好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

文字の大きさ
197 / 209
結婚式

13 エルヴィン

しおりを挟む
「ミサキ様! ご無事だったのですね……!」

 王宮の20階で飛竜から降りると、大階段前の踊り場で顔見知りのみんなが待っていてくれた。ポリムが駆け寄って来たので、俺も走って行って手を握る。ギリギリで抱きつくのは我慢した。

『ポリム、心配かけてごめん』
「いいえ、ミサキ様がご無事なら良いのです」

 ポリムも譲二さんのようにやっぱり泣いていた。あの時は余裕がなかったけど、みんなに心配かけたのだと思うと申し訳ない気持ちになる。
 ポリムの後ろにはプライベートエリアで俺を支えてくれていた侍女たちや、飛行船で一緒に旅したみんなの姿も見えた。フィオネさんやジョシュもいる。みんなにも手を振ると、フィオネさんが俺とルーシェンの前に歩いてきて膝をついた。

「ミサキ様、よくお戻りになられました。臣下一同お帰りをお待ちしておりました。ミサキ様のおかげで王宮の守り神の怒りも鎮まり、水害もおさまりました。王都の民に代わりお礼を申し上げます。ご無事でなによりです」
『フィオネさんにも心配をかけました。私は大丈夫です』
「念のため治療師を呼んでおります。お部屋にご案内いたしますのでお身体を休めてください。王子、ご命令を」
「そうだな。俺は日没まで大雨被害の視察で王都をまわる。それまでシュウヘイを頼む。明日までに式の準備を終わらせておいてくれ」
「かしこまりました」

『ルーシェン、私も何か手伝います』

 シロが大雨を降らせたことに責任を感じていたから何か手伝いたいけど、笑顔で断られた。

「駄目だ。シュウヘイは部屋で休んでいてくれ」
『でも、ルーシェンの方が疲れているのに』
「シュウヘイに会えて、王都の天候も回復した。最高の気分だからあと数日は眠らずに働けそうな気がする。復興の指示を出すだけだから大人しく待っていてくれ」
『分かりました』

 ルーシェンと飛行部隊を見送って、久々に会えたみんなと再会を喜び合う。それからフィオネさんに連れられて大階段を上り、プライベートエリアに入った。


「うっ……」

 久々に帰って来た懐かしいプライベートエリアだけど、神聖な空気はそのままなのに、以前と違う場所が一箇所あった。ルーシェンの居住エリアから少し離れた場所、王妃様のキラキラした住居の近くに真っ黒なエリアがあったのだ。

 怖すぎて足を止めてしまう。見たくないのに見てしまうこの感じ。ぞくぞくと悪寒が背中を駆け上がった。

『あれは……』
「あちらはエルヴィン殿のいらっしゃる建物です。落雷で一部崩壊しましたが、現在は修復されております」

 建物があったのか。全く見えなかった。

「ミサキ様、お気になさることはございませんわ。王子様はこちらにはほとんど足を運びませんの。待遇は悪くありませんけど、王妃様のご命令だから従っているだけで、エルヴィン様はみんなに嫌われてますのよ」
「余計なことをミサキ様に話すのではありません」
「……申し訳ありません」

『あの、行ってみていいですか?』

 本当はかなり行きたくなかったけど、どうしても見なければいけないような気がした。

「ミサキ様を苦しめた人など放っておけばよろしいと思います」
『大丈夫です。ポリム、近くで見てみるだけなので』

 ポリムが怒っているけど、この平和なプライベートエリアにあんな真っ黒な場所があって欲しくない。それに放っておくとルーシェンの居住エリアまで侵食してきそうだ。

 反対するみんなを説得し、侍女たちを連れて真っ黒エリアに近づくと、だんだん目が慣れてきて暗い靄の中に佇む宮殿の姿が見えるようになった。

 豪華な建物だけど、暗すぎて手探りじゃないと進めないから、お願いしてポリムに支えてもらった。しばらく進むと、部屋の中から何かの音とエルヴィンの声が聞こえてきた。

「こんな物食えるか! よくも私に毒を盛ったな! 治療師をよこせ! なぜ回復魔法が効かないのだ!」
「毒など入っておりません。お食事をお召し上がりください」
「うるさい、出て行け!」

 これがあの落ち着いていたエルヴィンの声だろうか。侍女が疲れた様子で汚れた食器を持って部屋から出てきた。俺たちを見てぎょっとしたけど、涙目で膝をつく。

「ミサキ様、私をエルヴィン殿の担当から外してくださいませ。私は毒など盛っておりません」
『分かっています。ここは任せてしばらく休憩してきてください』

 侍女はお礼を言って出て行った。

「うわ……」

 部屋の中に大勢の黒い人がいた。影みたいなその存在は明らかにこの世のものじゃない。怖すぎる。真っ黒オバケと違って俺たちを襲ったりはしなかったけど、その間を通ってベッドの前まで進んだ俺の勇気を褒めてほしい。

「誰だ……」

 折り重なる影の下から声がした。これがあのエルヴィンか。衝撃で言葉を飲み込む。俺を脅迫してきたあの時から、数日しか経っていないとは思えないほどエルヴィンは衰弱していた。
 ベッドから起き上がれずに痩せ細った腕だけ出してうつ伏せでこっちを見ている。動けないんだろうな。無理もない。身体の上に真っ黒い人影が複数乗っている。何人いるんだろう。一番上にいる黒い影には見覚えがあった。砦でエルヴィンの背中にくっついたあの国王軍の兵士だ。

「ミサキ……お前だな。生きていたのか、よくも私に毒を盛ったな……」

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

最弱オレが、最強魔法騎士様のパートナーになった件

竜也りく
BL
「最悪だ……」 その日イールはめちゃくちゃ落ち込んでいた。 イールが通う魔術学校の卒業試験は制限時間72時間の中でどれだけ強い魔物を討伐できるかで審査される上、二人ひと組のチーム選だからだ。 入学してからこのかた常にダントツ最下位を取り続けてきたイールと組むなんて誰だってイヤだろうと思うと気が重いのに、パートナーを見てさらにため息を深くした。 イールのパートナーは、入学以来ダントツで首席な上に、代々騎士の家系に生まれたせいか剣の腕にも定評がある。その上人を寄せ付けない雰囲気ではあるものの顔もいいという、非の打ちどころのない完璧さを誇る男だった。 しかも彼はとんでもないSランクの魔物を仕留めるだなんて言いだして……。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

処理中です...