好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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帰還

22 王宮の守り神

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 口から血を流した兵士は身体を引きずりながらエルヴィンの前に立ちはだかった。王妃様がごく自然に道の端に移動して兵士を避ける。

(隊長……)

 兵士は通り過ぎようとしたエルヴィンの身体にしがみついた。エルヴィンは一瞬だけ不思議そうな顔をしたけど、気に留めることなく王妃様と笑顔で話をしている。
 兵士の身体の輪郭がぼやけていく。エルヴィンの黒いオーラと混ざり合い、同化しているみたいに思えた。怖すぎて手の震えが止まらない。

「シュウヘイ? 寒いのか」

 エルヴィンの黒いオーラ、あれは俺に向けられた憎悪みたいなものだと思っていたけど、どうやら違うらしい。エルヴィン自身に向けられた他人からの怨みや悪霊みたいなものの塊だったんだ。あんなに誰かの怨みを背負って笑顔で生きているなんて怖すぎる。

「先に飛行船に行き安静にしていろ。また熱が出るかもしれない」
『大丈夫です……あの、ルーシェン、私を処刑しようとした主犯を捕らえたって言いましたよね?』
「ああ。そう言ったが、本当に大丈夫なのか?」
『その人はどうなったんですか?』
「地下牢にいるはずだ」
『どんな様子かあとで教えてください』
「分かった。アークに聞いておくから、シュウヘイは何も気にするな」

 もしかしたらエルヴィンの罪を被せられて殺されたのかもしれない。自分の部下なのに。

「顔色が悪いわ。大丈夫?」

 王妃様が震えている俺を見てベンチにやってきた。同じ風景をみているはずなのに王妃様は平然としている。それとも王妃様と俺とでは、見えている世界が違うのだろうか。

「母上」
「ミサキ、飛行船のわたくしの部屋で休んだらどうかしら」
『いえ、それはちょっと』
「遠慮しなくていいのよ。あとの仕事は息子に任せて、あなたはお部屋に行きなさい。そういえばわたくしに話があるとか。それを聞こうかしら」

 王妃様の真意が掴めなくて困惑しているうちに、王妃様はポリムと譲二さん、それに王妃様の専属従者を一人を残して従者を全員追い払ってしまった。ルーシェンがこっちを気にしながらもエルヴィンたち兵士と砦に戻って行く。真っ黒エルヴィンの近くにいてとり憑かれないか心配だ。

「こちらへいらっしゃい」

 手を引かれて再び飛行船に戻る。さっきは落ち込みすぎて何も目に入らなかったけど、あらためて眺めてみると、内装のどこを見てもキラキラしていた。王妃様の使っていた部屋はさらに豪華すぎて辞退しようとしたら
「この部屋に黒い影は入ってこられないわよ」
と言われて考えを変えた。

 専属従者に飲み物を頼み、ソファーに優雅に腰をかける王妃様。王妃様は今まで一度も周りにいたことのないタイプの女の人だから、接し方がいまいち分からない。部屋に二人でいると気まずすぎて寿命が縮む。

『あの、王妃様には見えているんですよね?』

 思い切って聞いてみると、王妃様はにこりと笑った。

「もちろんよ」
『では、どうしてあの男をプライベートエリアに呼んだんですか? あんな奴がルーシェンの妃になりたいなんて……もちろん、嫉妬してるから嫌なのもあるけど』

「ミサキは素直でいいわね。回復の聖獣が懐くのもわかるわ。ルーシェンが状態異常からはやく回復したのも、あなたが聖獣を渡していたからでしょう? そんなことにも気づかないなんて、ルーシェンにも困ったものね」

 王妃様は扇を広げてほほほと笑う。王妃様にはやっぱり見えていたのか。何もかも見えていて平然としているなんて凄い人だ。

「少し昔の話をしましょうか。国王陛下はね、ルーシェンと違って男女問わずいろいろな恋人を作るお方だったの。今もそうよ。見て見ぬふりをしていたけど、ある時考えを変えて、お相手をプライベートエリアに呼んだの。新しい妃を増やしてはどうかと陛下に進言までしたわ」

『そうなのですね……悲しくなかったのですか?』
「悲しくはなかったわ。国王陛下とは、そうね、なんと言ったらいいか、恋人というより、同志といった関係に近いのよ」

 そ、そうなのか?

「最初にプライベートエリアに妃候補としてやって来たのは若い娘だったわ。でもね、三日ももたずに逃げ出したの」
『えっ?』
「次に来た若い男もそう。十日は滞在していたかしら。泣く泣く妃候補を辞退したいといわれてエリアから出ていったわよ。それから国王陛下は新しい妃候補をたてなくなったの」

『何があったんですか?』

「国民はわたくしが追い出したと思っているけれど、わたくしは何もしていないわ。勝手に追い詰められて出て行くのよ。王宮のプライベートエリアにはあなたも知っての通り、守り神がいるでしょう?」

『はい。白い龍ですよね』

「あの守り神が王宮に住む人間や王族の一員に加わる者を選別しているの。過去の歴史を調べたら、このラキ王国では一人の王に同時期に複数の妃は存在していないらしいわ。それは女王でも同じ。たくさんの配偶者が欲しければ、王位を誰かに譲り、王宮を去るしかないのよ。
 守り神が見えているのはわたくしだけだから、皆はあくまでも噂だと思っているけれど。
 ルーシェンが恋人をエリアに呼んだと聞いた時、どのくらい滞在できるか興味があったけれど、あなたは守り神にとても好かれていて驚いたわ」

『私は認定式でシロ……いえ、守り神に食べられそうになって。これでも好かれてるんでしょうか』

「もちろんよ。あの時は神龍があなたにじゃれていたの。面白かったわ。だからプライベートエリアにエルヴィンが滞在したら、間違いなく追い出されるのは彼の方よ。守り神はあなたと違って非情だから、彼がどうなるか見ものね」

 王妃様、やっぱりあなたが一番怖いです。



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