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雲の谷へ
6 俺がしっかりしないと
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動力部といえば、婚約旅行の初日にルーシェンに頼んで見せてもらった場所だ。
巨大な丸い石板に描かれた複雑な魔法陣に、綺麗な魔法石が配置されていた記憶がある。
「魔法陣に何かあったのか?」
譲二さんにはロベルト隊長の手伝いを、ポリムには負傷者の回復の応援をお願いしたから動力部にいるのは俺と如月の二人だ。そこは以前覗いた時とはどこか様子が違っていた。
何が違うかはすぐにわかった。魔法陣の中に魔法石が一つも残っていない。空っぽだ。
そのせいか魔法陣から何の力も感じない。その横には書き殴ったような呪文も残されていた。この呪文は最初に見た時にはなかったと思う。
「これって……」
如月が呪文の横に座り、ポケットからカメラ付きの携帯電話を取り出すと呪文を数枚撮影した。それから立ち上がって俺の方を向く。
「ここの責任者の男、確か設計課のホレスとかいう男でしたね」
「そう名乗ってたと思う」
ホレスの姿はどこにもない。
「この部屋の隅に、消えていますが転移魔法陣の痕跡があります。ここに書いてある呪文は簡単な浮遊の魔法。浮島を数刻浮かせるくらいの力があります。多分逃走の時間を稼ぐためのものですね。ホレスは魔法石を盗んで他国に逃げたのだと思います」
「そ……それって」
大罪じゃないんだろうか。職務放棄ってことだよな。結果、浮島は墜落して怪我人だって大勢出てる。
俺の表情を読んだみたいに如月が続けた。
「裏切り行為ですから、王子に知られたら確実に処刑されますね。ですが今は非常事態です。国王も王妃も王子も不在で、国境警備は全て凶暴化した魔物の対応で手一杯ですし、逃げ出すのは容易だったと思います。最初から盗む気だったとは思えませんが、花粉で魔物が凶暴化し、王子が砦に残ったあたりで思いついたのでしょう。この浮島に残った少ない人数なら捕まることなく逃げ切れると判断されたようですね」
「それでロベルトさんが怒ってたのか……」
「ええ、激怒してます。あの方は主君を裏切るような配下が一番嫌いですからね。私も少しは気持ちが分かります」
如月はあまり怒っているようには見えなかったけど、目を凝らすといつもよりちょっとだけ赤いオーラが激しいような気がした。
それで思い出した。ホレスのオーラは誰かに似てると思った事を。似てるのは如月だ。穏やかそうに見えて攻撃的な赤いオーラをしていることとか。おそらく能力とか似てるんだと思う。
「でもそんな悪い奴には見えなかったのに……」
エルヴィンみたいに真っ黒なオーラでもなかったし。俺に敬意を払ってない事は分かったけど、裏切るなんて。
そうか。敬意がないから守る必要もないって事なのか……。
如月は眼鏡を指で直した。
「打算的な人間なのでしょう。今の人数では確かにホレスを追跡する事は難しいですが、放っておくわけにもいかないので、証拠を押さえておいて捜索依頼を出しておきますね」
「魔法石なんて、何で持って逃げたんだ?」
「飛行船や浮島に使える魔法石は、かなり高価なのです。一つあれば小さな城が買えるくらいの値段ですから、複数あれば一生遊んで暮らせるお金にはなりますね。それに研究者なら、情報や技術を売り込めば他国に匿ってもらえるでしょう」
ルーシェンがこの浮島にいたら、ホレスも逃亡なんてしなかったんだろうな。つまり……俺が異世界人で魔力がないからなめられてたってことか。
確かに、浮島が墜落してしまってこの先どうしていいかわからない。俺には何の力もないからな。
如月が落ち込む俺の肩に手を置いた。普段ならルーシェンがいるから絶対にしないだろうけど、今はそれがありがたい。
「とりあえず、この先の対策を話し合いましょう。ロベルト隊長にも声をかけます。落ち込んでいる暇はありませんよ、ミサキ様」
そうだ。俺がしっかりしないと。実力はなくてもこの船で一番立場が上なんだから、みんなを守る義務がある。
巨大な丸い石板に描かれた複雑な魔法陣に、綺麗な魔法石が配置されていた記憶がある。
「魔法陣に何かあったのか?」
譲二さんにはロベルト隊長の手伝いを、ポリムには負傷者の回復の応援をお願いしたから動力部にいるのは俺と如月の二人だ。そこは以前覗いた時とはどこか様子が違っていた。
何が違うかはすぐにわかった。魔法陣の中に魔法石が一つも残っていない。空っぽだ。
そのせいか魔法陣から何の力も感じない。その横には書き殴ったような呪文も残されていた。この呪文は最初に見た時にはなかったと思う。
「これって……」
如月が呪文の横に座り、ポケットからカメラ付きの携帯電話を取り出すと呪文を数枚撮影した。それから立ち上がって俺の方を向く。
「ここの責任者の男、確か設計課のホレスとかいう男でしたね」
「そう名乗ってたと思う」
ホレスの姿はどこにもない。
「この部屋の隅に、消えていますが転移魔法陣の痕跡があります。ここに書いてある呪文は簡単な浮遊の魔法。浮島を数刻浮かせるくらいの力があります。多分逃走の時間を稼ぐためのものですね。ホレスは魔法石を盗んで他国に逃げたのだと思います」
「そ……それって」
大罪じゃないんだろうか。職務放棄ってことだよな。結果、浮島は墜落して怪我人だって大勢出てる。
俺の表情を読んだみたいに如月が続けた。
「裏切り行為ですから、王子に知られたら確実に処刑されますね。ですが今は非常事態です。国王も王妃も王子も不在で、国境警備は全て凶暴化した魔物の対応で手一杯ですし、逃げ出すのは容易だったと思います。最初から盗む気だったとは思えませんが、花粉で魔物が凶暴化し、王子が砦に残ったあたりで思いついたのでしょう。この浮島に残った少ない人数なら捕まることなく逃げ切れると判断されたようですね」
「それでロベルトさんが怒ってたのか……」
「ええ、激怒してます。あの方は主君を裏切るような配下が一番嫌いですからね。私も少しは気持ちが分かります」
如月はあまり怒っているようには見えなかったけど、目を凝らすといつもよりちょっとだけ赤いオーラが激しいような気がした。
それで思い出した。ホレスのオーラは誰かに似てると思った事を。似てるのは如月だ。穏やかそうに見えて攻撃的な赤いオーラをしていることとか。おそらく能力とか似てるんだと思う。
「でもそんな悪い奴には見えなかったのに……」
エルヴィンみたいに真っ黒なオーラでもなかったし。俺に敬意を払ってない事は分かったけど、裏切るなんて。
そうか。敬意がないから守る必要もないって事なのか……。
如月は眼鏡を指で直した。
「打算的な人間なのでしょう。今の人数では確かにホレスを追跡する事は難しいですが、放っておくわけにもいかないので、証拠を押さえておいて捜索依頼を出しておきますね」
「魔法石なんて、何で持って逃げたんだ?」
「飛行船や浮島に使える魔法石は、かなり高価なのです。一つあれば小さな城が買えるくらいの値段ですから、複数あれば一生遊んで暮らせるお金にはなりますね。それに研究者なら、情報や技術を売り込めば他国に匿ってもらえるでしょう」
ルーシェンがこの浮島にいたら、ホレスも逃亡なんてしなかったんだろうな。つまり……俺が異世界人で魔力がないからなめられてたってことか。
確かに、浮島が墜落してしまってこの先どうしていいかわからない。俺には何の力もないからな。
如月が落ち込む俺の肩に手を置いた。普段ならルーシェンがいるから絶対にしないだろうけど、今はそれがありがたい。
「とりあえず、この先の対策を話し合いましょう。ロベルト隊長にも声をかけます。落ち込んでいる暇はありませんよ、ミサキ様」
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