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波乱含みの婚約式
6 危機的状況③
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パンツははかせてもらえたけど、猿轡と拘束は解かれないまま、男二人に再び抱えられ、湿っぽい牢屋から今度は少し豪華な部屋へと魔法で移動する。
こんなに何度も移動したら、皆に見つけてもらうのが遅くなってしまう。この世界には防犯カメラもないし、みそぎの途中だったから携帯電話もない。GPS機能付きのリュックも、ルーシェンの指輪もない。
再び絶望的な気分で部屋に運ばれると、男二人は俺をソファーの上に下ろして、無言のまま退室した。
部屋はお金持ちの寝室のようなイメージで、家具は全て赤と金色を基調としていた。でも、空気が重苦しくて居心地が悪いし、部屋の中央には二メートルくらいの水槽がある。巨大水槽にはいいイメージがない。部屋には扉以外に窓が一つ。何とか窓際まで行って、外に出られないだろうか。
「初めて君を見た時から、ずっと気に入っていたんだよ」
中年の魔法使いは緑色の上着を脱ぎながら、猫なで声のような似合わない声を出した。
初めて……ってこんな親父会ったことないのに、どこかで見られてたのか?必死に記憶を探っていると、いつの間にかソファーの前に男が近づいていた。
「覚えてないかい?一年半ほど前かな。グリモフのパーティーで君を欲しいとお願いしたのに、君は賭の対象になってしまってね。まあ、あの時は仮面を被っていたからね」
「!?」
背筋がゾワリとした。
記憶が定かじゃないけど、グリモフのパーティーで声をかけてきた変態親父がいたような気がする。あいつか!
「あの水竜との戦いは素晴らしかったよ。それだけでも興奮して、どうしても君を手に入れたかったが、その後の王宮の捜査のせいで逃げるのに必死だったからね。迎えが遅れて悪かったね」
うわぁ、気持ち悪い!
「君の事は死んだとあきらめていたから、数ヶ月前に王子の帰還パーティーで見かけた時は心底驚いた。君は私に気づいていないようだったが、いつばれるかと不安が晴れなかったよ。手を出そうにも、王子の保護下に入ってしまったからね」
変態親父はそう言いながら、俺の頬や顎のあたりを撫でまわす。すごく気持ち悪くて全身に鳥肌が立った。
「息子は君を殺そうとしていたようだが、それなら私の奴隷にすればいい話だろう?君はグリモフの館で商品として売られていたくらいだ。もともと奴隷の才能がある。王太子妃などとんでもない話だ。王子は上手く騙せても私の目は誤魔化せないんだよ。大人しく私に従いなさい。逆らわなければ痛みより快感を与えてあげよう」
この変態親父……あのファンクラブ男の親父か。さすが親子。どっちも狂ってる。
逃げようと後ずさるのに、変態親父が杖を握りなおしただけで体がすくむ。
いろいろ見えるようになったせいで、この変態親父がただの変態ではなく、とんでもない魔法使いなのが分かる。杖は凶器だ。握られると、銃を突きつけられている気がする。
「私は声を上げさせるのが好きだから、これは外してあげよう。魔力はないようだが呪文を唱えられると困るから、念のため少しだけ薬を使わせてもらうよ」
薬!?
絶対に嫌だ!
首をブンブン振ると、変態親父はご機嫌に笑った。
「奴隷がわがままを言うんじゃない。薬といっても少しずつ使えば精神に異常をきたすこともない。それとも薬より魔法がいいかな?」
魔法!?
「ングッ……!?」
杖をトンと心臓の辺りに当てられただけなのに、電流のようにビリビリと衝撃が走った。
「やはり可愛らしい」
何だ今の……死ぬかと思った。
「ンッ……ンンッ……!」
変態親父は容赦なく俺の体に杖を振り下ろす。再びビリビリと身体が痺れて、全身がぴくぴくと痙攣した。
それでも意識はあって、ぐったりしたまま変態親父の方を見ていると、家具の引き出しから瓶を取り出すのが視界に映る。まずい……そう思うのに、身体が上手く動かない。魔法使いの男は俺の猿轡をはずすと、瓶を押し当てた。
じわりと口の中にまずい味が広がる。飲みたくない。でも、飲まなければさっきの魔法が待っている。
「っ、げほっ、げほっ」
無理矢理飲まされて、半分気管に入った。
「いろいろとお楽しみの準備をしてくるから、少しだけ待っていなさい。戻って来たら、薬ももっとたっぷり飲ませてあげよう」
変態親父はそれだけ言うと、むせている俺を残して扉から出て行った。
何とか起き上がってソファーの下に吐く。でも駄目だ。頭がぼんやりする。早く水を飲んで中和しなければ。
舌が痺れる。舌だけじゃなくて、手足も痺れて力が出ない。
かわりに下半身がムズムズし始めた。いつか飲まされた媚薬と似ている。身体が熱くて痒い。掻きむしりたい。誰かに触ってもらって出したい。誰か?いや、あんな親父なんて絶対に嫌だ。ルーシェンがいい。ルーシェン以外にこれ以上触られたくない。
しっかりしろ、今しか逃げるチャンスはないんだ。
頭を床に打ちつけて、少しだけ意識をクリアにした。必死に腕に力を込めると、少しだけロープが緩む。もう少しで外れるかも。
床を這って窓際まで移動する。早くしないと魔法使いが戻ってくる。
やっとの思いでカーテンのかかる窓から外を見れば、下の方に緑色の湖面が見えた。
緑水湖……だと思う。遠くに蜃気楼のように見えるのは、多分王宮だ。
おそらくこの建物は、緑水湖に突き出た形で建てられている。左右はよく見えないけど、湖面までは十メートルくらいか?飛び降りられない高さじゃない。
「おや、思ったより元気だね。さすがは私の見込んだ奴隷だ」
声がして背筋に冷や汗が滲んだ。振り返ると、いつの間に戻って来たのか、変態魔法使いが下着姿で立っていた。
こんなに何度も移動したら、皆に見つけてもらうのが遅くなってしまう。この世界には防犯カメラもないし、みそぎの途中だったから携帯電話もない。GPS機能付きのリュックも、ルーシェンの指輪もない。
再び絶望的な気分で部屋に運ばれると、男二人は俺をソファーの上に下ろして、無言のまま退室した。
部屋はお金持ちの寝室のようなイメージで、家具は全て赤と金色を基調としていた。でも、空気が重苦しくて居心地が悪いし、部屋の中央には二メートルくらいの水槽がある。巨大水槽にはいいイメージがない。部屋には扉以外に窓が一つ。何とか窓際まで行って、外に出られないだろうか。
「初めて君を見た時から、ずっと気に入っていたんだよ」
中年の魔法使いは緑色の上着を脱ぎながら、猫なで声のような似合わない声を出した。
初めて……ってこんな親父会ったことないのに、どこかで見られてたのか?必死に記憶を探っていると、いつの間にかソファーの前に男が近づいていた。
「覚えてないかい?一年半ほど前かな。グリモフのパーティーで君を欲しいとお願いしたのに、君は賭の対象になってしまってね。まあ、あの時は仮面を被っていたからね」
「!?」
背筋がゾワリとした。
記憶が定かじゃないけど、グリモフのパーティーで声をかけてきた変態親父がいたような気がする。あいつか!
「あの水竜との戦いは素晴らしかったよ。それだけでも興奮して、どうしても君を手に入れたかったが、その後の王宮の捜査のせいで逃げるのに必死だったからね。迎えが遅れて悪かったね」
うわぁ、気持ち悪い!
「君の事は死んだとあきらめていたから、数ヶ月前に王子の帰還パーティーで見かけた時は心底驚いた。君は私に気づいていないようだったが、いつばれるかと不安が晴れなかったよ。手を出そうにも、王子の保護下に入ってしまったからね」
変態親父はそう言いながら、俺の頬や顎のあたりを撫でまわす。すごく気持ち悪くて全身に鳥肌が立った。
「息子は君を殺そうとしていたようだが、それなら私の奴隷にすればいい話だろう?君はグリモフの館で商品として売られていたくらいだ。もともと奴隷の才能がある。王太子妃などとんでもない話だ。王子は上手く騙せても私の目は誤魔化せないんだよ。大人しく私に従いなさい。逆らわなければ痛みより快感を与えてあげよう」
この変態親父……あのファンクラブ男の親父か。さすが親子。どっちも狂ってる。
逃げようと後ずさるのに、変態親父が杖を握りなおしただけで体がすくむ。
いろいろ見えるようになったせいで、この変態親父がただの変態ではなく、とんでもない魔法使いなのが分かる。杖は凶器だ。握られると、銃を突きつけられている気がする。
「私は声を上げさせるのが好きだから、これは外してあげよう。魔力はないようだが呪文を唱えられると困るから、念のため少しだけ薬を使わせてもらうよ」
薬!?
絶対に嫌だ!
首をブンブン振ると、変態親父はご機嫌に笑った。
「奴隷がわがままを言うんじゃない。薬といっても少しずつ使えば精神に異常をきたすこともない。それとも薬より魔法がいいかな?」
魔法!?
「ングッ……!?」
杖をトンと心臓の辺りに当てられただけなのに、電流のようにビリビリと衝撃が走った。
「やはり可愛らしい」
何だ今の……死ぬかと思った。
「ンッ……ンンッ……!」
変態親父は容赦なく俺の体に杖を振り下ろす。再びビリビリと身体が痺れて、全身がぴくぴくと痙攣した。
それでも意識はあって、ぐったりしたまま変態親父の方を見ていると、家具の引き出しから瓶を取り出すのが視界に映る。まずい……そう思うのに、身体が上手く動かない。魔法使いの男は俺の猿轡をはずすと、瓶を押し当てた。
じわりと口の中にまずい味が広がる。飲みたくない。でも、飲まなければさっきの魔法が待っている。
「っ、げほっ、げほっ」
無理矢理飲まされて、半分気管に入った。
「いろいろとお楽しみの準備をしてくるから、少しだけ待っていなさい。戻って来たら、薬ももっとたっぷり飲ませてあげよう」
変態親父はそれだけ言うと、むせている俺を残して扉から出て行った。
何とか起き上がってソファーの下に吐く。でも駄目だ。頭がぼんやりする。早く水を飲んで中和しなければ。
舌が痺れる。舌だけじゃなくて、手足も痺れて力が出ない。
かわりに下半身がムズムズし始めた。いつか飲まされた媚薬と似ている。身体が熱くて痒い。掻きむしりたい。誰かに触ってもらって出したい。誰か?いや、あんな親父なんて絶対に嫌だ。ルーシェンがいい。ルーシェン以外にこれ以上触られたくない。
しっかりしろ、今しか逃げるチャンスはないんだ。
頭を床に打ちつけて、少しだけ意識をクリアにした。必死に腕に力を込めると、少しだけロープが緩む。もう少しで外れるかも。
床を這って窓際まで移動する。早くしないと魔法使いが戻ってくる。
やっとの思いでカーテンのかかる窓から外を見れば、下の方に緑色の湖面が見えた。
緑水湖……だと思う。遠くに蜃気楼のように見えるのは、多分王宮だ。
おそらくこの建物は、緑水湖に突き出た形で建てられている。左右はよく見えないけど、湖面までは十メートルくらいか?飛び降りられない高さじゃない。
「おや、思ったより元気だね。さすがは私の見込んだ奴隷だ」
声がして背筋に冷や汗が滲んだ。振り返ると、いつの間に戻って来たのか、変態魔法使いが下着姿で立っていた。
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