好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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波乱含みの婚約式

1 忙しい日々

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***

 ルーシェンの居住エリアで過ごすようになってから一ヶ月が経ち、最初の頃よりかなり生活リズムが掴めるようになってきた。
 侍女達とも少しずつ仲良くなり、よく会う護衛の兵士の顔も覚えた。
 ルーシェンは相変わらず毎日忙しそうで、俺と過ごすのは夜からか、早くても夕食を一緒にとれるくらいだ。まだ一日も完全な休みという日を見たことがない。王子様に休みはないんだろうか。

 ただ、どんなに忙しくても毎日部屋には帰ってきてくれた。毎日帰ってくる主に侍女達は大喜びだ。以前のルーシェンは出張が多くて居住エリアにあまりいなかったらしく、居ても使う部屋は限られていて、使われる事のないスペースを毎日掃除するのはちょっとさみしい気持ちになるのだそうだ。

 まあ、今では広いスペースを俺が自由に使いすぎていて、リビングと呼んでいる部屋に漫画本を置いたり、勝手に模様替えをしたり、夜中に台所で料理やインスタントラーメンを作ったりとやりたい放題やってはフィオネさんに怒られている。

 でも怒られてばかりかといえばそうでもなく、事前に相談すれば意見が通る事が多い。        
 たとえば離れの周辺には俺の希望で花を植える事にした。もちろん桃花村の花のようにでかい花じゃない、小さくて色とりどりの可愛い花だ。
「ミサキ様は花がお好きなのですね」
とほっこりされたが、別に特別花が好きという訳ではなく、幽霊はみんな花が好きだろうという安易な考えによるものだ。

 でもこの考えは当たりだったらしく、離れにいる侍女ゾンビ……もとい妖精も、植えられた花を嬉しそうに見ている。心なしか虚ろな表情が人間らしくなった気がする。俺が歌を歌っていると、興味深そうにこっちを見ているから、今度フィオネさんに頼んで近くで演奏会でも開こう。

 そんな感じで、ルーシェンがいない間も俺は毎日忙しい。他にも飛竜のトレーナーを紹介されて実技と飼育の為の勉強を必死にやっている状態だ。
 何度か飛竜の飼育舎にも連れて行ってもらい、子供の飛竜に餌をやったり世話をしたりしている。成長した飛竜は、自分より強い相手しか主人と認めないので、俺のように非力な人間は子供の頃から世話をして信頼関係を結ばなければならない。相性のいい飛竜を見つければ、将来はパートナーとして俺を乗せてくれるかも。そう思うと心が躍る。

 空いた時間には、異世界担当課のメンバーや如月に居住エリアに来てもらって、魔法や地理や経済や、近隣諸国の情勢なんかを代わる代わる教えてもらってる。
 21階に来る度にみんなお土産を持ってきてくれる。梅子さんからは瓶入りの梅干しと味噌と醤油をもらい、太郎さんはたくさん漫画本をかしてくれた。

 たまに部長も顔を出してくれる。
 部長に王妃様との面会の事を聞かれ、龍使いでした、と答えたら大笑いされた。藤子さんに、王妃様は魔法が使えるから一度も飛竜に乗られたことはないのよ、とたしなめられ、みんな本当に白い龍が見えないんだと実感した。
 王妃様とはあれから会っていなくて、手の甲の魔法も何も変化なしだ。跡形もないから、あれは一体なんだったんだろうと思う。ルーシェンに見せても如月に見せてもよく分からないらしい。王妃様の故郷で使われるマニアックな魔法なのだそうだ。

 一ヶ月経った日、俺の護衛をしてくれている飛行部隊の金髪の兄さんと散歩していると、如月が衣装ケースを持って居住エリアにやって来た。
 来たばかりの頃に採寸されて作ってもらった衣装が出来上がったらしい。

『うわ……』

 ケースから出された衣装は、想像以上にキラキラしていた。
 でもドレスじゃなさそうだ。良かった。白いシャツとパンツとそれから白い靴。魔法使いでもないのに手袋もついている。そして衣装のあちこちに宝石みたいな石が付いている。キラキラの原因はこれだ。シャツの上に羽織る袖付きマントはルーシェンが身につけている青いマントによく似ていて銀色の刺繍が入っていた。

「婚約の儀式は明後日に決まりました。いよいよですね」
『明後日!?』
「そうです。婚約式を終えたら、名実ともにミサキさんはこの国で王子に次ぐ地位を得ることになります」
『うへっ……』

 婚約式ってそんなに大事な式なのか。結婚式とどう違うんだろう。俺の思ってる式とは違うのかも。

「まさかミサキさんが私の上司になるとは……桃花村でお会いした時には考えもしませんでしたよ」

 如月が苦笑交じりに言う。そんな事を言われると、なんだかしんみりしてしまうな。

『いろいろお世話になりました』
「いえ、なかなか楽しかったですよ。それから婚約式ですが、本来ならミサキさんのご家族も招待したい所ですが、異世界から故意に人を連れてくる事は禁止されていまして……申し訳ありません」
『それは大丈夫です』

 実はその話はルーシェンからも聞いていて、人が世界を行き来するのは膨大な魔力が必要らしいし、本人にも世界にも影響が出るのであまりやらない方がいいみたいだ。異世界担当課のひと達も気軽に行っている訳じゃなく、魔法防御に優れた人が、時期を見ながら訓練して移動している事を最近理解した。例えるならロケットで宇宙に行く宇宙飛行士だ。そこに素人を何人も乗せるのは無理がある。

 それに、父さんも兄ちゃんも姉ちゃんも、みんなすでに家族がいるから、特別弟の結婚式に出たいとかないだろう。俺の結婚相手は男だし。父さんは頭がかたいから、いきなり理解してくれと言うのは無理だろうな。もっと歳を取ってからそれとなく伝えよう。
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