好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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新婚旅行

9 許す

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『あの……魔法村で喧嘩した事ありましたよね? あれ、まだ怒ってますか?』

 なんとか許すというキーワードをルーシェンから引き出そうと思って思いついたのがこれ。だけどルーシェンは乗ってこなかった。

「急にどうした。話していて大丈夫か? やはり薬を飲んだ方がいい」

(薬……!)

 かわりに俺の中にいる侍女の幽霊が、ルーシェンの言葉に反応した。力を増したのか喉が急に苦しくなる。

(死にたくない……! 喉が苦しい! 王子様! 助けて……!)

「シュウヘイ!?」

 これ多分、毒を飲んで自殺したっていう侍女の記憶だ。喉が痛い。喉というか肺というか、全身に痛みが回って、ヤバイ気がする。
多分架空の痛みのはずなんだけど、嘘だろっていうくらい実感がある。目の前がますます暗くなって、必死にルーシェンを抱きしめると、唇に何か触れた。

『……』

 軽く触れたそれは、柔らかくて馴染み深くて……すごく落ち着く。

 こっちの世界にも人工呼吸ってあるのかな。空気を分けて貰ってるのか?
 いや、ただのキスだな。でも特別なやつだ。とても気持ち良くて幸せな気持ちになるあれ。
 喉が楽になった。全身から痛みが取れて力が抜ける。

『ふ……っ……ん』

 気持ちいい。気持ち良すぎて舌を入れると、応えてくれるかわりに唇が離れた。

 目を開けると心配そうな表情のルーシェンと目があった。視界から暗さが消えてかなりクリアになってる。

「大丈夫か?」

 フィオネさんが、侍女はルーシェンにも毒を盛ったって言ってたよな。ということは、あの苦しみをルーシェンも味わったのか。
 今の俺みたいにキスして楽にしてもらえたわけでもなく、後遺症にも苦しめられたって言ってた。
 きっと苦しかっただろうな。侍女を許せなくて当然だ。

『ルーシェン、侍女の幽霊が……謝ってます。ごめんなさいって、許してくださいって』

 ルーシェンはしばらく無言で俺の顔を見ていたけど、やがて微笑んだ。

「仕方ないな。許してやるか」

 え、本当に?
 そんなにすんなりと許すとは思ってなかったから、びっくりしてルーシェンの顔をまじまじと見ると、王子は急に真顔になった。

「そのかわり、シュウヘイの前に二度と現れるな」

 低い声でルーシェンが告げると、ぶわりとためいきのような生暖かい風が吹いたような気がして、冷えていた手の感覚がゆっくり戻ってきた。
 おそるおそるベッドに起き上がると、部屋の天井や壁をぐるりと見回した。見える範囲で背中や肩を見る。両手も。
 白い腕は見えない。

「シュウヘイ?」
『……いません』

 妖精さんがいない。消えてる。
 ルーシェンの言葉のせいかな? それともキスした時から?

 成仏できたんだろうか。
 よく分からないけど、姿が見えなくなったことだけは事実だ。

『……幽霊、消えました』
「そうか」
『ありがとうございます! ルーシェンのおかげです』
「怖さも痛みもなくなったのか?」
『はい』

 嘘みたいに身体が軽い。
 嬉しくて飛びつくと、困ったように背中をポンポンと撫でられた。


***

「シュウヘイはよくユウレイとやらを見るのか?」
『姿はあまり見たことなかったです。気配を感じる事が多くて。あとは音とか』
「異世界人はみんなそうなのか」
『いえ、見えない人の方が多いです。話すと怖がられるし、あまり言えないんです』
「そうか」
『でもルーシェンは信じてくれましたよね。見えないのに。ありがとうございます』

 結局あのあと妖精さんの姿を見ることはなかった。そのあとで入ったお風呂は、妖精さんが消えたとはいえやっぱり怖いので、ルーシェンにくっついてさっと入り、目を開けて髪を洗っていたら、魔法村を思い出すとルーシェンに笑われた。
 そういえばあの時も、ルーシェンに見張りを頼んでいた気がする。今思えばとんでもないな。

 お風呂から上がると、薬を飲めというルーシェンに素直に従って、器に入った青汁みたいな物を飲んで寝ることにした。

『私みたいなのがルーシェンと婚約して、みんなガッカリしているんじゃないでしょうか』

 ベッドに入って他愛無い話をする。
 腕を伸ばすと左手を撫でてくれた。まだ冷えているのかと心配してるらしい。

「そうか? 俺の周りではシュウヘイは人気者だぞ」
『周りって誰ですか?』

 まさか王子様の婚約者を本人に向かって批判する部下なんていないだろ。

「フィオネやアークやロベルトに、シュウヘイの護衛をしているジョージもだ」
『ロベルトさんには嫌われてます』

 そういうと、ルーシェンは笑い出した。

「いや、ロベルトはシュウヘイを気に入ってる。あいつは態度に出さないだけだ」

 そうなのか? そう言われても腑に落ちないな。結婚を反対されていたような気がするし。







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