好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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波乱含みの婚約式

4 危機的状況①

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『そんなの……無理に決まって、ぐえっ』

 反論しようとしたら蹴られた。それほど強い力じゃなかったからルーシェンの指輪の魔法は発動しない。でも地味にダメージを受けた。こいつ、足癖悪いな。

「婚約式には数多くの国賓が参列する。近隣諸国の王族や使者なんかがね。その場所に現れた婚約者が、実は偽物でしたなんて言われたら、この国の信用は地に落ちると思わない?だから、僕がこの衣装を着て登場したら、国王も王子様も、僕を正式に婚約者にするしかないんだよ」

 嘘だろ?そんなのありか?
 普通間違いだって気づくだろ。衣装くらいでルーシェンがそんなこと認めるはずがない。

「大丈夫。僕は完璧に王太子妃になってみせるよ。顔も君よりずっと美しいし、育ちもいいし、魔力もあるから僕の方が婚約者に相応しいと皆思うはずさ。王子様もそのうち僕を愛するようになる。それに、たとえ一時しのぎでも、相手を魅了する魔法はいろいろあるからね」

 ーー魔法かよ。

『相手を魔法で騙してまで、偽りの愛情が欲しいんですか?そんなのむなしいだけです』

 俺が言うと、ファンクラブの男は笑い出した。

「おめでたいね、君は。婚約者になるだけで、どれだけの権力が手に入ると思ってるの?子供の頃から容姿を磨いて、魔法を学んで、ファンクラブに入ってコネを作って、努力を重ねて来たのも、全て権力を手に入れる為さ。もちろん王子様も魅力的だけどね。だから君みたいな無能な男に奪われるのは我慢出来ないんだよ」

 ファンクラブの男はそれだけ言うと、抜き身の剣を持った男二人に顔を向けた。

 殺される……!?
 思わず目を閉じたけど、衝撃は襲ってこなくて、代わりに荷物のように抱え上げられた。

「安心して。王子様が僕を婚約者と認めてくれるまで、君は殺さずにいてあげるよ。僕にも保険が必要だからね」

 君は殺さずにいてあげる?じゃあ侍女達はどうなんだ?

『みんなは関係ないです。逃がしてください』

 男は倒れている皆を興味なさそうに眺めると、にこりと微笑む。

「いいよ。君が指輪を渡してくれたら見逃してあげる」

 本当だろうか。渡した後で殺されたりしないんだろうか。そんな不安がよぎったけど、選択の余地はない。
 ……ルーシェン、ごめん。

 俺は抱えられたまま指輪をのろのろと外した。それをひったくるように奪った男は、自分の指にはめる。

「少しゆるいな……まあいい」
『約束です。皆には手を出さないでください』
「君と約束なんてするつもりないんだけど、王宮で殺すのはまずいから、とりあえず遠くに行ってもらうよ」

 遠く?
 焦る俺の前で、ファンクラブの男は短い呪文を唱える。倒れていた侍女達の姿は赤い光に包まれて消えた。

『どこにやったんですか!?』

 みんな傷を負っていたのに。治療もせずにどこかに飛ばすなんて頭がおかしいとしか思えない。

「うるさいなぁ。自分の心配でもしたら?君もすぐに相応しい場所に送ってあげるから」

 何か反論をしようと思ったのに、俺はファンクラブの男が呪文を唱え、その口がさようならと動くのを見ていることしか出来なかった。


***

 気がついた時、俺は相変わらず二人に抱えられたまま暗い部屋に移動していた。
 みそぎの部屋とは違う。窓のない湿っぽい部屋だ。天井は高いけど、部屋には何もない。どこかに続く扉が一つあるだけだ。

『ここはどこで……むぐっ』

 ようやく床に下ろされたと思ったら、口に猿轡みたいなものを嵌められた。布じゃなくて革製だ。しかも噛み締めると変な味がする。両手も後ろ手に拘束された。こっちは革製じゃなくてただのロープみたいだ。

「立て」

 短く命令されてロープを引っ張られる。
きっと牢屋みたいな場所に連れて行かれて、閉じこめられるんだろうと思っていたら甘かった。

 ロープを引かれて移動した扉の先には鉄格子付きの牢屋が並ぶ廊下があった。牢屋といっても思い浮かぶ独房より大きくて、五、六人ずつ収容されている。
 異様なのは、中にいる男達の様子だ。皆上半身裸で、両手足には枷が嵌められていた。全員目が血走っている。鉄格子に貼り付いて、じっと俺たちを注視しているし、俺を見て奇声を上げるやつもたくさんいる。とてもまともには見えない。

「どうする?すぐに薬を与えるのか?」
「いや、薬は途中からにしろとの事だ。あまり早く壊れてもつまらないからな」
「相変わらず悪趣味な奴だ」

 俺を引っ張って来た二人が、かなり恐ろしい会話をしている。この人たちは何なんだ。どうしてこんな所に閉じこめられているんだろう。

 男の一人が、俺を一つの牢屋の前に連れて行き鍵を開ける。中にいた拘束された男達から奇声が上がった。他の牢屋からは、そいつをこっちに寄こせ、という罵声が飛ぶ。

「心配しなくても、全員にまわしてやるよ」

 やばい。心臓がバクバクする。
 ロープを引いていた男が、俺の髪を掴んで顔をのぞき込む。

「お前も災難だな。昨日までは王子様のお相手をしていたのに、今日からはこいつら奴隷の相手をしなきゃならないんだからな」
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