好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

文字の大きさ
198 / 209
結婚式

14 やっと帰って来た

しおりを挟む
『毒なんて盛ってない。身体が重いのは自分のせいです。部下や知り合いを自分の欲のために犠牲にしてきたから』

「黙れ! 無能な異世界人め……お前に王太子妃という位は相応しくない」

『プライベートエリアにいるせいで、お前に取り憑いてる人たちが力を増してる。死にたくなかったら、下の階に引っ越した方がいい』

「出て行くのはお前の方だ……!」

「ミサキ様、もう行きましょう」

 ポリムに手を引かれて、真っ暗な宮殿を出た。言いたいことはいろいろあったのに、結局助言みたいなことしか言えなかった。相変わらず大嫌いだけど、あのままにしておくと近いうちに絶対に死ぬだろうという確信があった。どんなに嫌いでも殺したくないし、あんなところで亡くなって地縛霊にでもなったら迷惑すぎる。

「なんて無礼な方なんでしょう! 言いがかりも甚だしいですわ。ミサキ様は先ほど帰って来たばかりなのに毒を盛っているとか。回復魔法が使えるのに、王子様の気を引くために仮病まで使って大騒ぎして」

 そういえばポリムも侍女たちもフィオネさんも、あの黒いのが見えていないんだよな。だからエルヴィンが何をしても仮病に見えるんだろうな。

「エルヴィンは他の者が監視しておりますので、ミサキ様はお気になさらずお部屋へどうぞ」

『ありがとう』

***

 久々に戻ってきたルーシェンの住居は全てが懐かしかった。俺が持ち込んだマンガも部屋着もきちんと整理されて置かれている。初めて住んだ時に落ち着かなかった天井や壁のないルーシェンの寝室も、寝転がって空を見上げたら嬉しくて、やっと帰って来た実感が湧いた。

 しばらくしたら治療師さんがやって来て、あれこれ健康チェックを受ける。それが終わると入浴。追い立てられるように大勢の侍女や侍従に世話をやかれて、久々にプライバシーゼロ体験を味わった。婚約旅行の時はいろいろあったけど、一人の時間も多かったんだと今更ながら気づいた。

 お風呂上がりに着替え終わってソファーでくつろいでいると、フィオネさんがやって来てこれからのスケジュールを教えてくれる。

「日没までには王子が帰ってこられます。夕食はその時間にとられる予定ですが、ミサキ様が空腹でしたら何か軽食をご準備いたします。その後はお早めに就寝なさってください。明日は早朝から結婚の儀式がございます」

『結婚式って、ルーシェンと二人でするんですよね?』

「そうです。お二人で魔法陣を使い、上空にある離宮で儀式を行っていただきます。王子から三日は離宮に滞在すると仰せつかっております。お食事などはすべてこちらで用意しておりますので、何もご心配なさらぬよう」

 儀式って何をするんだろう。指輪の交換? 何も用意してないけど。

『何か準備しておいた方がいいことありますか?』

「何もございません。いつも通りでよろしいと思います」

 そうなのか。契約って言ってたから、魔法の呪文でも唱えてサインでもするのかな。
 そんなふうに考えていたけど、この考えはあながち間違ってはいなかった。

 フィオネさんに軽食を頼み、持ってきてもらったパンをかじりながら俺あての手紙や報告書に目を通す。いつもルーシェンにしかこなかった報告書が、今回から俺にも来ていたのには驚いた。それは各国から送られてくるプレゼントの目録とか、俺のグッズの売り上げ報告だとか。恐ろしいことにけっこう売れていて、緑水湖や周辺の街からも買いに来る人がいるのだとか。嘘みたいな話だ。
 さらにファンクラブの代表という人物から挨拶文と活動報告が来ていた。俺のファンって、いったいどこが好きでファンになるんだろう。返事書いた方がいいのかな。

 日没過ぎまで報告書を読んだり、ポリムや侍女たちと散歩したりしてのんびりした時間を過ごす。時々エルヴィンの住む建物を眺めて、相変わらず真っ黒な様子に憂鬱な気分にはなったけど。

 日が沈んでしばらくした頃、ルーシェンが帰って来た。

「おかえりなさいませ」
『おかえりなさいませ』

 侍女たちに倣って同じように整列して挨拶すると、ルーシェンが俺を見つけて抱きしめてくれた。

「シュウヘイ、遅くなった」
『お疲れ様でした。ご飯にしますか? それともお風呂?』
「シュウヘイは入浴はすませたのか?」
『お風呂は入りました。ご飯はまだです』
「では先に食事にするか」

 夕食はいつものようにルーシェンの居住区の建物の一階でとり、ルーシェンから壊れた橋や水没した地下道の被害状況を聞く。橋が治るまでしばらくかかりそうだけど、湖面が穏やかになったのでみんな船で移動しているらしい。地下道もかなり水が引いて、もうすぐ元通りになるそうだ。

「みなシュウヘイが戻ってきたことを喜んでいた」
『そうなんですか?』
「ああ。シュウヘイが王宮の守り神の怒りを鎮めてくれたと知っているからな」

 原因を作ったのも俺のような気がするけど、国民に嫌われてなくて良かった。守り神の存在は見えなくてもみんな信じてるんだな。


 


 
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...