好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

文字の大きさ
102 / 209
新婚旅行

8 ヤバイ、本格的なやつだ。

しおりを挟む
「待て」

 寝ようと思ったのにルーシェンに止められた。

『何ですか?』
「何だその枕は」
『今日は旅行初日だし、せっかく大勢の人が乗っているんだから、みんなで楽しく雑談とかしながら過ごそうかと。ルーシェンの枕も持ってきました』
「そうか」

 あ、笑顔だ。
 ルーシェンも意外と乗り気なのか。

「部屋に戻るぞ」

 首に腕を回されて引っ張り起こされた。全然乗り気じゃなかった。

『イテテ……せっかく持ってきたのに……!』

 飛行部隊の隊員達が唖然としながらこっちを見ているので、引きずられながらもとりあえず手を振ってみせる。

『お邪魔しました。みなさんおやすみなさい!』

 今日一日で、俺のもともと高くない王太子妃としての評価がまた下がったんじゃないだろうか。そんな気がする一日だった。


***

『そんなに怒らなくても』
「別に怒ってなどいない」
『眉間にシワがよってますよ』

 ルーシェンは部屋に入ると、着ていた普段よりきらびやかな白い上着を脱いでベッドに放り投げた。ちなみに普段ルーシェンはそんな事はしない。これをする時は疲れているか機嫌が悪い時のどちらかだ。俺けっこうルーシェンの行動を把握してるな。今はフィオネさんがいないから上着は俺が拾って椅子にかけてみる。

『お風呂でも入りますか?』

 ルーシェンはベッドに横になってじっと俺を見てる。まだ怒ってるのかな。

『あの……幽霊が一緒なので部屋に一人だと怖くて。でもルーシェンに取り憑いたら困るし。やっぱり飛行部隊の部屋で雑魚寝とか、駄目ですか?』

 ルーシェンが手招きしたので、おずおずとベッドに近寄る。出来るだけ離すようにした左手をルーシェンが掴んだ。

「手が冷たいな」
『あ……!』

 俺にくっついていた侍女の幽霊が、待ち構えたようにルーシェンに手を伸ばすのが見えた。慌てて阻止しようとしたけど、そもそも実体がないから掴めない。

(王子様……)

 俺の耳にか細い女性の声が響き、ゾワっと背筋が寒くなった。侍女の幽霊が、ルーシェンの肩にゆっくりと移動する。

『ルーシェン、肩に……』
「肩?」

 嬉しそうにルーシェンの首にまとわりつく侍女の幽霊。
 実体はないけど首筋に唇を寄せる姿を見て、怖さより嫉妬心が勝った。幽霊を押し除けるようにしてルーシェンの首に腕を回すと、急にずっしりと背中が重くなった。
 目の前がすうっと暗くなる。視界が狭くなって、寒さからくる震えがきて、気持ち悪くなった。無意識に指輪を擦ると、それに気づいたルーシェンが焦って俺の顔を覗き込む。

「シュウヘイ!?」

 魔法は使うなというルーシェンの声が遠くから聞こえてくるみたいだ。水の中に潜ったみたいで音が不明瞭になる。指輪を擦ったのに力が出ないし、視界が半分暗いままだ。

(王子様……)
「ルーシェン」

 伸ばした腕が、誰かの手と重なって見えた。白くて綺麗な手、夢で見た侍女の腕だ。

 ヤバい。
 これ絶対に取り憑かれてるよ。

 それも腕にくっついてるとかいうレベルじゃなくて、なんというか全身に入り込んでる感覚に近い。
 身体が重くてあまりいう事をきかない。ベッドにズルズルと崩れ落ちて、ルーシェンが心配そうに俺の顔を覗き込み、肩を抱く。

「大丈夫か!? 心臓がどうかしたのか!?」

 取り憑かれた事を言おうとして、思いとどまった。

(王子様……! 私、貴方様に謝らなければと、ずっと離れで待っておりましたの……)

 俺に取り憑いた妖精さんが耳元で話してる声が聞こえる。必死にルーシェンに訴えているみたいだ。

『心臓じゃないです……侍女の幽霊がすぐそばにいて、身体が重くて』
「どうすればいい?」

 こんなに焦ってるルーシェン、久しぶりに見たなぁとなんとなく思う。おろおろしてて可愛いな。王子様に可愛いって失礼かな。

『少し、横になったら楽になると思います』
「待っていてくれ。すぐに治療師を呼ぶ」
『いえ、そばにいて……添い寝してください』

 出て行こうとするルーシェンを引き止めて抱き寄せた。抱き寄せたのは俺と白い手の両方だ。
 身体はだるいけど、王妃様の助けがすぐに来ない以上、とにかく妖精さんの要求を聞いて成仏してもらう方法を探すしかない。それには多分ルーシェンの協力が必要だ。

(いつまで待っても会いに来てくださらなくて……ずっとお会いしとうございました。私を許してくださいませ……)

 妖精さんがずっと耳のそばでで繰り返してる。これはきっと、ルーシェンから許すという言葉を引き出したらミッションクリアじゃないだろうか。









しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...