好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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結婚式

8 村の食堂

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『こんにちは。パンとスープをもらえますか?』

 店主はフードを目深に被った俺をちらりと見た。少し緊張したけど、先にお金を渡すと、強面の店主は笑顔になった。

「席に座って待ってな。ここで食っていくだろ?」

 目立たないように店の一番隅のテーブル席に座ると、窓の方を向いて外を眺めた。ここは一度も訪れたことのない小さな村の食堂だ。窓の外には小川が流れていて、木造の橋がかかってる。橋の向こうには民家やお店が並んでいる。
 村の名前はよく知らないけど、なんとなく緑水湖や王都に近い気がした。森と山に囲まれているから黄金の王宮や広い湖は見えないけど、きっと目の前の小川は緑水湖に流れ込んでいると思う。転移魔法陣は遠くに飛ぶほど魔力が必要だから。それとも、近くにいたいという俺の願望がそう思わせるだけで、本当ははるか遠くの村にいるのかも。

 王宮の20階で転移魔法陣を使ったあと、俺が転移したのは田舎の森の中の一軒家だった。二階建ての家には誰もおらず、でも掃除は行き届いていて、保存食に着替えなど、生活するのに必要なものが一通り揃っていた。
 如月が俺のために準備してくれたのか、日本語で書かれたメモも見つかった。家の中にあるものは自由に使っていいと書いてあり、お金がしまわれている場所も記入してあった。如月には本当に感謝してもしきれない。今度会えたらなんとかしてお金を返そう。

 その家で保存食を食べ、家の周辺を散策したりしておとなしく過ごしたけど、三日目に耐えきれなくなって家の外に出る。誰かに会いたかったし、あのあと王宮がどうなったのか少しでも情報が欲しかった。もちろん、エルヴィンとルーシェンが婚約するとか、エストが死んでしまうとか、怖い情報を聞いてしまう可能性もあったけど、それでも知りたい欲の方が勝った。

 森の中の道を進んで見つけたのがこの小さな村だ。一軒家の如月メモに近くの村の存在と道順が記してあったから、迷わずに来ることができた。

 小さな市場で生活必需品を購入し、人恋しくなって食堂に入る。正体がバレて連れ戻されたらエストが殺されるかもしれない。だから本当は食堂に行かない方がいいんだろうけど、誰か人の気配がするだけで孤独を感じなくてすむ。だから食堂でご飯を食べるくらいいいよな。

 後ろのテーブル席に二人組の男がやって来て座る。ガタイのいい男で、建築系の仕事をしているらしい。二人は王都の話をしていた。やっぱり王都に近いのかも。

「大勢の商人や旅行者が立ち往生してるって話だ」
「だけどな、あれは無理だ」
「そうだな。うかつに手を出したりすれば俺たちの命が危なくなる」
「しかし、あんなに頑丈な橋が落ちるなんてな」

 橋が落ちる? 緑水湖大橋のことだろうか。

『橋が落ちたって、緑水湖大橋ですか?』

 しまった。うっかり話しかけてしまった。でも二人の男は俺を見ても、気づかずフランクに返事をしてくれた。

「そうだ。お前知らんのか? あちこちで崩落してる。再建の目処も立っていない。人の被害が少ないのが幸いだな」

 目を見て話してもらえるのは久しぶりだ。

『なんでですか?』

 聞くと男達は目を見合わせた。食堂にいた別の女性が話に割り込んでくる。話好きな雰囲気を漂わせてる。

「あなた旅行者? 知らないなんて珍しいわね。今はどこの町もこの噂で持ちきりなのよ。王宮の守り神がお怒りになってるって話よ」

『王宮の守り神が……』

 それってシロのことだよな。

「見て来た人の話では、二日前から王都の空が真っ黒にそまって、そこからずっと大雨。落雷と暴風で緑水湖大橋は崩落、地下水道は半分以上水没したって聞いたわ」

 想像以上の内容に言葉を失う。

『そんな。原因は?』

「王子様と婚約されていた王太子妃様が失踪なさったんですって。国王軍の兵士が妃になるため王太子妃様を殺したとか、島送りにしたという噂よ。それで王宮の守り神がお怒りになったという話よ」
「そんなもの、あくまでも噂だろう」
「でも、あんなに王都が荒れていたことある? 空も緑水湖も大荒れで飛竜も飛行船も船も動かせないのよ。橋や地下道が封鎖されたら移動もできないわ」

 呆然としていると、店主が俺の前にパンとスープを置いた。

「ほらよ。お前ほそいな。たっぷり食っていけ」

 俺、こんなところでご飯なんて食べている場合じゃないかもしれない。

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