好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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雲の谷へ

16 野宿

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 体感時刻はまだ夕方にもなっていないのに、分厚い雲のせいで日没後のような雰囲気だ。さらに岩山の上には霧がかかっていて視界も悪いし気温も低い。

「魔物が寄ってくるかもしれませんので灯りは消しましょう。ミサキ様、ロベルト隊長が防御結界魔法をはっておりますのでご安心を。そのかわり結界を通り抜けると身体に触りますので注意してください」

『はい』

 譲二さんはロベルトさんの防御結界の場所を教えてくれた。本当は教えてもらわなくても、目を凝らすとドーム状に幕を張ったようは白い魔法が見えるんだけど、他の人には見えないらしいので説明を聞いておいた。
 結界は思ったより広いから、夜中にトイレに行きたくなっても大丈夫だ。トイレは少し離れた岩場の陰に作られていて、各自が適当にすませるらしい。飲み物も食料も少なくて、あまり飲み食いしてないからトイレに行く回数も少なくてすんでる。でも俺は男だからまだいいけど、ポリムやテレサさんは大変じゃないかな。魔法が使える人は魔法でどうにかすることもできるみたいだけど、何をどうするのかは聞けなかった。

 防御結界の一番中央に俺が寝ることになっていて、隣にポリムとテレサさん。反対隣に譲二さんと飛行部隊の隊員。一番外側にロベルトさん。さらにその周囲に四頭の飛竜が寝そべっている。その外側が防御結界だ。
 野宿をするのは久しぶりだけど、俺には立派な敷物と布団が用意されているのに対して、飛行部隊の隊員は寝袋程度の簡易の寝具しかない。ポリムとテレサさんに譲ろうとしたけどやっぱり断られた。テレサさんいわく、飛竜のお腹にもたれて眠れば全然痛くないという事だ。やっぱりかっこいいな。

 交代で見張りをするという飛行部隊の隊員を一人除いて、みんなそれぞれ横になった。グルルル、と飛竜の寝息が聞こえてくる。起きている飛竜もいて、その赤い目が闇の中に浮かんで見えるのも新鮮だ。空に厚い雲がかかっていなければ、きっと星空が見えて王都のルーシェンの寝室を思い出しただろうな。
 ルーシェン、今頃どうしてるかな。砦にいるからまだ眠ってはいないと思う。隣にエルヴィンがいなければいいけど。

***

 やっぱり嫌な夢を見た。
 浅い眠りの中で、何度もカゲクイに追いかけられる。飛竜が身体半分飲み込まれていて、必死で助けようとするけどうまく動けない。俺の足下もぐにゃりと沈んで、どんどん飲み込まれてしまう。遠くにルーシェンがいて必死に手を伸ばすけど、ルーシェンは沈む俺を見ても顔色ひとつ変えず、助けようとしてくれなかった。隣にいるエルヴィンに手を引かれてもっと遠くへ行ってしまう。ルーシェンの周りにもやもやした黒い影が見えた。あの影はなんだろう。どこかで見たことがある……。

「ルーシェン……」

 心臓を押さえて目を覚ました。胸が痛い。心の痛みじゃなくて現実に。ビリビリと痺れるような痛みだ。あの、変態オヤジに受けた雷の魔法に似てる。

「うう……」

 うつ伏せになって必死に痛みに耐える。もう少ししたら、ましになるはずだ。

「ミサキ様!」

 ポリムの小声だけど鋭い声がした。俺の背中をさすり、口元になにか用意してくれる。

「薬です! 早くお飲みください」
『あり……がとう』

 いつも飲んでいる苦いやつじゃなくて、緊急用の痛み止めだ。甘くてよく効くんだよな。
 むせながら薬を飲んで、痛みが少しやわらぐ。落ち着いて周囲を見回すと、みんなが起きて俺を見守っていた。

『すみません……起こしてしまって』

「うなされておいででした。心臓は大丈夫ですか?」

『はい。もう大丈夫です』

 何ともないと笑ってみせたけど、みんなの俺を見る目が全然笑ってない。もしかして俺、今危ない状況だったのかな。





 


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