳しく知った方がいいみたいだ。
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