好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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雲の谷へ

4 不安

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 夕食の後、もやもやしたまま部屋に戻った。他の従者が浴室にお湯と着替えを用意してくれてる。非常事態なのになんだか申し訳ないと思ったけど、水もお湯も簡単な魔法と安い魔法石でなんとかなるらしい。甘える事にしてゆっくりとお風呂に浸かった。

 今日からしばらく何もしないのか。自分の身体を洗いながらそんなことを考える。火竜の火傷の跡が腕にぽつぽつ残っていて、ぬるま湯でも少しヒリヒリした。魔法の傷跡の残る心臓のあたりは今は全然痛くない。

 もしも子供を産めるとしたら、どんな身体になるんだろう。男に生まれたからそんなこと考えもしなかった。そもそも痛みに弱い男に出産なんて耐えられるのか疑問だ。
 俺の子供は別に欲しいと思わないけど、ルーシェンの子供なら欲しいかもしれないな。ルーシェンそっくりの子供だったらきっとすごく可愛いとおもう。

 まあ、そんなできるかどうか分からない未来を考えるより、今は心臓の治療と魔物の凶暴化をなんとかすることが優先だな。

 お風呂から上がると、ポリムに髪を乾かしてもらって、火傷の薬を塗ってもらいながら明日のスケジュールを聞く。雲の谷までは浮島で三日はかかるというから、明日も今日と同じような一日になるはずだ。魔物の襲撃がなければ。

 三日か。
 三日後に雲の谷へ到着して、それから一日は挨拶や物資の補充でつぶれるはずだ。問題は俺の心臓の治療に何日かかるのか分からないってことだな。万能薬って飲んですぐに効くイメージだから、薬が効いて心臓が治るのもはやいと思うんだけど。出来れば一週間くらいで治して戻って来たい。砦で戦っているルーシェンが心配だし、そばにいたい。

「ミサキ様、何かお悩みでもあるのですか?」
『ルーシェン達が心配で』
「そうですよね……。でも大丈夫です。王子様はお強い方ですし、アーク様やエルヴィン様もそばについてますから」

 エルヴィンがそばについているのは個人的に嫌だな。でも、ポリムにそんなことを話して余計な心配をかけるのも悪いから、そうですねとだけ言って眠ることにした。

「おやすみなさい」

 ポリムが部屋を出て行って、部屋は小さな魔法石が光るだけの暗さになった。別れる前にルーシェンにもらったマントを布団の上からかけて眠ることにした。

***

 嫌な夢を見ていた。

 ベッドに寝そべったルーシェンに、もたれかかるように抱きついているエルヴィン。兵士とは思えないほど肌が露出した服を来て、ルーシェンにお酒をすすめてる。

(王太子妃様がいない間は私が王子の身の回りの世話をつとめます)

 エルヴィンは俺が見ているのに気づいてニヤニヤと笑った。

(王子、役に立たない異世界人より私の方が貴方の恋人にふさわしいとおもいませんか?)

 エルヴィンはそう言ってルーシェンに唇を寄せる。ルーシェンは酔っているのか、少しも避ける素振りを見せない。

(ルーシェンに触るな!)

 頭にきてエルヴィンを引きはがそうとしたのに、魔法をかけられたのか全く身動きがとれなくなった。

(王子、私なら貴方の子供を産んで差し上げられますよ)
(子供か……確かに世継ぎは必要だな)
(嫌だ! ルーシェン!)


 ぎゅうっと締め付けられるように心臓が痛くなり、目が覚めた。あたりが静かだからまだきっと夜中だ。

 ひどい汗をかいていた。嫌な夢だった。
 俺の不安を具現化したような夢。たまに予知夢みたいなものを見るけど、違うよな? これはきっとそんなのじゃない。そう思うのに、心臓がいつまでもズキズキと痛み、なかなかおさまらない。胸を押さえてベッドの中でうずくまり、少しでも痛みがおさまるのを待った。

 ふいに足元の方から何か変な気配を感じた。足元が崩れていくような、何かが壊れるような感覚。見に行きたいけど胸が痛くて動けない。
 
 カタカタとベッドサイドに置いていた本や巻物が揺れてる。
 地震か、と日本出身の俺なら思うところだけどここは日本じゃないし、この浮島は空に浮いてる。

 魔物の攻撃……?
 それにしてはなんの気配も感じなかった。そのうちに揺れはどんどん酷くなり、室内に置かれた家具がガタガタと揺れる。
 もしかして、落下してるのか?


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