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新婚旅行
8 ヤバイ、本格的なやつだ。
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「待て」
寝ようと思ったのにルーシェンに止められた。
『何ですか?』
「何だその枕は」
『今日は旅行初日だし、せっかく大勢の人が乗っているんだから、みんなで楽しく雑談とかしながら過ごそうかと。ルーシェンの枕も持ってきました』
「そうか」
あ、笑顔だ。
ルーシェンも意外と乗り気なのか。
「部屋に戻るぞ」
首に腕を回されて引っ張り起こされた。全然乗り気じゃなかった。
『イテテ……せっかく持ってきたのに……!』
飛行部隊の隊員達が唖然としながらこっちを見ているので、引きずられながらもとりあえず手を振ってみせる。
『お邪魔しました。みなさんおやすみなさい!』
今日一日で、俺のもともと高くない王太子妃としての評価がまた下がったんじゃないだろうか。そんな気がする一日だった。
***
『そんなに怒らなくても』
「別に怒ってなどいない」
『眉間にシワがよってますよ』
ルーシェンは部屋に入ると、着ていた普段よりきらびやかな白い上着を脱いでベッドに放り投げた。ちなみに普段ルーシェンはそんな事はしない。これをする時は疲れているか機嫌が悪い時のどちらかだ。俺けっこうルーシェンの行動を把握してるな。今はフィオネさんがいないから上着は俺が拾って椅子にかけてみる。
『お風呂でも入りますか?』
ルーシェンはベッドに横になってじっと俺を見てる。まだ怒ってるのかな。
『あの……幽霊が一緒なので部屋に一人だと怖くて。でもルーシェンに取り憑いたら困るし。やっぱり飛行部隊の部屋で雑魚寝とか、駄目ですか?』
ルーシェンが手招きしたので、おずおずとベッドに近寄る。出来るだけ離すようにした左手をルーシェンが掴んだ。
「手が冷たいな」
『あ……!』
俺にくっついていた侍女の幽霊が、待ち構えたようにルーシェンに手を伸ばすのが見えた。慌てて阻止しようとしたけど、そもそも実体がないから掴めない。
(王子様……)
俺の耳にか細い女性の声が響き、ゾワっと背筋が寒くなった。侍女の幽霊が、ルーシェンの肩にゆっくりと移動する。
『ルーシェン、肩に……』
「肩?」
嬉しそうにルーシェンの首にまとわりつく侍女の幽霊。
実体はないけど首筋に唇を寄せる姿を見て、怖さより嫉妬心が勝った。幽霊を押し除けるようにしてルーシェンの首に腕を回すと、急にずっしりと背中が重くなった。
目の前がすうっと暗くなる。視界が狭くなって、寒さからくる震えがきて、気持ち悪くなった。無意識に指輪を擦ると、それに気づいたルーシェンが焦って俺の顔を覗き込む。
「シュウヘイ!?」
魔法は使うなというルーシェンの声が遠くから聞こえてくるみたいだ。水の中に潜ったみたいで音が不明瞭になる。指輪を擦ったのに力が出ないし、視界が半分暗いままだ。
(王子様……)
「ルーシェン」
伸ばした腕が、誰かの手と重なって見えた。白くて綺麗な手、夢で見た侍女の腕だ。
ヤバい。
これ絶対に取り憑かれてるよ。
それも腕にくっついてるとかいうレベルじゃなくて、なんというか全身に入り込んでる感覚に近い。
身体が重くてあまりいう事をきかない。ベッドにズルズルと崩れ落ちて、ルーシェンが心配そうに俺の顔を覗き込み、肩を抱く。
「大丈夫か!? 心臓がどうかしたのか!?」
取り憑かれた事を言おうとして、思いとどまった。
(王子様……! 私、貴方様に謝らなければと、ずっと離れで待っておりましたの……)
俺に取り憑いた妖精さんが耳元で話してる声が聞こえる。必死にルーシェンに訴えているみたいだ。
『心臓じゃないです……侍女の幽霊がすぐそばにいて、身体が重くて』
「どうすればいい?」
こんなに焦ってるルーシェン、久しぶりに見たなぁとなんとなく思う。おろおろしてて可愛いな。王子様に可愛いって失礼かな。
『少し、横になったら楽になると思います』
「待っていてくれ。すぐに治療師を呼ぶ」
『いえ、そばにいて……添い寝してください』
出て行こうとするルーシェンを引き止めて抱き寄せた。抱き寄せたのは俺と白い手の両方だ。
身体はだるいけど、王妃様の助けがすぐに来ない以上、とにかく妖精さんの要求を聞いて成仏してもらう方法を探すしかない。それには多分ルーシェンの協力が必要だ。
(いつまで待っても会いに来てくださらなくて……ずっとお会いしとうございました。私を許してくださいませ……)
妖精さんがずっと耳のそばでで繰り返してる。これはきっと、ルーシェンから許すという言葉を引き出したらミッションクリアじゃないだろうか。
寝ようと思ったのにルーシェンに止められた。
『何ですか?』
「何だその枕は」
『今日は旅行初日だし、せっかく大勢の人が乗っているんだから、みんなで楽しく雑談とかしながら過ごそうかと。ルーシェンの枕も持ってきました』
「そうか」
あ、笑顔だ。
ルーシェンも意外と乗り気なのか。
「部屋に戻るぞ」
首に腕を回されて引っ張り起こされた。全然乗り気じゃなかった。
『イテテ……せっかく持ってきたのに……!』
飛行部隊の隊員達が唖然としながらこっちを見ているので、引きずられながらもとりあえず手を振ってみせる。
『お邪魔しました。みなさんおやすみなさい!』
今日一日で、俺のもともと高くない王太子妃としての評価がまた下がったんじゃないだろうか。そんな気がする一日だった。
***
『そんなに怒らなくても』
「別に怒ってなどいない」
『眉間にシワがよってますよ』
ルーシェンは部屋に入ると、着ていた普段よりきらびやかな白い上着を脱いでベッドに放り投げた。ちなみに普段ルーシェンはそんな事はしない。これをする時は疲れているか機嫌が悪い時のどちらかだ。俺けっこうルーシェンの行動を把握してるな。今はフィオネさんがいないから上着は俺が拾って椅子にかけてみる。
『お風呂でも入りますか?』
ルーシェンはベッドに横になってじっと俺を見てる。まだ怒ってるのかな。
『あの……幽霊が一緒なので部屋に一人だと怖くて。でもルーシェンに取り憑いたら困るし。やっぱり飛行部隊の部屋で雑魚寝とか、駄目ですか?』
ルーシェンが手招きしたので、おずおずとベッドに近寄る。出来るだけ離すようにした左手をルーシェンが掴んだ。
「手が冷たいな」
『あ……!』
俺にくっついていた侍女の幽霊が、待ち構えたようにルーシェンに手を伸ばすのが見えた。慌てて阻止しようとしたけど、そもそも実体がないから掴めない。
(王子様……)
俺の耳にか細い女性の声が響き、ゾワっと背筋が寒くなった。侍女の幽霊が、ルーシェンの肩にゆっくりと移動する。
『ルーシェン、肩に……』
「肩?」
嬉しそうにルーシェンの首にまとわりつく侍女の幽霊。
実体はないけど首筋に唇を寄せる姿を見て、怖さより嫉妬心が勝った。幽霊を押し除けるようにしてルーシェンの首に腕を回すと、急にずっしりと背中が重くなった。
目の前がすうっと暗くなる。視界が狭くなって、寒さからくる震えがきて、気持ち悪くなった。無意識に指輪を擦ると、それに気づいたルーシェンが焦って俺の顔を覗き込む。
「シュウヘイ!?」
魔法は使うなというルーシェンの声が遠くから聞こえてくるみたいだ。水の中に潜ったみたいで音が不明瞭になる。指輪を擦ったのに力が出ないし、視界が半分暗いままだ。
(王子様……)
「ルーシェン」
伸ばした腕が、誰かの手と重なって見えた。白くて綺麗な手、夢で見た侍女の腕だ。
ヤバい。
これ絶対に取り憑かれてるよ。
それも腕にくっついてるとかいうレベルじゃなくて、なんというか全身に入り込んでる感覚に近い。
身体が重くてあまりいう事をきかない。ベッドにズルズルと崩れ落ちて、ルーシェンが心配そうに俺の顔を覗き込み、肩を抱く。
「大丈夫か!? 心臓がどうかしたのか!?」
取り憑かれた事を言おうとして、思いとどまった。
(王子様……! 私、貴方様に謝らなければと、ずっと離れで待っておりましたの……)
俺に取り憑いた妖精さんが耳元で話してる声が聞こえる。必死にルーシェンに訴えているみたいだ。
『心臓じゃないです……侍女の幽霊がすぐそばにいて、身体が重くて』
「どうすればいい?」
こんなに焦ってるルーシェン、久しぶりに見たなぁとなんとなく思う。おろおろしてて可愛いな。王子様に可愛いって失礼かな。
『少し、横になったら楽になると思います』
「待っていてくれ。すぐに治療師を呼ぶ」
『いえ、そばにいて……添い寝してください』
出て行こうとするルーシェンを引き止めて抱き寄せた。抱き寄せたのは俺と白い手の両方だ。
身体はだるいけど、王妃様の助けがすぐに来ない以上、とにかく妖精さんの要求を聞いて成仏してもらう方法を探すしかない。それには多分ルーシェンの協力が必要だ。
(いつまで待っても会いに来てくださらなくて……ずっとお会いしとうございました。私を許してくださいませ……)
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