好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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結婚式

6 脅迫

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 心配そうな譲二さんにお休みを言うと、王妃様の部屋に入ってベッドに横になった。

 視界が涙で滲む。
 エストが元気になったことは嬉しい。だけど、それを素直に喜べない自分が嫌だ。俺にだって何かできると思っていた。でも、どうせ俺が回復の聖獣を連れていったところで、みんなには見えないんだ。誰も俺に感謝しない。
 感謝してるのは、あの腹黒のエルヴィンにだけだ。あいつ、あんなに嫌なやつなのに。それを話しても王妃様以外には信じてもらえない。

 これまでは何をしても感謝してほしいなんて思わなかったけど、今はそれがつらい。兵士たちの中では俺は魔力なしのただの役立たずで、回復魔法ですら酔ってしまうお荷物で、戦えるわけでも、頭がいいわけでも顔がいいわけでもない。ルーシェンだって、いざという時は、俺じゃなくエルヴィンを頼りにしてた。じゃあ俺の役割ってなんなんだよ。どこにも居場所がないじゃないか。

 一度泣いてしまうと、ぼろぼろ涙が溢れた。回復の聖獣が俺の顔を覗き込んで短い手を伸ばす。それを抱きしめて、俺は声を殺して泣いた。

***

 朝がきた。
 起きた時、回復の聖獣は見当たらなかった。消えてしまったのかな。俺があまりに情けないから。
 ベッドにはルーシェンもいなかった。昨日使っていた従者の部屋にも戻った形跡はない。きっとエストについていたんだろう。

 起きて顔を洗う。鏡の中の俺は酷い顔をしていた。外は明るくなっていたけど、誰も起こしにきていない。なんだか全てがどうでもいいような気がした。

 やる気が起きなくて、その日はずっとベッドで過ごした。時々ポリムがやって来て、エストが良くなったことや、ルーシェンがエストについて交代で魔法をかけているという話をする。交代っていうのは、ポリムは言わないけどエルヴィンと交代なんだろう。

「ミサキ様……」
『なんですか?』
「いえ、その、お食事はもうよろしいのですか?」
『もう大丈夫です』
「でも、あまりお召し上がりになってません。ミサキ様のお好きなものばかりですよ?」
『今日はお腹がいっぱいです』
「そうですか……。あと一日もすれば王都に着くみたいです。懐かしいですわね」
『そうですね』
「体調が良ければ船内を散歩しませんか?」
『いえ、部屋にいます』

 ポリムが何か言いたそうにしていたけど、気にせず外を眺めた。眺めても何も目に入らない。正直にいうと、料理はゴムを噛んでいるみたいにまったく味がしないし、今は何を見ても景色が色褪せて見えた。

 ルーシェンはエストのこと以外でも仕事に追われていて、ベッドに横になっている俺を少し見に来ただけだった。
 そんな一日が過ぎていって、飛行船はようやく王都に到着した。ルーシェンに呼ばれて窓の外の景色を見に行ったけど、王都を見ても黄金の王宮を見ても、緑水湖を見ても特に感情が湧いてこなかった。二年前にあんなに懐かしさを感じた景色なのに。

 王妃様の飛行船は王宮の10階付近の広場に到着した。王宮で働く人たちが大勢出迎えてくれる。中には知った顔も複数あった。
 みんなに迷惑はかけられないから、仕事は淡々とこなした。兵士たちにねぎらいの言葉をかけたり、荷物を運ぶ様子を眺めたりした。
 大勢の前でルーシェンにべたべたするエルヴィンを見ても、あまり気にならなくなった。帰還を祝う言葉も音楽も耳に入ってこないんだ。入ってきても心が動かない。
 エルヴィンのオーラが黒すぎて近寄るのも嫌だから、エルヴィンとルーシェンが一緒にいる時はどうしても避けてしまう。それでも知り合いには挨拶できたし、隣の部屋に用意されていたパーティーの飲み物や食べ物は、味がしないけどみんなに合わせて口に運んだ。

 ルーシェンの挨拶が終わると、ルーシェンとエスト、それに飛行部隊は自分の飛竜を連れてトレーナー達と飛竜の島に飛び立った。飛竜の治療は島で続けられるという話だ。

 ぼんやりしている俺の代わりにフィオネさんがてきぱきと指示を出す。負傷兵達は二階の医療部屋に送られ、国王軍の兵士は手続きを済ませたあと、お迎えに来た家族と合流してそれぞれの自宅に帰って行った。

「エルヴィン殿、王妃様の命令により21階に居住棟をご用意いたしております。お仕えする侍女や侍従を紹介いたしますので、こちらで少しお待ちを」

「分かりました。プライベートエリアに住むことは私の夢でした。光栄です」

「ミサキ様は先に戻られますか?」
『いえ、私はもう少し休憩してから戻ります』
「そうですか。それではお二人ともこちらでお待ちください」

 フィオネさんとポリムや従者達が打ち合わせをしている間、広場の椅子に座って待つ。遠巻きに護衛兵がいるだけで、その場にいるのは俺とエルヴィンだけだ。

「王太子妃様」

 エルヴィンが笑顔で話しかけてきた。さすがにこの距離だと、聞きたくなくても声が聞こえる。

『なんでしょうか』
「実は王太子妃様のために、20階に一つ贈り物を用意しています」
『いりません』
「そう言わずにお聞きください。もとの世界に帰れる転移魔法陣ですよ」

 俺は顔を上げてエルヴィンをまともに視界に入れた。

「この国に王太子妃は二人も必要ない。あなたが素直に帰ってくれるなら、私もこれ以上何もしなくてすみます」

 エルヴィンは美しいと噂の笑顔で続けた。

「私も王子が可愛がっている飛竜を殺したくない。王子が嘆くところはあなたも見たくないでしょう?」

『やっぱりお前が』

「飛竜を殺したら次はあなたを殺します。遺体は王宮にでも吊るして差し上げましょう。もちろん、飛竜殺しの罪も被ってもらいます。そんなことになるより、大人しく元の世界に戻るほうがずっといいと思いませんか?」

『プライベートエリアには守り神が住んでる。お前のことを許すとは思えない』

「ご心配なく。今までどおりうまくやりますよ。王子が飛竜の島から戻ってくるまでに転移してくださいね。あなたが消えた理由は私が適当にでっち上げます。ロベルト隊長の元に戻ったとか」

『ロベルトさんを巻き込むのはやめてください』
「まあ消えてくれるなら希望に添いましょう。王子が戻ってもあなたがプライベートエリアに居続けるなら、飛竜の翼を落とします」





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