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結婚式
13 エルヴィン
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「ミサキ様! ご無事だったのですね……!」
王宮の20階で飛竜から降りると、大階段前の踊り場で顔見知りのみんなが待っていてくれた。ポリムが駆け寄って来たので、俺も走って行って手を握る。ギリギリで抱きつくのは我慢した。
『ポリム、心配かけてごめん』
「いいえ、ミサキ様がご無事なら良いのです」
ポリムも譲二さんのようにやっぱり泣いていた。あの時は余裕がなかったけど、みんなに心配かけたのだと思うと申し訳ない気持ちになる。
ポリムの後ろにはプライベートエリアで俺を支えてくれていた侍女たちや、飛行船で一緒に旅したみんなの姿も見えた。フィオネさんやジョシュもいる。みんなにも手を振ると、フィオネさんが俺とルーシェンの前に歩いてきて膝をついた。
「ミサキ様、よくお戻りになられました。臣下一同お帰りをお待ちしておりました。ミサキ様のおかげで王宮の守り神の怒りも鎮まり、水害もおさまりました。王都の民に代わりお礼を申し上げます。ご無事でなによりです」
『フィオネさんにも心配をかけました。私は大丈夫です』
「念のため治療師を呼んでおります。お部屋にご案内いたしますのでお身体を休めてください。王子、ご命令を」
「そうだな。俺は日没まで大雨被害の視察で王都をまわる。それまでシュウヘイを頼む。明日までに式の準備を終わらせておいてくれ」
「かしこまりました」
『ルーシェン、私も何か手伝います』
シロが大雨を降らせたことに責任を感じていたから何か手伝いたいけど、笑顔で断られた。
「駄目だ。シュウヘイは部屋で休んでいてくれ」
『でも、ルーシェンの方が疲れているのに』
「シュウヘイに会えて、王都の天候も回復した。最高の気分だからあと数日は眠らずに働けそうな気がする。復興の指示を出すだけだから大人しく待っていてくれ」
『分かりました』
ルーシェンと飛行部隊を見送って、久々に会えたみんなと再会を喜び合う。それからフィオネさんに連れられて大階段を上り、プライベートエリアに入った。
「うっ……」
久々に帰って来た懐かしいプライベートエリアだけど、神聖な空気はそのままなのに、以前と違う場所が一箇所あった。ルーシェンの居住エリアから少し離れた場所、王妃様のキラキラした住居の近くに真っ黒なエリアがあったのだ。
怖すぎて足を止めてしまう。見たくないのに見てしまうこの感じ。ぞくぞくと悪寒が背中を駆け上がった。
『あれは……』
「あちらはエルヴィン殿のいらっしゃる建物です。落雷で一部崩壊しましたが、現在は修復されております」
建物があったのか。全く見えなかった。
「ミサキ様、お気になさることはございませんわ。王子様はこちらにはほとんど足を運びませんの。待遇は悪くありませんけど、王妃様のご命令だから従っているだけで、エルヴィン様はみんなに嫌われてますのよ」
「余計なことをミサキ様に話すのではありません」
「……申し訳ありません」
『あの、行ってみていいですか?』
本当はかなり行きたくなかったけど、どうしても見なければいけないような気がした。
「ミサキ様を苦しめた人など放っておけばよろしいと思います」
『大丈夫です。ポリム、近くで見てみるだけなので』
ポリムが怒っているけど、この平和なプライベートエリアにあんな真っ黒な場所があって欲しくない。それに放っておくとルーシェンの居住エリアまで侵食してきそうだ。
反対するみんなを説得し、侍女たちを連れて真っ黒エリアに近づくと、だんだん目が慣れてきて暗い靄の中に佇む宮殿の姿が見えるようになった。
豪華な建物だけど、暗すぎて手探りじゃないと進めないから、お願いしてポリムに支えてもらった。しばらく進むと、部屋の中から何かの音とエルヴィンの声が聞こえてきた。
「こんな物食えるか! よくも私に毒を盛ったな! 治療師をよこせ! なぜ回復魔法が効かないのだ!」
「毒など入っておりません。お食事をお召し上がりください」
「うるさい、出て行け!」
これがあの落ち着いていたエルヴィンの声だろうか。侍女が疲れた様子で汚れた食器を持って部屋から出てきた。俺たちを見てぎょっとしたけど、涙目で膝をつく。
「ミサキ様、私をエルヴィン殿の担当から外してくださいませ。私は毒など盛っておりません」
『分かっています。ここは任せてしばらく休憩してきてください』
侍女はお礼を言って出て行った。
「うわ……」
部屋の中に大勢の黒い人がいた。影みたいなその存在は明らかにこの世のものじゃない。怖すぎる。真っ黒オバケと違って俺たちを襲ったりはしなかったけど、その間を通ってベッドの前まで進んだ俺の勇気を褒めてほしい。
「誰だ……」
折り重なる影の下から声がした。これがあのエルヴィンか。衝撃で言葉を飲み込む。俺を脅迫してきたあの時から、数日しか経っていないとは思えないほどエルヴィンは衰弱していた。
ベッドから起き上がれずに痩せ細った腕だけ出してうつ伏せでこっちを見ている。動けないんだろうな。無理もない。身体の上に真っ黒い人影が複数乗っている。何人いるんだろう。一番上にいる黒い影には見覚えがあった。砦でエルヴィンの背中にくっついたあの国王軍の兵士だ。
「ミサキ……お前だな。生きていたのか、よくも私に毒を盛ったな……」
王宮の20階で飛竜から降りると、大階段前の踊り場で顔見知りのみんなが待っていてくれた。ポリムが駆け寄って来たので、俺も走って行って手を握る。ギリギリで抱きつくのは我慢した。
『ポリム、心配かけてごめん』
「いいえ、ミサキ様がご無事なら良いのです」
ポリムも譲二さんのようにやっぱり泣いていた。あの時は余裕がなかったけど、みんなに心配かけたのだと思うと申し訳ない気持ちになる。
ポリムの後ろにはプライベートエリアで俺を支えてくれていた侍女たちや、飛行船で一緒に旅したみんなの姿も見えた。フィオネさんやジョシュもいる。みんなにも手を振ると、フィオネさんが俺とルーシェンの前に歩いてきて膝をついた。
「ミサキ様、よくお戻りになられました。臣下一同お帰りをお待ちしておりました。ミサキ様のおかげで王宮の守り神の怒りも鎮まり、水害もおさまりました。王都の民に代わりお礼を申し上げます。ご無事でなによりです」
『フィオネさんにも心配をかけました。私は大丈夫です』
「念のため治療師を呼んでおります。お部屋にご案内いたしますのでお身体を休めてください。王子、ご命令を」
「そうだな。俺は日没まで大雨被害の視察で王都をまわる。それまでシュウヘイを頼む。明日までに式の準備を終わらせておいてくれ」
「かしこまりました」
『ルーシェン、私も何か手伝います』
シロが大雨を降らせたことに責任を感じていたから何か手伝いたいけど、笑顔で断られた。
「駄目だ。シュウヘイは部屋で休んでいてくれ」
『でも、ルーシェンの方が疲れているのに』
「シュウヘイに会えて、王都の天候も回復した。最高の気分だからあと数日は眠らずに働けそうな気がする。復興の指示を出すだけだから大人しく待っていてくれ」
『分かりました』
ルーシェンと飛行部隊を見送って、久々に会えたみんなと再会を喜び合う。それからフィオネさんに連れられて大階段を上り、プライベートエリアに入った。
「うっ……」
久々に帰って来た懐かしいプライベートエリアだけど、神聖な空気はそのままなのに、以前と違う場所が一箇所あった。ルーシェンの居住エリアから少し離れた場所、王妃様のキラキラした住居の近くに真っ黒なエリアがあったのだ。
怖すぎて足を止めてしまう。見たくないのに見てしまうこの感じ。ぞくぞくと悪寒が背中を駆け上がった。
『あれは……』
「あちらはエルヴィン殿のいらっしゃる建物です。落雷で一部崩壊しましたが、現在は修復されております」
建物があったのか。全く見えなかった。
「ミサキ様、お気になさることはございませんわ。王子様はこちらにはほとんど足を運びませんの。待遇は悪くありませんけど、王妃様のご命令だから従っているだけで、エルヴィン様はみんなに嫌われてますのよ」
「余計なことをミサキ様に話すのではありません」
「……申し訳ありません」
『あの、行ってみていいですか?』
本当はかなり行きたくなかったけど、どうしても見なければいけないような気がした。
「ミサキ様を苦しめた人など放っておけばよろしいと思います」
『大丈夫です。ポリム、近くで見てみるだけなので』
ポリムが怒っているけど、この平和なプライベートエリアにあんな真っ黒な場所があって欲しくない。それに放っておくとルーシェンの居住エリアまで侵食してきそうだ。
反対するみんなを説得し、侍女たちを連れて真っ黒エリアに近づくと、だんだん目が慣れてきて暗い靄の中に佇む宮殿の姿が見えるようになった。
豪華な建物だけど、暗すぎて手探りじゃないと進めないから、お願いしてポリムに支えてもらった。しばらく進むと、部屋の中から何かの音とエルヴィンの声が聞こえてきた。
「こんな物食えるか! よくも私に毒を盛ったな! 治療師をよこせ! なぜ回復魔法が効かないのだ!」
「毒など入っておりません。お食事をお召し上がりください」
「うるさい、出て行け!」
これがあの落ち着いていたエルヴィンの声だろうか。侍女が疲れた様子で汚れた食器を持って部屋から出てきた。俺たちを見てぎょっとしたけど、涙目で膝をつく。
「ミサキ様、私をエルヴィン殿の担当から外してくださいませ。私は毒など盛っておりません」
『分かっています。ここは任せてしばらく休憩してきてください』
侍女はお礼を言って出て行った。
「うわ……」
部屋の中に大勢の黒い人がいた。影みたいなその存在は明らかにこの世のものじゃない。怖すぎる。真っ黒オバケと違って俺たちを襲ったりはしなかったけど、その間を通ってベッドの前まで進んだ俺の勇気を褒めてほしい。
「誰だ……」
折り重なる影の下から声がした。これがあのエルヴィンか。衝撃で言葉を飲み込む。俺を脅迫してきたあの時から、数日しか経っていないとは思えないほどエルヴィンは衰弱していた。
ベッドから起き上がれずに痩せ細った腕だけ出してうつ伏せでこっちを見ている。動けないんだろうな。無理もない。身体の上に真っ黒い人影が複数乗っている。何人いるんだろう。一番上にいる黒い影には見覚えがあった。砦でエルヴィンの背中にくっついたあの国王軍の兵士だ。
「ミサキ……お前だな。生きていたのか、よくも私に毒を盛ったな……」
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