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ep7.神官と聖騎士団
12 不安
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「ナラミテは古くから城塞都市として栄えています。この建物はナラミテで最も堅牢で、今は聖騎士第七部隊の駐屯地となっています。街には神殿もありますが、かなめ様の安全の考え、こちらにお部屋をご用意いたしました」
大きな鍵で開けられた扉の先は、かなり広い部屋だった。大神殿の俺の部屋より広いかも。バスルームもトイレも書斎なんかも備わっていて、それらが重厚なカーテンやレンガの壁で仕切られてる。奥に豪華な寝台が備えつけてあり、予備のベッドや長椅子もある。窓は少ないけど代わりに燭台がたくさん。
大神殿と違うところはデザインが無骨なところ。白い色や神子の模様もあるけど、無駄な装飾はあまりなくて、完全に実用的な執務室兼寝室といったところだ。
「足りないものがあれば何でも言ってください。飲み物と軽食は部下に運ばせましょう。それからお二人の耳に入れておかなくてはならないことが一つ」
「何でしょうか」
「ナラミテにかなめ様が戻られる話を聞きつけて、シュロク王子がこの都市に向かっているという話です。近いうちに到着するでしょう」
シュロク王子? 披露宴の時に姿を見たけど、色白でひょろっとした若者だった気がする。なんだか意地悪そうであまりいいイメージがない。王様が来なくてほっとしたけど、王子様だけでも嫌だな。
「王子が到着されても、こことは離れた場所にお部屋を用意するつもりですのでご安心を」
「それは助かるな」
俺が思ったことをアルバートが口に出した。
「王子が到着すると気が休まらないでしょうから、それまでお部屋で疲れを癒してください。世話をする神官を何人か待機させています」
「ありがとうございます。でも少し休憩したら聖騎士さんたちの治療に行ってもいいでしょうか。ジャック隊長もまだ治療が終わってません」
そう言うと、ジャック隊長は少し驚いた顔をした。
「それは……正直とても助かります。部下達もみな呪術師との戦いで呪いを受けている。かなめ様に直々に治療してもらえるならこれほど嬉しいことはない」
「では後で向かいますね」
ジャック隊長はアルバートに隊員達の場所を伝えて、俺に礼をして部屋から出ていった。
***
ルームツアーをして窓からの景色を眺めた。小さな木の窓を開けると、ごちゃごちゃしたナラミテの路地裏が見えた。砦の周りにたくさん住民が集まって何か話をしてる。素敵な眺めだな。
「神子が戻ったことを聞きつけて信者や国民が集まってるな」
「そうなの?」
「一瞬でもお前の姿が見えないか待機してるんだろう」
俺は慌てて窓を閉めた。真後ろに来たアルバートが俺を背後から抱きしめる。ゼフィーに乗っていた時はその体勢だったのに、部屋でそうされると恥ずかしくなる。昨日の夜のことを思い出して。
「シュロク王子か。やっかいだな」
「俺、あの人苦手なんだ……」
「王族はほとんどの国民が苦手だろうな」
「何しに来るんだろう」
「お前に会いに来るんじゃないか? 美しいとか褒められてだだろう」
「うわぁ、嫌だな……」
「それにダンスを踊る約束もしていたな」
「えっ?」
そんな約束したのすっかり忘れてた。いろいろあったから、王子も忘れていて欲しいんだけど。
「忘れてた。踊りたくないから、アルバートなんとか助けてね」
振り向いてそう言うと、顎に手を添えられてじっと見つめられる。契約……にはまだ早い気がするんだけど。
「アル……」
ちゅっと口付けされて、髪をくしゃくしゃにするみたいに撫でられた。ベッドもあるし、もしかして昨日の続き? なんて考えが頭をよぎったけど、動揺しているのは俺だけでアルバートはすぐに真顔になった。
「ジャック隊長にも聖騎士たちにも呪術痕があったな。呪術師との戦いはどうなったのか、あとで詳しく聞いておくか。お前を閉じ込めた呪術師の男はどうせ逃げ延びたんだろうけどな」
「あの人、似てたね」
「ああ」
地下道で顔を治したサデの王様と、呪術師のルドはよく似ていた。ルドの方が若いけど、血は繋がっている気がする。兄弟? それとも従兄弟とか。何で王様が呪いを受けていたのか分からないけど、王位を巡って争っていたのかもしれない。
「サデの王族の一部が呪術師集団に関係があることは間違いないだろうな」
「サデの神子さま、あの俺を捕まえていたルドって人を好きだったって仲間が言ってた。本当かどうかは分からないけど。もしかしたら呪術で従わせたのかもしれないし」
「呪術師なんかより神子の方が魔力が上だ。従わせるなんて無理じゃないか?」
「そんな事ないよ。魔力があったって、脅されたら逆らえない……大切な人を人質にされたら」
八百年前のアルの事を思い出して悲しくなり、アルバートをぎゅっと抱きしめる。
「よしよし。神子も大変だな。あとでジャック隊長やロジェにも伝えておくからあまり心配するな」
「うん」
アルバートは俺の不安を感じ取ったのか、しばらく背中を撫でてくれた。一人で抱えなくていいってこんなに安心するんだな。
大きな鍵で開けられた扉の先は、かなり広い部屋だった。大神殿の俺の部屋より広いかも。バスルームもトイレも書斎なんかも備わっていて、それらが重厚なカーテンやレンガの壁で仕切られてる。奥に豪華な寝台が備えつけてあり、予備のベッドや長椅子もある。窓は少ないけど代わりに燭台がたくさん。
大神殿と違うところはデザインが無骨なところ。白い色や神子の模様もあるけど、無駄な装飾はあまりなくて、完全に実用的な執務室兼寝室といったところだ。
「足りないものがあれば何でも言ってください。飲み物と軽食は部下に運ばせましょう。それからお二人の耳に入れておかなくてはならないことが一つ」
「何でしょうか」
「ナラミテにかなめ様が戻られる話を聞きつけて、シュロク王子がこの都市に向かっているという話です。近いうちに到着するでしょう」
シュロク王子? 披露宴の時に姿を見たけど、色白でひょろっとした若者だった気がする。なんだか意地悪そうであまりいいイメージがない。王様が来なくてほっとしたけど、王子様だけでも嫌だな。
「王子が到着されても、こことは離れた場所にお部屋を用意するつもりですのでご安心を」
「それは助かるな」
俺が思ったことをアルバートが口に出した。
「王子が到着すると気が休まらないでしょうから、それまでお部屋で疲れを癒してください。世話をする神官を何人か待機させています」
「ありがとうございます。でも少し休憩したら聖騎士さんたちの治療に行ってもいいでしょうか。ジャック隊長もまだ治療が終わってません」
そう言うと、ジャック隊長は少し驚いた顔をした。
「それは……正直とても助かります。部下達もみな呪術師との戦いで呪いを受けている。かなめ様に直々に治療してもらえるならこれほど嬉しいことはない」
「では後で向かいますね」
ジャック隊長はアルバートに隊員達の場所を伝えて、俺に礼をして部屋から出ていった。
***
ルームツアーをして窓からの景色を眺めた。小さな木の窓を開けると、ごちゃごちゃしたナラミテの路地裏が見えた。砦の周りにたくさん住民が集まって何か話をしてる。素敵な眺めだな。
「神子が戻ったことを聞きつけて信者や国民が集まってるな」
「そうなの?」
「一瞬でもお前の姿が見えないか待機してるんだろう」
俺は慌てて窓を閉めた。真後ろに来たアルバートが俺を背後から抱きしめる。ゼフィーに乗っていた時はその体勢だったのに、部屋でそうされると恥ずかしくなる。昨日の夜のことを思い出して。
「シュロク王子か。やっかいだな」
「俺、あの人苦手なんだ……」
「王族はほとんどの国民が苦手だろうな」
「何しに来るんだろう」
「お前に会いに来るんじゃないか? 美しいとか褒められてだだろう」
「うわぁ、嫌だな……」
「それにダンスを踊る約束もしていたな」
「えっ?」
そんな約束したのすっかり忘れてた。いろいろあったから、王子も忘れていて欲しいんだけど。
「忘れてた。踊りたくないから、アルバートなんとか助けてね」
振り向いてそう言うと、顎に手を添えられてじっと見つめられる。契約……にはまだ早い気がするんだけど。
「アル……」
ちゅっと口付けされて、髪をくしゃくしゃにするみたいに撫でられた。ベッドもあるし、もしかして昨日の続き? なんて考えが頭をよぎったけど、動揺しているのは俺だけでアルバートはすぐに真顔になった。
「ジャック隊長にも聖騎士たちにも呪術痕があったな。呪術師との戦いはどうなったのか、あとで詳しく聞いておくか。お前を閉じ込めた呪術師の男はどうせ逃げ延びたんだろうけどな」
「あの人、似てたね」
「ああ」
地下道で顔を治したサデの王様と、呪術師のルドはよく似ていた。ルドの方が若いけど、血は繋がっている気がする。兄弟? それとも従兄弟とか。何で王様が呪いを受けていたのか分からないけど、王位を巡って争っていたのかもしれない。
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「うん」
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