好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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波乱含みの婚約式

3 婚約式の朝

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 婚約式の朝が来た。

 緊張の為か、目覚まし時計が鳴るよりずっと早く目が覚めてしまった。
ルーシェンはまだ眠ってる。
 昨日はいつもよりずっと優しかった。いつも優しいけど、昨日は回復魔法なんて必要ないくらいだった。触れるだけのキスもたくさんして何度も好きだと言ってくれて、それだけで胸がいっぱいになってしまった。
 愛し合ったあと、疲れたら話をして、また少し抱き合って、それから手をつないだまま眠って、起きた時もやっぱり抱きしめられている。
 俺、こんなに幸せでいいのかな。

 じっと寝顔を見ていると、ルーシェンが目を覚ました。
 寝顔もかっこいいけど、ルーシェンの深く青い瞳に見つめられると、いつもドキドキしてしまう。

『おはようございます。怖い夢、見ましたか?』

 俺を見てルーシェンが微笑む。

「幸せな夢を見ていたと思ったが、夢じゃなかった」

 返事の代わりにぎゅっと抱きしめる。今日は婚約式だ。嬉しいような、恥ずかしいような……いや、やっぱり嬉しい。
 それから朝日が顔を出すまで、二人でベッドの中から空を見て過ごした。

***

「ミサキ殿、お仕度は整いましたか?」
『あ、ハイ!』

 婚約式当日のスケジュールはハードだ。
起床後はルーシェンとは別行動で(本来なら同棲していない前提なので最初から別行動らしいが)俺はみそぎの儀式の為に20階に向かわなければならない。
 服装は式で着るものではなくて、白一色のシンプルなもの。ガウンみたいな感じだ。それに着がえて、お供の侍女や侍従数人と居住エリアを出る。

「婚約式場でお待ちしております」

 フィオネさんが見送ってくれる。フィオネさんは王子側のお供をするらしい。

 20階に下りて、廊下をひたすら歩いて行くと、みそぎの間というよく分からない場所に到着した。
 簡単に言うとだだっ広い風呂場だ。飛竜の彫像の口や男女の彫像の持つ壺から水が流れて浴槽に注がれている。富士山のイラストとかそういった類のものはない。

 現場で待ち構えていた魔法使いらしきおじさんにみそぎの説明を受ける。
 これから何とかという果物を食べ、聖水という名の水を飲み、おじさんがいいと言うまで風呂に入って来いという事らしい。

『分かりました』

 儀式は一人で行わなければならないらしく、お供達と別れて風呂場に直行する。
手前にある果物を何個か口にして(恐ろしい事に、夕方の婚約パーティーまでこの果物しか食べられないらしい)水を飲む。いつか飲んだ甘くてとろりとした水だ。
 そるからガウンを脱いでパンツも脱いで(下着も白の特別製)風呂に入る事にした。

 ぬるま湯は覚悟していたが、想像より冷たい。名ばかりの温水プール……って感じだな。誰もいないので、広くて浅いプールをのんびり泳ぐ事にした。

***

 おかしい……。
 一体いつになったらおじさんの許可がおりるんだ?
 もうプールを何往復もして、一人自由形もこなして、犬かきもして、まったりと浮かんだり沈んだり、つまりもうプールを満喫しすぎて寒いんだが。

 分かってないふりして上がろう。寒いからガウンでも着て、いや待てよ、みそぎの後は婚約式の服に着がえるんだったよな。

 着替えがないので最初にはいていたパンツをはいて、ガウンを纏う。
 お供の待つ部屋に戻ろうとして、異変に気づいた。

 扉の下から赤い光が洩れている。

 赤……。

 こんな光、最初はなかったよな?
 胸に不安が広がる。扉を開けようか躊躇していると、小さなうめき声が聞こえて、咄嗟に扉を開いてしまった。

 部屋一面に広がる赤い魔方陣。その上に倒れている侍女と侍従達。

『みんな!』
「ミサキ様……!来ては、駄目です……」

 魔方陣の中央に、いつかのファンクラブの男が立っていた。
 俺が婚約式で着るはずだった白と青の衣装を身につけている。その周りに二人、フードを被って抜き身の剣を持った男。立っているのはその三人だけだ。

「少し丈が短いけど、僕にもぴったりだね」
『お前……!』

 近寄ろうとして失敗した。
 足が何かに絡みつかれたように動かない。足元を見れば、魔方陣の赤い文字が伸びていた。そのまま強く引っ張られて床に膝をつく。如月がアルマを足止めするために使っていたトラップと同類の魔法だ。あることは分かっていたのに、避けられなかった。

 手足が床に貼り付いて動かない。首を動かして侍女達を見れば、魔法で体を動かせないだけではなく、みんな傷を負っていた。いたる所に血の染みがある。ゾッとした。

『お前、何をするつもりだ……』

 床に這いつくばって睨むと、美形な男は笑いながら近づいて来た。背中を踏まれて息が詰まる。

「分かんない?君の代わりに僕が、王子様と婚約するんだよ」
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